ライフスタイル

【#2】ものに宿った力とやら

2022年3月21日

text & photo: mei ehara
edit: Yukako Kazuno

去年のある時から、身の回りのものを整理したい欲求が強まった。
私には「必要ないけどにそばにおいていたい」という一番ダメな収集癖がある。ここ10年ほどは特に民芸品に目がなく、かなりの数の民芸品を収集してきた。だるま市で毎年少しずつ大きなだるまに買い替えたり、リサイクルショップをパトロールしたり、訳のわからない物を買ったり。部屋の中を好きなもので埋め尽くして、ごちゃつかせているのがかえって落ち着くような女だった。
そんな私が、突然身の回りのものを整理したいと思いはじめた。理由は明白で、ビンボーだからでも最近流行りのミニマリストに転じたわけでもない。一つ一つのパワーが強すぎる!ということだ。別にスピリチュアルな方面に目覚めたわけではない。ものに宿ったパワー、確かにあると思う。

私が民芸品に魅力を感じて世界中のあれこれを集めてきたのは、民芸品に人の痕跡や気配を感じて、愛くるしく思えるからだ。一つとして同じものはなくて、そのものに染み付いた背景や作る人の存在を感じ想像することがロマンであり、私にとっての民芸品の楽しみ方。ところが急にムズムズしだした。これまで感じたことのないはじめての感覚。この先も無限に集めていくだろうと思っていたのに、気がついたら徐々に片付けはじめていた。片付けるだけじゃ気が済まず、去年の暮れに参加したフリマでも、周りに驚かれる量の民芸品を手放した。どれもお気に入りのものだけれど、不思議と別れを惜しむような気持ちはしなかった。なんなら売れ残ったものは友人にあげた(押し付けた)。私の中で起きた変化は一体。
……とか言いつつ、相変わらず無意識にヤフオクで「民芸品」と検索しているのでそのうちまた集め出しているかもしれないけれど。自分にとって予想外な心境の変化だなあと思った。

ものに込められたパワーといえば、奈良県吉野のお山の高いところに、金峰山寺というお寺がある。修行道で有名なお寺で、私はそこの御本尊の金剛蔵王大権現を定期的に観に行くことを楽しみとしている。
金剛蔵王大権現は秘仏のため普段は扉を閉じられていて、観られるのは決まった御開帳のシーズンだけ。そこを見計らって金峰山寺へ行くのだ。今年の春は、今月3月26日から5月8日まで御開帳だそう。金峰山寺へ行くにはロープウェイに乗らなければならないのだけれど、その道は千本桜といって桜の名所なので、3月末ならば桜が見頃で絶景だろう。残念ながらそういう季節に私は行ったことがない上、ここ数年は余裕がなく観に行けていない。
金剛蔵王大権現は一体ではなく、微妙に大きさの違う同じ容姿の三体が横一列に並んでいるかたちだ。三体のある本堂の前は広々とした畳になっていて、好きな場所に座って像を眺めることができる。暮らす街から遠く離れて、現代的なものは何一つ視界に入らないような山の上の開放的すぎる畳の上に座っているだけでも、洗われるような良い気持ち。
無宗教ゆえ宗教的なことは何一つとしてわからないけれど、とにかく金峰山寺の三体の金剛蔵王大権現は、私の一番好きな仏像だ。
仏像を見るといつも「これを機械もない時代に手だけで……」という稚拙な感想が一番に浮かぶけれど、金剛蔵王大権現は特別それだけではなかった。
金剛蔵王大権現を観る前までの個人的ベスト仏像は唐招提寺の千手観音で、あちらも悲鳴を上げたくなるくらい凄いと思っているのだけれど、金剛蔵王大権現はさらに上回る感動があった。畳に座って下から見上げた時、立ち上がれなくなってキョトンとしてしまうような、波動でも出ているんじゃ無いかと思うような迫力が金剛蔵王大権現にはあって、だから何度も体験したくなる。
私が東京でトイレに入っている間も、吉野のお山の高いところに、まるで時間が止まったかのような様子の金剛蔵王大権現が立っているのだと思うと、心臓がギュンッ!となる。恋?
観た目や詳しいことについては、文字数の関係上書けないので(書いたら3000字になってしまった)、ぜひGoogle検索をお願いします。

金剛蔵王大権現はインド由来ではない日本オリジナルの神様だそう。名前の「金剛」は文字通り屈強さ、「権現」は、その世界に相応しい仮の姿という意味のようで、この三体の本来の姿は、私たちがよく知っている優しそうな「お釈迦さま」「観音さま」「菩薩さま」の姿なのだそう。それがああいった姿で表されたのには、一体どういう理由があったんだろう?込められた想いが、これほどまで人を圧倒するパワーに繋がったのじゃなかろうか。

プロフィール

mei ehara

1991年、愛知県出身のシンガーソングライター。学生時代に宅録を開始する。2017年にキセルの辻村豪文プロデュースによる1stアルバム「Sway」を発表しカクバリズムからデビュー。翌2018年に「FUJI ROCK FESTIVAL」に出演を果たした。2020年4月に7inchアナログ「昼間から夜」、5月にセルフプロデュースした2ndアルバム「Ampersands」をCDと12inchアナログでリリース。また音楽活動の傍ら文藝誌「園」の主宰を務めており、王舟、藤森純(The Buffettment Group / 東京スプラウト法律事務所)と立ち上げたインタビュープロジェクト「DONCAMATIQ」や、他アーティストの写真撮影やデザイン制作などにも携わる。

http://eharamei.com/