カルチャー
Say Hi to Sandy Kim
interview by 野村訓市
2026年5月13日
「Scooters For Peace」で開催中の展示「Foggy Days」。その設営とオープニングレセプションのために、わずか2泊3日で滞在していたフォトグラファーのサンディ・キムに、旧知の仲である野村訓市先輩がインタビュー。サンディはコマーシャルフォト、アーティストフォトなど幅広いジャンルで活躍していて、ポパイ読者なら〈Supreme〉のキャンペーンフォトでその名前を聞いたことがあるかも……?
春の日差しの中、レセプション前の落ち着いたギャラリーの中でリラックスしたムードで会話もスタート。
野村訓市: さて、何を話そうか。
サンディ・キム: わかんない(笑)。何を話せばいい?
野村訓市: ええと、サンディは今LAに住んでるよね、もう何年になる?
サンディ・キム: 12、14年、いや、たぶん9年くらいかな。あ、いや、待って。10年だわ(笑)。
野村訓市: 10年か。じゃその前は?
サンディ・キム: その前はニューヨークにいたの。
野村訓市: 何年間だか覚えてる?
サンディ・キム: 覚えてないな、合ってるかな? 5年、かな。
野村訓市: じゃあ、ニューヨークの前はどこに?
サンディ・キム: サンフランシスコ。
野村訓市: そう、というわけでサンフランシスコの話をしよう(笑)。
サンディ・キム: わかった。そして今回のショーについてもね。
野村訓市: 今回の展示写真は、サンディがサンフランシスコに住んでいたときに撮られたものだよね? 何年くらいいたの?
サンディ・キム: どうだったかな……。4年間かな。インタビューに来る前に自分の経歴を調べておくべきだったわ、人に聞かれると頭が真っ白になっちゃうから。2000年から2004年だったと思う。
野村訓市: サンフランシスコに引っ越した理由は?
サンディ・キム: オレゴン州のポートランドの高校から、グラフィックデザインを学ぶためにサンフランシスコの大学に行ったの。
野村訓市: どうしてサンフランシスコが良いと思ったの?
サンディ・キム: ポートランドから離れたかったの。都会に行きたかったんだけど、ニューヨークは遠すぎたし。ただ、家族から少し離れたかったんだよね。
野村訓市: サンディがいた頃のサンフランシスコはどんな感じだった? ’90年代はミッション地区に住む若いアーティストがたくさんいて「ミッションスクール」とか呼ばれて盛り上がっていたけれど。バリー・マッギーとかマーガレット・キルガレン、クリス・ヨハンソンとか。街全体としてはどんな感じだった?
サンディ・キム: ライブ音楽のシーンが盛り上がってて、ホームパーティもたくさんあって。パーティ、セックス、ドラッグ、ロックンロールって感じ、基本的にね。
野村訓市: そして君はパーティガールだったと(笑)。
サンディ・キム: ええ、筋金入りのパーティガール。そこからすべてが転がり落ちていったの(笑)。
野村訓市: 当時の1週間のルーティンはどんな感じ?
サンディ・キム: 1週間? 毎日飲んでたわ。毎日飲んで、学校に行く。学校に行って、その後また飲む。徹夜して、また学校に行く。その後飲んで、ライブに行く。ドロレス・パークを歩き回ったり。あっちこち、うろうろとしてた。パーティ、学校、パーティ、学校。最終的にはただのパーティだけになって、学校の課題は締め切りギリギリにまとめてやってたわ。
野村訓市: グラフィックデザインの学校に通ってたといっていたけど、写真を撮り始めたのはいつ?
サンディ・キム: サンフランシスコに来てから写真を撮り始めたの。
野村訓市: カメラを手に取ったきっかけは?
サンディ・キム: 周りのみんな、クリエイティブな人たちにインスパイアされたんだと思う。オレゴン州のポートランドに住んでいた頃は、アジア系のギャングみたいな人たちとしか連まなかったから、アートに触れる機会がほとんどなかったの。アジア系の不良の生活って感じ。それから終わりの方になって、エモ系のライブとかに行くようになった。そこからかな、サンフランシスコのアートシーンの方がポートランドよりもずっと活気があるって気づいたのは。写真に関しては、父が持っていたポラロイドカメラを見つけたから、ポラロイドを撮ることから始めた。
野村訓市: それが君にとっての最初のカメラだったんだね。
サンディ・キム: そう、私の最初のカメラ。すごく簡単で、完全にオートで。それから友達のブライアンがブログを作ってくれて、それを見た人たちがいるってことが、もっと写真を撮る励みになったの。自分のブログを見て、みんなが私の写真を気に入ってくれてることに気づいた。それで、自分の日常生活を記録し始めたの。
野村訓市: 身の回りのことを。
サンディ・キム: そう、身の回りのことを。
野村訓市: メインのカメラはそれからは何を使ってたの?
サンディ・キム: メインのカメラはね、スリフトストアで〈オリンパス〉のStylus Epicを見つけたの。実は盗んだんだけど、ええ、それは悪かったわ。それがポラロイドの次の、私にとって最初の、あるいは2番目のカメラだった。
野村訓市: それは今も持ってる?
サンディ・キム: ええ、持ってるけど、壊れちゃってる。私の家は〈オリンパス〉Stylus Epicの墓場みたいなの。
野村訓市: たくさん持ってるんだね(笑)。
サンディ・キム: たくさん、たくさんの壊れたカメラをね。捨てずに取ってあるの。
野村訓市: とにかくそうやって、周りの写真を撮り始めたんだね。身の回りの。それで、何か特別な思い出はある? ここにある展示された写真は全部当時の日常に起きたことだと思うけど。
サンディ・キム: ええ。たとえばあれは私が行ったBuzzerのライブね。これは撮ったの覚えてないな。頭に紙袋被った人たちの写真はね、「Filth Mongers」っていう友達のバンドのライブで、彼らは頭に紙袋を被るのがスタイルだったの。だからあれを撮った日のことは覚えてる。
野村訓市: 彼らはいつも紙袋を被ってたの?
サンディ・キム: ええ。ライブをするとき、バンドメンバーが……実はそのうちの一人のジョーダンは亡くなってしまったんだけど、紙袋を被って、それが彼らのスタイルだった。そういう風にライブをして、みんなが見てた。彼らは観客にも紙袋を配ったりしてたわ。
野村訓市: なるほど。じゃあ、パーティの写真を見てみようか。
サンディ・キム: パーティはたくさんあったわね。そしてこれは、私にとって大きなミューズだった友達のアンドレアの寝室に飾ってあったもの。これは友達のキャメロン。
野村訓市: これはバーだね。君がよく入り浸ってた場所?
サンディ・キム: ええ、ミッション・バーにはよく行ってた。『フォーン・ブース』(ミッション地区にある溜まり場のようなバー)にも行ったわ。『フォーン・ブース』の写真はないけど。
サンディ・キム: 家でパーティをしたときの写真がそこにあるでしょ? 家がめちゃくちゃになったときの。みんながアパートの外側全体にグラフィティを描いちゃって。だから丸一日かけて消して。まあ、みんな手伝ってくれたけど、見事に破壊されたわね。家でよくパーティをしてたから近所の人がいつもドアに「近所の迷惑を考えてください」ってメモを残していってたな。最終的には追い出されちゃったんだけど(笑)。パーティハウスだったのよ。数あるパーティハウスの一つ。そんな感じ。
過去の記憶と人生のリセット
野村訓市: 今回の写真を過去に展示したことはある?
サンディ・キム: いくつかはあるわ。けれど一つのコレクションとしてはやったことない。
野村訓市: サンフランシスコのまとめとして全部を一緒に展示したのは今回が初めてと。企画テーマはどうやって決めたの?
サンディ・キム: 私がコンセプトを考える間もなく、ノリ(Scooters For Peace)が「サンフランシスコで!」って感じだったから、「わかった、任せて。あの時代の写真は山ほどあるから」って答えたの。
ノリ(Scooters For Peace): サンディ、今回の展示はKunがきっかけなんだよ。自分のリストにはずっとサンディは入ってたんだけど、あるとき、Kunに誰か展示するのに良いアーティストいない? って尋ねたらSandyと。で直ぐに連絡したの。
野村訓市: 編集していると、サンフランシスコの仲間たちのことを思い出したりしたんじゃない?
サンディ・キム: ええ、少し気が重かったわ。もうこの世にいない人たちの写真も見返すことになるし、それに、私の……なんというか、依存症が始まった場所でもあるから。暗い話はしたくないけど。
野村訓市: でも、そんなこと含めてこれこそ君の青春の記録みたいなものだよね。
サンディ・キム: ええ、私の青春。自分の写真のスタイルを確立した場所みたいなものでもあるわ。
野村訓市: でも、振り返ってみて、「ああ、ここから始まったんだな」って思えるのは素晴らしいことだと思うよ。
サンディ・キム: ネガを見ているだけで、すっかり忘れていたたくさんの記憶が呼び起こされたわ。「この目的忘れてた」とか「この夜のこと忘れてた」って。ネガを見返すのは、まるでタイムトラベルしているみたいだった。
野村訓市: それが写真の存在意義だよね。
サンディ・キム: ええ。日記みたいなもの。
野村訓市: それで、学校を卒業した後、ニューヨークに引っ越したんだよね。サンフランシスコを離れた日のことを覚えてる?
サンディ・キム: ええ、基本的には何も持っていかなかった。全部置いていったの。全部道端に置いて、バッグ一つでニューヨークに飛んだわ。元彼がバンドのツアーに出るってなってて、「ふざけんな」って感じだったんだと思う。それから、全部は持っていけないって気づいて。だから全部道端に置いて、ニューヨークでやり直したの。でも、それが私のやり方なのよね。ただリセットするの。だけど、ちょっと憂鬱というか、最悪な気分になりもする。「ああ、何年もかけて集めた本や物を全部失っちゃったな」って。最後には「ちくしょう、やり直すか」ってなるんだけど(笑)。やっぱり「自分の物が欲しい」とも思うから。
野村訓市: まさかニューヨークを離れるときも同じことはしたんじゃ?
サンディ・キム: やり直すときは同じことをしたわ。全部置いてきた(笑)。アート作品がいっぱい詰まったトランクルームがあったんだけど、支払いをやめちゃったの。だから、あれがどうなったかもわからない。
野村訓市: LAの家には何があるの?
サンディ・キム: LAには、母がくれたものがたくさんある。LAの家はお年寄りの家みたい。LAに引っ越したときも最初からやり直さなきゃいけなかったから(笑)。
野村訓市: 当分引っ越さないといいけど(笑)。
サンディ・キム: ええ、そのつもりはないわ。向こうで家を買ったばかりだから、今はそこから動けない感じ。動けないわけじゃないけどね。いつでもやり直せるし。
野村訓市: 最近は何に取り組んでるの?
サンディ・キム: 最近はコマーシャルの仕事が多いかな。それから、本を作ろうとしてるの。私の人生のすべての章みたいな、現在に至るまでの全部を。でも、ものすごく時間がかかってる。
野村訓市: じゃあ、今回の展示が少しは役に立ったんじゃない? サンフランシスコの章ができたわけだから。
サンディ・キム: ええ。全部見つけるのに1週間以上かかったわ。ネガが全然整理されてなくて。もう、めちゃくちゃなの。だから、全部探し出すのに永遠に感じるくらい時間がかかった。見つけた後に整理しておけばよかったんだけど、ただ箱に戻して「あとでやろう」ってしちゃったのよね。友達で、『Little Big Man Gallery』を運営しているニックが出版したがってるの。
野村訓市: まあ、そろそろ本腰を入れないとね。本を作るには締め切りを設定しないと。
サンディ・キム: それが問題なのよ。ニックは私に締め切りをくれないし(笑)。ただ私がInstagramに投稿してると、「本の方も進んでることを願うよ」って連絡はくるんだけど。まだ1章しか終わってない。
野村訓市: 展示会を開いてみたら? 君の人生の各章ごとに。
サンディ・キム: それは良いアイデアね。
野村訓市: だろ? だから今が「サンフランシスコ・デイズ」で、次は「ニューヨーク・パート1とパート2、昼と夜」だ。
サンディ・キム: (笑)。
野村訓市: それから「LA」。
サンディ・キム: そしたら本が完成するわね。
野村訓市: これの前、最後に展示をしたのはいつ?
サンディ・キム: グループ展にはたくさん出てるけど、個展は「Ever Gold」以来やってないかな……。あ、いやいや、『Little Big Man Gallery』だ。それが2000……何年か忘れちゃった。でも、それは自分のスタジオを再現したから、もっとインスタレーションみたいな感じだったの。コンピューターを置いて、みんなが中を覗き見れるようにして。ボタン一つで、自分のスタジオにあるものをそのままギャラリーに持ってきたような。それが最後ね。今、調べてる……。2017年だわ。
野村訓市: それを撮った日のこと覚えてる?
サンディ・キム: 覚えてる。アンドレアと、友達のエディと一緒にいて。その日の写真がいくつかあるんだけど、丘の上で彼女に野原を歩いてもらって、「今、写真を撮る」って言ったの。あれはある絵画を思い出させるの。なんだったかな。名前を思い出せない絵画に似てるの。誰かの世界、みたいな。あ、『クリスティーナの世界』だ。そう。女の子が野原で後ろを振り返ってるような絵。すごく素晴らしいの。アンドリュー・ワイエスね。
野村訓市: 今日はいろいろと思いを語ってくれてありがとう。あとね、一つ聞きたいんだけど。最近、若い子たちがカメラを持ってフィルム写真を撮ることが増えて来たと思うんだけど。撮るときに大事なことってなんだと思う? この瞬間を切り取ろうとか、フレーミング、画角が大事なのかとか。サンディが写真を撮るときに一番大事にしてるのは何?
サンディ・キム: 構図とシチュエーションの両方ね。だって、ただ楽しく遊んでて構図なんて全く考えてないときもあるし、一方で意図的に構図を探している写真もあるから。あの風船の写真みたいにね。彼が窓からよじ登ってくるのを待っていたりしたから。花の写真もそうよ、構図とシチュエーションの両方。友達が紫色の手袋をしていて、私が「花の中に手を入れて」って具体的に指示したの。そういう風にね。だから、両方かな。
野村訓市: もし若い子たちがやってきて、「フォトグラファーになりたいんだけど、常に何を心に留めておくべき?」って聞かれたら、なんて答える?
サンディ・キム: ライティングと構図ね。
野村訓市: ライティングが大切だと。
サンディ・キム: ええ。そう思うわ。でも、それは時間をかけて培っていくものでもあるけど。いや、そこまででもないかな。ニューヨークに行ってからより強く感じるようになった気がする。すべてじゃないんだけど、このあたりの見え方が好きなんだよね。全部、自然光。光が人に当たる感じとか。薄いカーテンがある部屋が好き。光が赤っぽく差し込んで、部屋を染めてくれるから。構図のセンスが良くて、ライティングを意識すること。それが心に留めておくべきだって伝えるわ。
野村訓市: わかった、ありがとう。これは若い読者たちへのいいアドバイスだと思う。
サンディ・キム:今日はありがとう!
インフォメーション
Sandy Kim Foggy Days
会期:4月18日(土)〜5月30日(土)
休館日:日曜日、月曜日
開館時間:13:00~19:00
場所:Scooters For Peace(東京都渋谷区神宮前2-19-5)
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