カルチャー

バカンス先のビーチで潮騒をバックに熟読したい3冊。

8月はこんな本を読もうかな。

2025年8月1日

text: Keisuke Kagiwada

『ジェイムズ』
パーシヴァル・エヴェレット (著) 木原善彦(訳)

 マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』を、ハックと旅路をともにする黒人奴隷ジムことジェイムズの視点から語り直したら? そんな発想に基づくこの実験的小説が浮かび上がらせるのは、「紋切り型で差別的」とされてきたオリジナル版とは異なる”シグニファイング・モンキー”的なジェイムズの人物像や、奴隷制の残酷さ。著者は映画『アメリカン・フィクション』の原作を書いた人。だからこそ、皮肉的な笑いには事欠かない1冊だ。河出書房新社/¥2,750

『この会社は実在しません』
ヨシモトミネ (著)

 話題作『近畿地方のある場所について』と同じく、小説投稿サイト「カクヨム」での連載から書籍化へと至ったホラー・モキュメンタリー小説。とある製菓会社で謎めいた資料の束(かなりグロい)を発見した主人公が、それを調べるうちに同社をめぐる末恐ろしい真実に辿り着く。ときに純粋に怖く、ときに感動的な青春譚にもなると同時に、ブラック企業の”やりがい搾取”への思索をも促してくるあたり、お見事。KADOKAWA/¥1,540

『ファッションセオリー ヴァレリー・スティール著作選集』
ヴァレリー・スティール (著)  平芳裕子、蘆田裕史 (監訳) 五十棲亘、鈴木彩希、工藤 源也 (訳)

 ファッション・スタディーズのパイオニアであり、第一人者でもある著者のエッセイ集だ。僕たちからすれば信じられないことだけど、かつてファッションを研究することは、アカデミズム界隈では忌避されていたらしい。それは界隈を牛耳る人々が服装に無頓着だったからでもあるだろう。それでもなお果敢に、かつ脱領域的に、ファッションについての思考を磨き上げてきたその言葉は、着ることが専門の僕らにこそ刺激的だ。アダチプレス/¥6,600