TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】CineYamaへの道のり
執筆:マシュー・ケルソン
2025年12月24日
ネットフリックスでは、制作やデザイナーと連携しながらキービジュアルをデジタルストリーミングという新たなメディア用に作り直す仕事から始まり、後に同社の日本進出をサポートするために東京にも行くようになりました。
やがてスクリーニング・チームに異動して世界中の映画祭で作品を上映し、数年後にはAPACスクリーニング・チームのリーダーとして東京に移りました。その段階ですでに10年近くが過ぎていたのですが、気づけばデトロイトの古いシネマのことを思い出している自分がいました。
奇遇にも同じ時期に、上野原に暮らす人たちと出会いました。
コロナ禍中、上野原を訪問するようになり、都会の喧騒から離れ、穏やかな山や川に囲まれると心が充電されるようでした。当時、娘はまだ3歳で、妻と私は広く自然に囲まれたところでの子育てを考えるようになり、やがて上野原への引っ越しを決意し、川沿いに小さな家を借りて人生の新たなステージへと進みました。
引っ越しても相変わらず海外に出向いていたけれども、地元に近いところで何かを作りたいという気持ちは健在でした。自分はいつだって己の情熱と夢を追いかけ、それこそが人生の醍醐味で、その探究心が自分を世界の反対まで来させてくれたと思っています。
映画は人と共有したい夢で、映画体験を共にすることで日々がより豊かになると信じている。上野原には最高の土台があったし、我が子たちに夢を実現する姿を見せ、夢は意志と努力さえあれば叶うことを教えたかったのです。
新しい何かを作りたいという気持ちが強まるなかで、ある日、古い蔵を素敵なカフェに改造した『ハシドイ』という店のオーナーの彩荷さんと出会いました。彼女の場所作りへの情熱は共感できることばかりで、彼女やその仲間たちはミニシネマを作るアイディアに賛同してくれて、市とも繋げてくれました。
「ザ・バートン」を作ってから、ミニシアターを作るには学校が最高の場所だと思うようになっていました。若い人たちの想像力や将来を形成する場である学校は映画との相性がピッタリで、市にいくつかの廃校を案内してもらいました。
そのうちの一つは、桜が並ぶ坂の上にある幼稚園で門の近くには竹林がありました。古い門はすっかり錆びていたけれども、その奥にある園舎はさらにひどい状況でした。傾斜した屋根と時計塔もかつての輝きを失って錆びだらけ、園庭も雑草に覆われていました。
でも、見た瞬間にピンと来たのです。
そこは『千と千尋の神隠し』に出てくるような時が止まった空間で、生まれ変わるのを待ちわびているような場所だった。古い時計塔が夜、光に照らされ、時計があったところに映画のリールがある風景が目に浮かびました。映画好きが集う場所。
ミニシアターへと作りかえることは間違いなく大変な作業だけど、夢を無視することは出来ませんでした。
それがCineYamaへの第一歩になりました。
プロフィール
マシュー・ケルソン
アメリカ・デトロイトで、廃校を利用した100席のアートハウス映画館「バートン・シアター」を共同設立。その後、Netflixに10年以上勤め、オリジナル映画やシリーズのプレミアや特別試写会の技術的な企画・実行を世界各地で担当。現在は妻と2人の子どもと共に山梨の里山に住み、廃園になった幼稚園を「CineYama(シネヤマ)」というミニシアターに作り変えています。日本と世界の映画を紹介する、新しいシネマを作っています。
Instagram
https://www.instagram.com/cineyama
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