フード
レバノン料理店『アル・アイン』/異国の店主と土地の味。Vol.22
インタビュー・土井光
2023年10月13日
各地のローカルな風を届けてくれる東京近郊の外国料理店の店主を、
料理家の土井光さんと巡るコラム。
土井光(以下、土井) 『アル・アイン』は、アラブ諸国のアラビア料理を食べられるそうですが、アラブ諸国と一口に言っても、どの国が含まれるのですか?
ジアード・カラム(以下、ジアード) アラビア語を話すアラブ人が多く暮らす国というふうに定義されていて、僕の生まれたレバノンはもちろん、アラブ首長国連邦、ヨルダン、シリアなどの中東地域の国と、モロッコやチュニジアなどのアフリカ大陸の国も合わせて20か国ほど含まれます。宗教もいろいろで、ワタシのようにキリスト教徒もいれば、イスラム教徒もユダヤ教徒もいますね。あらゆるアラブ諸国の料理を食べられるのがこのお店のポイントだけど、特にこの国の料理が食べたいという希望があればメニュー選びをお手伝いしますよ。
土井 それならぜひ、ジアードさんの故郷であるレバノン料理をいただきたいのですが、どのメニューがおすすめですか?
ジアード レバノンといえば、前菜はまず、ペースト料理とタブーリサラダ、ケッベは必須! 日本人に馴染みのあるクスクスもメニューにあるけど、実はモロッコやチュニジアの方でよく食べられる料理で、レバノンでは意外と食べないんです。なので、メインディッシュはシシ・カバブとバミヤがいいかなと思います。
土井 どれも辛味はなく、素朴な優しい味わいで食べやすいですね。味付けがしっかりしているので、ワインともよく合う! そういえば、数年前に住んでいたフランスのリヨンにはレバノン料理店がたくさんあったのを思い出しました。
ジアード キリスト教やイスラム教が混在して、政治のシーンでも宗教が複雑に絡み合うレバノンでは、宗派間の衝突から’75〜’90年まで内戦があったんです。その時に大勢のレバノン人が海外に移住したので、世界の至るところにレバノン人のコミュニティがあるんですよ。レバノン人がいない国はない、と言われるほどね。あと、レバノンに住むレバノン人は、アラビア語と一緒に英語、フランス語も学校で習うから、どこに行っても言語にはあまり困らない。
土井 ジアードさんは今、日本語と合わせて4ヶ国語喋れるということですね。
ジアード そういうことです。でも、33年前に初来日したときは全く喋れなかったですよ。日本のクウェート大使館のシェフだったのですが、大使館での仕事は英語を使うことがほとんどだったから日本語は喋らなくても生活できましたし。あぁ、でも、名前の最後に”さん”をつけて呼ぶという文化を知らなくて、日本人の上司を怒らせてしまったことはありましたね。
土井 前職は大使館のシェフだったんですね! 何年ほど勤めていらっしゃったんですか?
ジアード 7年間くらい。結婚を機に大使館を退職して、奥さんの地元である横浜に引っ越して、そのあとすぐに『アル・アイン』を1995年にオープンしたんです。お店ができてから、区役所で日本語の講座を受けたり、奥さんに教えてもらいながら日本語を勉強しはじめました。
土井 日本語を覚えながらだと、接客なども苦労されたんじゃないでしょうか……?
ジアード オープン当初は、メニューの説明なども奥さんにかなり助けてもらいましたね。でも、レバノン人はおしゃべりが大好きなので(笑)、ワタシもお客さんと喋ることで日本語が身についていきました。今はレバノン人スタッフや、大学を卒業した娘もお店を手伝ってくれていますけど、それでもシェフはワタシ1人だけです。
土井 オープン時から変わらず、オーナーシェフなんですね。
ジアード お店での営業以外に、来日したアラブ諸国の首相やVIPのためにホテルに出向いて料理を振る舞ったり、アラブ諸国の大使館の独立記念日パーティなどでケータリングを担当したりもすることもあるけど、100人以上もいる大人数のケータリングのときでも基本はワタシが頑張って作ります。数日寝ないなんてこともありますね。
土井 料理人が1人だと忙しくて大変だとは思いますが、ジアードさんご本人が作るからこそ心のこもった丁寧な味になるのだなと思います。それに、アラブ人たちからの信頼が厚いということも、ジアードさんが本物のアラビア料理を提供している証ですね。
インフォメーション
AL AIN
◯神奈川県横浜市中区弥生町2-17 ストークタワー大通り公園1ビル B1F ☎︎045・251・6199 17:00〜22:00 月休※不定休あり
今回取材したお店の国について
レバノン
◯地中海東岸に位置し、国土は細長。
◯面積は日本の岐阜県と同じくらい。
◯国民の95%はアラビア語を話すアラブ人。
◯宗教はイスラム教やキリスト教の各宗派が複雑に混在。
◯アラブ諸国の中で唯一砂漠がない。
◯アラビア語でおいしいは、لذيذ(ラディーズ)。
⇩場所はここ⇩
関連記事
フード
タイ料理店『J’s Cafe & Restaurant』/異国の店主と土地の味。Vol.29
インタビュー・土井光
2024年5月15日
フード
キューバ料理店『キューバサンド&デリ アイナマ』/異国の店主と土地の味。Vol.28
インタビュー・土井光
2024年4月13日
フード
ロシア料理店『アンナズキッチン』/異国の店主と土地の味。Vol.27
インタビュー・土井光
2024年3月15日
フード
台湾料理店『許厨房』/異国の店主と土地の味。Vol.26
インタビュー・土井光
2024年2月12日
フード
インド料理店『やっぱりインディア』/異国の店主と土地の味。Vol.25
インタビュー・土井光
2024年1月16日
フード
韓国料理店『韓国料理 慶美』/異国の店主と土地の味。Vol.24
インタビュー・土井光
2023年12月12日
フード
ナイジェリア料理店『アフリカンレストラン&バー エソギエ』/異国の店主と土地の味。Vol.23
インタビュー・土井光
2023年11月12日
フード
レバノン料理店『アル・アイン』/異国の店主と土地の味。Vol.22
インタビュー・土井光
2023年10月13日
フード
パレスチナ料理店『アルミーナ』/異国の店主と土地の味。Vol.21
インタビュー・土井光
2023年9月12日
フード
シチリア料理店『ニーノカフェ』/異国の店主と土地の味。Vol.20
インタビュー・土井光
2023年8月12日
フード
スリランカ料理店『バンダラランカ』/異国の店主と土地の味。Vol.19
インタビュー・土井光
2023年7月28日
フード
アルゼンチン料理店『コスタ・ラティーナ』/異国の店主と土地の味。Vol.18
インタビュー・土井光
2023年7月1日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.17
🇺🇿ウズベキスタン料理店『サマルカンド・テラス』アクマルさん/インタビュー・土井光
2023年4月27日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.16
🇱🇦ラオス料理店『ランサーン』官志明さん/インタビュー・土井光
2023年3月30日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.15
🇩🇰『BRØD』クリスティーナさん/インタビュー土井光
2023年3月2日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.14
🇻🇳『THI THI』タン・ニャンさん/インタビュー土井光
2023年1月27日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.13
🇰🇭『バイヨン』レスマイさん/インタビュー土井光
2022年12月26日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.12
🇪🇹『de' Afrique』ヨナスさん/インタビュー土井光
2022年11月26日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.11
🇺🇸『フリーマン食堂』ジェレミー・フリーマンさん/インタビュー土井光
2022年10月27日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.10
🇵🇪『ALDO』浦田アルドさん/インタビュー土井光
2022年9月27日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.9
🇮🇱『タイーム』ダン・ズッカーマンさん/インタビュー土井光
2022年8月26日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.8
🇳🇵『ADI』アディカリ・カンチャンさん/インタビュー土井光
2022年7月26日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.7
🇪🇬『アブ・イーサム』イブラヒム・ジャーベルさん/インタビュー土井光
2022年6月27日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.6
🇫🇷 『ルグドゥノム・ブション・リヨネ』クリストフ・ポコさん/インタビュー土井光
2022年5月28日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.5
🇨🇳 『蘭州清湯牛肉面 隴垣金城』侯献智さん/インタビュー土井光
2022年4月8日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.4
🇲🇽 『Los Tacos Azules』マルコ・ガルシアさん/インタビュー土井光
2022年3月8日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.3
🇮🇹 『Clandestino 41』ダニエレ・グレコさん/インタビュー土井光
2022年2月2日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.2
🇨🇳 『味坊鉄鍋荘』梁宝璋さん / インタビュー土井光
2021年11月7日
フード
FOREIGN RESTAURANT’S OWNER IN TOKYO Vol.1
🇮🇹 『Gelato Mammamia』マリオ・アンドレアさん / インタビュー土井光
2021年10月22日
ピックアップ
PROMOTION
介護がもっと身近になるケアギビングコラム。
介護の現場を知りたくて。Vol.3
2024年10月23日
PROMOTION
〈バーバリー〉のアウターに息づく、クラシカルな気品と軽やかさ。
BURBERRY
2024年11月12日
PROMOTION
〈ハミルトン〉と映画のもっと深い話。
HAMILTON
2024年11月15日
PROMOTION
人生を生き抜くヒントがある。北村一輝が選ぶ、”映画のおまかせ”。
TVer
2024年11月11日
PROMOTION
〈ティンバーランド〉の新作ブーツで、エスプレッソな冬のはじまり。
Timberland
2024年11月8日
PROMOTION
〈ナナミカ〉と迎えた、秋のはじまり。
2024年10月25日
PROMOTION
〈ザ・ノース・フェイス〉のサーキュラーウールコレクション。
THE NORTH FACE
2024年10月25日
PROMOTION
うん。確かにこれは着やすい〈TATRAS〉だ。
TATRAS
2024年11月12日
PROMOTION
君たちは、〈Puma〉をどう着るか?
Puma
2024年10月25日
PROMOTION
〈adidas Originals〉とシティボーイの肖像。#8
Yukumo Egawa(15)_Model
2024年10月18日
PROMOTION
〈バレンシアガ〉と〈アンダーアーマー〉、増幅するイマジネーション。
BALENCIAGA
2024年11月12日