カルチャー

デザイナー・吉田昌平さんに聞く。これまでとこれからのデザインの話。/後編

『白い立体』10周年。吉田昌平さんロングインタビュー。

photo & edit: Masaru Tatsuki
text: Ryoma Uchida

2025年3月4日

 デザイン事務所「白い立体」を主宰し、書籍、雑誌、図録など、多岐にわたるブック・デザインを手掛けるアートディレクター、デザイナーの吉田昌平さん。昨年『白い立体』が手掛けた展覧会図録『ハニワと土偶の近代』が、文部科学省主催の「第66回全国カタログ展」で金賞、経済産業大臣賞を獲得した。この機会に改めて、吉田さんの来歴やデザインに対する思い、今考えていることなど、なかなか聞けなかったお話を根掘り葉掘りインタビューした記事の後編。

「白い立体」の10年。

「『白い立体』は30歳で『ナカムラグラフ』から独立した時につくりました。名前は北園克衛の詩『白のゲシタルト』から引用したんです。北園さんの詩が好きだったことと、平面ぽさや立体感を想起させる言葉が素敵だと思って」

 練馬区立美術館での展覧会「朝井閑右衛門 空想の饗宴」、東京ステーションギャラリーで開催された「パロディ、二重の声 ――日本の一九七〇年代前後左右」などのフライヤー、カタログにはじまり、ファッション、料理などの書籍、『POPEYE』など雑誌も手掛けた。直近では東京国立近代美術館で開催された「ハニワと土偶の近代」の展覧会図録を担当した。

左・東京ステーションギャラリー「パロディ、二重の声 ――日本の一九七〇年代前後左右」(2017)
右・練馬区美術館 「朝井閑右衛門 空想の饗宴」(2016)

大川美術館「石内都 STEP THROUGH TIME」(2024)

〈COGNOMEN〉フォトブック『OUTRO LADO』(2024)

『RESTAURANT B RECIPE BOOK』(坂田阿希子・著/文化出版局/2023)

『THE TOKYO TOILET BOOK』(MASTER MIND LTD./2024)

東京ステーションギャラリー「Terence Conran:Making Modern Britain」(2024)

東京国立近代美術館「ハニワと土偶の近代」(2024)

「『ハニワと土偶の近代』を制作したときはバタバタでした。図録は、展覧会の内容の詳細や学芸員さんによる解説などが決まらないとスタートできなくて、今回は1ヶ月ないほどの期間で本文をレイアウトしました。図版を大きく見せながら、解説も読みやすく。図版によっては、“これとこれが隣同士にいたほうがいいだろうな”とか、内容を読み込みながら、細かくページをレイアウトしてます。内容もとても面白いですし、表紙のキャッチーさと、全体のデザインのバランスが心地よかったのかなと思ってます」

 「白い立体」が手掛けた展覧会図録『ハニワと土偶の近代』は、文部科学省主催の「第66回全国カタログ展」で金賞、経済産業大臣賞を獲得した。また、今年からは『暮しの手帖』のリニューアルにも携わる。激動の日々を過ごす吉田さんだが、「次にいかなければいけない時期なんです」と語る。

40歳、ようやく見えてきたスタート地点。

「一昨年くらいですかね。少し手が空いた時期に、今までの仕事をインスタグラムにまとめました。これで全ての仕事のアーカイブをゆっくり見ることができて。すると、どのお仕事も、もちろん色んな思い出があって自分の好きなデザインではあるのですが、その“自分が好きな世界”が、なんだかすごくちっぽけに見えて。表現が難しいのですが、自分がしたいような着地に乗せるため、なんとなく自分が自分を誘導していた気がしたんです。それがすごく馬鹿らしくなっちゃって。“自分が好きな世界”からもう1段階超えないと、今後、自分に対して自分がびっくりしてかないだろうし、凝り固まってつまんない奴になってくだろうなって」

 「白い立体」として独立してから今年で10年の節目を迎える。自身に余裕が生まれたことも影響しているんだとか。

「今年、40歳で『白い立体』は10年なんです。経験値も増えたことで、書籍を1冊作るときの、ある程度のゴールが早めに見えるようになったので、どうしたらもっとより良くできるのかを考える時間が作れるようになりました。100%の力を出すためにがむしゃらにやらなければいけなかったのが、120、150、もしかしたら200%までいける余力が増えてきた気がして。だからこそ、表面的ではない考え方を身につけなければいけないなと。そして、年齢的にも今が旬なのはわかっていて、それで終わらないために焦りもあります」

 継続してきた力、変化をおこす力、これまでの努力が実るかのように、『ハニワと土偶の近代』図録は、先述した賞はもちろん、インスタグラムでも、海外のユーザー含め過去一番の反響があったとか。余力と同時に焦りも感じるという吉田さんだが、目指すデザインとはどんなものなのか。

「展覧会に関しては、宣伝ビジュアルや図録はもちろんですが、空間のことも携わりたいです。もっと入り込んで、全部1本筋が通ったものを考えていきたいなと。本に関しては、 これまで通り精進していきたいです。内容に合った装丁は昔から意識してるのですが、あんまりこだわりすぎて、デザインが強すぎるのも良くないし、重さや判型、紙、全部が違和感ないものを制作していくのが理想です。反面、ちょっとした違和感が目に止まるきっかけにもなったりもするので塩梅は時と場合ですかね。ただ本作りは絶対にどこかでつまずくので、そこを柔軟にカバーしていくことも考えないといけないし、思うことはたくさんありますね。モヤモヤと思うことが多いので、これだ! という答えが出ないのですが、デザインは基本自分だけの世界じゃなくて、人のために、世の中のためにやっていかないといけないことですよね。常に考えて、施したデザイン全てに理由がないといけないし、“感覚で置きました”みたいなことは通用しない。だから僕はこれからもたくさん考えて、たくさん経験して、楽しみながらデザインしていきたいです。そんな仕事だから自分だけの世界の時はのびのびとコラージュをやっているのだと思います」

 吉田さんはデザイン事務所『白い立体』としての活動の他に、作家としてコラージュ作品の制作も日々行う。

「コラージュは息抜きの感覚もあります。Netfixを見ながら描くこともありますし、偶然を楽しんで、偶然を呼び込みたいなと。なので制作は基本休みの日が多いです。時々、仕事の日も朝30分だけやるとか、生活の一部にしています」

決まりきっていたことが崩れてきていませんか?

 本を作るプロセスは「打ち合わせから始まっている」と吉田さん。仕事では、クライアントとの最初の打ち合わせから「本当に内容と合っているのか疑う」のだそう。「本当にそれが面白いかとか、中身の個性を活かせているかとか。ちょっと編集っぽい視点もあったり、 病院の診察のようなイメージですかね」と言うように、たしかに“役割”の垣根を越えて一冊の作品を目指している。そんな制作の現場を通して、時代の変化も感じるそう。

「この頃、今まで“決まりきっていたこと”が崩れてきているように感じて。時代に合っていないことが崩壊してきていると思うんです。本当にこれは必要なのかな? とか、これがなくても成立してませんか? など、最近思うことがよくあります。いつからか決まっていたことが ちょっとずつ壊れてきていて、そこに疑いの目をもっている人もでてきて、世の中がすごいスピードで変化してきていると思います」

 紙の出版物を取り巻く環境の変化、ひいては世の中の変化のスピードは早い。これまでの既存の“常識”も、批判的に疑いの目線をもって接することは大事だ。ただ、変化はあれど、変わらず大切にしたい価値観もある。

「働く“時間”の問題は最近よく聞くと思うのですが、正直この仕事は、すぐに上達するわけでもないし、本気でとことん取り組まないといいものなんて生まれない。特に僕は才能があったわけではないから、努力しないといけなくて。時々なんでこんなに働いてるのだろうと思うことももちろんありますし、でもどこかで踏ん張らないと上達しない。お仕事の依頼もこない。こんな話をしていると、どういう働き方がいいのかわからなくなってしまうのですが、デザインとして携わる『本』はずっと残っていくもので、自分が生まれる前の本を読んで刺激を受けて、次の世代に、また次の世代に残っていく。そういう”時間”を想像するとワクワクしてしまう。そんな仕事に携われることはラッキーだなと思います。だから夢中で頑張れるのかなと。デザインを通して色んな人に出会えて学べて、誰かのためになるということは、僕の背中を押してくれます。だから好きな仕事を、根気強く、大切にやっていきたいなと思います」

「今日話していて、色々と振り返るきっかけになりました」と吉田さん。

「美容師を目指すことから始めて、美術もデザインも何も知りませんでした。だからこそ人より努力して、20代の頃も遊んでいなくて。とても辛かったけど、今でも、やっぱり東京で1番になりたいと思うし、日本で1番になりたい。世界にも行ってみたいなって思っているから、まだまだ努力したいと思うんです。続ける才能だけはあるんじゃないかと思うので」

よしだ・しょうへい|1985年生まれ。広島県出身。 桑沢デザイン研究所卒業後、デザイン事務所 株式会社ナカムラグラフを経て、2016年「白い立体」として独立。雑誌・書籍のデザインや展覧会ビジュアルのアートディレクションなどを中心に活動。 その他に、紙や本を主な素材としたコラージュ作品を数多く制作発表する。作品集に 『 KASABUTA 』(WALL 2013年)、『Shinjuku(Collage)』(numabooks 2017年)、『Trans-Siberian Railway』(白い立体 2021年)
Instagram: @heiyoshida

インフォメーション

デザイナー・吉田昌平さんに聞く。これまでとこれからのデザインの話。/後編

吉田昌平 展覧会 『の』

前展「KASABUTA」以来、『Roll』では3年ぶり2回目となる吉田昌平さんの展覧会が開催。本展『の』では、新作の平面作品と彫刻作品を展示、販売する。『の』という文の前後をつなぐ言葉が示す、内在的つながりや連続性。その最中にある吉田さんの現在地を目撃しにいこう。

会期:2025年3月27日(木)〜4月19日(土)
時間:13:00〜19:00(月曜・休)
場所: Roll(〒162-0824 東京都新宿区揚場町2-12 セントラルコーポラス No.105)
TEL: 080-4339-4949(受付13:00-19:00)


Official Website
https://yf-vg.com/roll.html

4年前に手に入れた旧車のグロリアと。「平日も土日も仕事です。近所から通勤するだけなので、車の中が休める時間なんです」と吉田さん。