TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#4】ケバブ旅

執筆:デリヤ・エスデヴレット

2026年8月4日

ガズィアンテプ ―― 私が日本で、どうしても紹介したかった街

イスタンブール、アダナを旅したあと、日本でぜひ紹介したい、そして実際に訪れてほしいと思った街がありました。それがガズィアンテプです。

トルコでは「本当においしい料理を食べたいなら、ガズィアンテプへ行け」とよく言われます。もちろん、優れた食文化を持つ街は他にもたくさんあります。しかし、ガズィアンテプは特別な存在です。ここでは料理は単なる郷土料理ではなく、人々の日常そのものだからです。

ガズィアンテプは、ユネスコ創造都市ネットワークの「食文化(ガストロノミー)」分野に認定されている都市の一つです。その理由は、有名な料理がいくつかあるからではありません。何世紀にもわたって受け継がれてきた食文化、世代を超えて継承される職人の技術、土地の食材を大切にする姿勢、そして食が暮らしの中心にある文化。そのすべてが、この街を特別な存在にしています。ここでは料理は、過去と現在をつなぐ生きた文化遺産なのです。

朝はベイランで一日が始まり、昼はケバブ、夜は家族や友人と長い食卓を囲む。市場には新鮮な野菜や香辛料が並び、パン職人や肉職人、何十年も同じ仕事を続ける職人たちが街の日常を支えています。街を歩いているだけで、食がこの土地の中心にあることを自然と感じます。

日本では、今でも「トルコ料理=ケバブ」という印象を持つ人が少なくありません。しかし、ガズィアンテプを訪れると、その考えがどれほど限られたものだったかに気づかされます。もちろんケバブはこの街を代表する料理です。羊肉を細かく刻み、尾脂を合わせ、旬の野菜とともに焼き上げる。そのシンプルな料理だからこそ、職人の技術がはっきりと表れます。同じケバブでも、店や職人によってまったく異なる表情を見せてくれます。

しかし、ガズィアンテプの魅力はケバブだけではありません。

今回の旅で特に印象に残ったのは、工業地区の中にある小さな食堂でした。華やかさとは無縁のその店で味わったユヴァラマ、ラフマジュン、そして季節限定のソアン・ケバブ(玉ねぎのケバブ)は、ガズィアンテプの食文化の奥深さを改めて教えてくれました。本当に忘れられない料理は、案外こうした飾らない場所で出会えるものなのかもしれません。

朝のベイランは Metanet Lokantası へ。熱々の一杯は、ガズィアンテプという街を知る最高の朝食でした。

レバー料理なら Loküs Ciğer。驚くほど柔らかく、臭みのないレバーは、私がこれまで食べた中でも特に印象深い一皿です。

ケバブなら Kasap Selçuk Usta。特にキウマ・ケバブと仔羊のリブは、素材の良さと職人の焼き加減が見事に調和した、この街を代表する味でした。

そして、ガズィアンテプを代表する名店 İmam Çağdaş。アリナズィク、ラフマジュン、そしてバクラヴァまで、この街を象徴する料理を一度に味わうことができます。

食事の合間には、ぜひ ゼウグマ・モザイク博物館 にも立ち寄ってみてください。世界有数のモザイクコレクションを誇るこの博物館は、ガズィアンテプが食だけでなく、何千年もの歴史と文化を受け継いできた土地であることを教えてくれます。この街の料理を理解するには、食卓だけでなく、その歴史にも目を向けることが大切だと思います。

ガズィアンテプは「バクラヴァの都」としても知られています。素晴らしい店は数え切れないほどありますが、私が特に感動したのは Zeki İnal Baklavaları でした。

何世代にもわたり、親から子へと受け継がれた一軒の店。流行を追うことなく、新しい商品を増やすことでもなく、毎日変わらない品質と味を守り続けることだけに集中している。その姿勢こそ、本当の職人の仕事だと感じました。

私が最も心を動かされたのは、日常の食事と特別な日の料理の間に、ほとんど境界がないことです。家庭で作られる料理も、町の食堂で出される一皿も、同じように丁寧に作られています。人々は誰かに見せるためではなく、それが当たり前の日常だからこそ、この食文化を守り続けているのです。

ガズィアンテプでは、おいしくない料理に出会うことはほとんどありません。
あるのは、「もっとおいしい一皿」に出会い続ける楽しさだけです。
この旅を通して、私は改めて実感しました。
トルコ料理は一つの料理ではありません。それぞれの街が、それぞれの土地、それぞれの歴史、それぞれの食材とともに育ててきた文化そのものです。

私が日本で伝えたいのも、まさにそのことです。

ケバブは、トルコ料理への入り口かもしれません。しかし、その先には、ガズィアンテプのような街が何百年も守り続けてきた、豊かで奥深い食文化が広がっています。
現在の日本には、本当の意味でトルコ料理を表現しているレストランは、まだ多くありません。

私は二年前、一つのスーツケースだけを持って東京へやって来ました。そして今、Lokantaという活動を通して、こうして日本でトルコ料理やその文化を伝えられるようになりました。
ここまで来られたのなら、あと二年もしないうちに、私が目指す本当のトルコ料理店を日本でオープンできると信じています。どうか楽しみにしていてください。

この連載を通して、皆さんにトルコという国、そしてトルコ料理の奥深さを少しでもお伝えできていたなら、とても嬉しく思います。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

いつか東京で、本当のトルコの食卓を囲みながら、皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。

プロフィール

Derya Esdevlet

デリヤ・エスデヴレット|1997年、トルコ生まれ。16歳で料理の世界に入り、トルコ国内外のレストランで経験を積む。現在は「LOKANTA」を主宰し、トルコ料理を軸に日本の食材や文化を取り入れた表現を探求。東京やロンドンを中心にポップアップレストランやコラボレーションを行いながら、新しいトルコ料理の可能性を発信している。

Instagram
https://www.instagram.com/desdevlett
https://www.instagram.com/lokantatokyo

POPEYE ONLINE STORE

8月4日までオープン!