フード
ボーイだって甘いもの。
Sweets for City Boys.
2026年7月6日
illustration: Dean Aizawa
photo: Shunsuke Shiga
text: Ku Ishikawa
2026年7月 951号初出
おやつは、ただ甘いものを食べる時間ではない。どこの店に寄り、どの道を歩き、誰と食べるのか。食べ物の周辺にこそ、面白さがある。パティシエの田代翔太さんと話していると、そんな当たり前のことに気づく。田代さんがおやつを選ぶときに見ているのは、味のよさだけではないのだ。
例えば『ジャン=ポール・エヴァン』のマカロン。本場のパリでは、メトロの中や公園など、至る所で老若男女がマカロンをつまんでいるそうだ。日本だとどうしても贈り物という印象が強いけれど、素っ気ないポリ袋に2、3個だけ入れてもらい、軽やかに味わってみる。気取って食べるものでは決してないのだ。
お店や商品の選び方にも、田代さんらしい視点がある。『オーボンヴュータン』では焼き菓子ではなくお店ができる前の時代から変わらず作られてきたチョコレートを推す。店の歴史や成り立ちなど、奥行きまでも味わっている。お菓子屋さんではない店のおやつにも目を向けていて、例えば『パン屋塩見』の「KATAIビスケット」。お菓子屋さんとはまた別の形で、料理や食材と深く向き合うからこそ出せる味を楽しんでいる。
改めて、おやつは小腹を満たすためだけのものではないのだ。買いに行く時間があり、包みを開ける瞬間があり、その店ならではの味がある。そういう前後の楽しみまで含めて選べるようになると、いつもの甘いものが、少しだけ自分のカルチャーになる。
ドーナツはシンプルイズベスト。
クリームやトッピングを幾重にも重ねたトレンドとは真逆を行く、『MY PICNIC』のドーナツ(¥500)。さっくり、ほろほろと崩れる軽やかなケーキ生地は油っぽさがなく、気づけば3個くらいぺろりと食べてしまう。「シンプルなスタイルが一番ワクワクするんです。一個で満足するものというより、食べているうちにもう一個食べたくなるものがいい」と田代さん。ニューヨークのクラシックなケーキドーナツをベースにした味わいも絶妙。暮らしに馴染む、シンプルで真っ当なドーナツ。販売方法はInstagramで要確認。(MY PICNIC @mypicnic_tokyo)
マカロンは移動の合間にサッと食べる。
例えば「銀座三越」の地下の『ジャン=ポール・エヴァン』で2、3個選び、簡易包装のまま地下鉄へ。「移動中に食べるくらいがマカロンにはちょうどいい」と田代さん。フランスでは、日本のまんじゅうみたいなものだそうだ。ショコラティエとして名高い『ジャン=ポール・エヴァン』のマカロンは、チョコレートの延長線上のようで食べやすい。定番の「アメール」(¥398)のビター感も、「ヴァニーユイン」(¥398)の甘さも絶妙。(ジャン=ポール・エヴァン 三越銀座店☎03·3562·1111※大代表)
名店の隠れたおすすめを知っておく。
『オーボンヴュータン』といえば焼き菓子とシャルキュトリーを思い浮かべるけれど、田代さんが熱く薦めるのは「ショコラロッシェヴァニーユ」(¥2,520)。実はお菓子の卸から始まった歴史の中でも、ショコラには創業時から強い自信を持つ。甘すぎず、苦すぎずの口に残らない爽やかなチョコレートに、キャラメリゼした小ぶりなアーモンドとほのかなオレンジコンフィが重なる。今後のチョコレート人生の基準になるかも、と思ったくらい。目移り必至の名店ゆえ、自分だけのお決まりがあると、店に通う楽しみはさらに増す。(オーボンヴュータン☎03·3703·8428)
お菓子屋さん“じゃない”お店のおやつ。
南インド料理店ならではのスパイス感覚が光る、『砂の岬』のビスケット。カレーリーフやクミン、マサラチャイなど、現地で親しまれる素材をホームメイドスタイルで。8種セット(¥2,800)のパッケージも含め、食文化を味わっているような楽しさ。(砂の岬 sunareserve.official.ec)
世田谷の手作り肉包店『鹿港』の黒糖饅頭(¥160)。餡は入れず、生地だけで勝負する潔さ。黒糖の少しの甘味と、もっちりした生地が妙に後を引く。バターやあんこでアレンジも。(鹿港☎03·5799·3031)
『パン屋塩見』の「KATAIビスケット」(¥220)。薪窯で焼くパン屋ならではの味わいの力強さたるや。全粒粉や発酵種を使い、長時間発酵させた生地は、まるで堅いパン。噛むほどに発酵の香りと粉の旨味が広がり、食べ応えも抜群。(パン屋塩見☎03·6276·6310)
プロフィール
田代翔太 パティシエ
たしろ・しょうた|1986年、栃木県生まれ。松陰神社前の洋菓子店『MERCI BAKE』、経堂のカフェ『CHEZ RONA』、池尻大橋のワインバー『EIFFEL』を手掛ける。
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