TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】Walk it like I talk it

執筆:甲田まひる

2024年9月20日

8歳からジャスを聴き始めたそもそものきっかけは、当時通っていた音楽教室の先生だった。

いつもおしゃれで、毎日違う服を着ている女性だった。
先生が教室に入ってくると真っ先に、「先生今日も可愛いですね」と決まり文句のように伝えていたから自分と先生の関係性はとても近しく、彼女からしても面白い生徒だったと思う。

今でもふと服を選ぶ時、思い出すのだ。
将来はあんな大人になりたいと憧れていた自分を。
私が毎日違う服を着ていたいのも、きっとあの先生の影響だ。(笑)。自己を形成する片鱗は、誰しもが幼い頃に拾っているのだと強く感じる。

今日もあーでもないこーでもないと服達が宙を舞い、落ち、新品のベビーピンクのラグが一ミリも見えない。
そうだ、音楽の話をしなくては。

毎日がファッションショーなのだ。

先生が弾かせてくれるジャズっぽい曲を入り口に自分でCDを聴き始め、最初に好きになったのがThelonious MonkとBud Powellという二人のピアニストだ。彼らはとにかく個性的な音を出す。生意気ながらiPadなどを使いこなしていた当時小学生だった私は、YouTubeで初めてMonkのプレイスタイルを見た時、ショックだった。ここでのショックは、いわゆる英語で使われる、色んな意味でのショック。衝撃。だ。

ゴテゴテの指輪でタバコを吸いながらピアノを弾く姿に一目惚れしてしまった。そこから、ブラックミュージックだけでなく、ブラックカルチャー自体にどっぷりとハマっていくことになる。

15歳の時長年の憧れであったNYに母と2人で渡航する。
2ヶ月という短い期間だったが、ハーレムにアパートを借り、人生で1番濃厚な時間を過ごした。
そこで母が撮ってくれた写真を一つの本にもまとめて出版したのも良い思い出だ。
あ、そういうのまたやりたいです!(大声)

Bud Powellの昔住んでいた家だそうで、この前を通り過ぎるたびに幸せだった。そのためにハーレムを選んだといっても過言ではない。

近所のコインランドリーで。どこでも絵になってしまうNY。

その頃の私は、HIPHOPというさらなるドラッグに出会ってしまっていた。ATCQ(A Tribe Called Quest)にどハマりし、Lauryn Hillに出会い、同時に歌への憧れを持った。今思えばそこが自分の人生のターニングポイントだった。
ATCQの壁画を巡ったりレコードを買いに行ったりして夜が来たらジャズクラブでのセッションに参加してピアノの修行。現地で浮き彫りになった自分のスキルの低さに何度も嘆いたが、そんなんで落ち込んでいられないくらい、私の全細胞がずっと興奮していた。そんなNYでの生活を今でもよく懐かしんでいる。いつか絶対にまた戻ってくるとQ-Tipのきゅるきゅるな瞳に誓ったあの日を。

コインランドリーの壁に描かれたグラフィティ。Phifeを追悼して。

普段聴いているのは主にラップ9割、アリアナ1割、といったところだろうか。
でもこれは大袈裟ではなく(笑)、ラップに関しては90’s の他だとChief Keef、Playboi CartiをはじめとするUSの色々、日本だと推しのWatsonかな。あと大好きな宇多田ヒカル先生。
私のサブスクの中身はこんな感じだ。

Jazzを聴く時間は、別フォルダにある感覚。
何か心境の変化があった時などに、誰もいない1人の部屋で目を瞑りながらじっくり味わうのが好きだ。自分がプレイヤーな以上、もう勉強という耳でしか聴けなくなってはいるが、いつだってあの時代のレジェンドと対話できる、んー。まさに宝箱を開けるような時間。
かと思えば、chandanのお香を焚いてトランスを爆音でかける日もある。それを箱(クラブ)で聴きたくなったら、時々踊りにも行く。

もうちょっと喋っても怒られなそうなので喋る。

音楽は時間芸術と言われる。
私はピアノもそれ以外の楽器もデジタルで打ち込みを行うので、普段リリースしている楽曲の0ベースは自宅の卓から生まれることがほとんどだ。
完成したら外の世界へアウトプットし、その先にいるみんながそれぞれの形で受け取ってくれる。

さっきのJazzの話もそうだが、そのデータ自体は一生形が変わることはなく、なんなら聴くたびに当時にタイムスリップできる素材のようだ。

だがそれと代わってピアノを弾く瞬間というのはその場で起きる一瞬の出来事の連続で、まさに時間芸術。気づいたら次の場面に移り変わり、さっきまで聴いていたはずの音と同じ音はもう二度と聴くことができない。

無意識のうちに2種類の音楽を体験している自分をふと面白いなと思った、朝の4時だった。(定期)
さあ変な時間にお腹がすいた。(定期)
食いしん坊甲田まひるの、食べ物事情を忘れてはいけない。(次のコラムへ続く)

プロフィール

甲田まひる

こうだ・まひる|2001年生まれ。東京育ち。ジャズピアニスト、シンガーソングライター、俳優、モデル。2017年に甲田まひる a.k.a. Mappyとしてビバップを中心としたジャズ・ピアノ・トリオ・アルバム『PLANKTON』を発表。昨年には自身初となる1stフルアルバム『22 Deluxe Edition』をリリース。2024年1月にはTVアニメ「ぶっちぎり?!」のエンディング・テーマ『らぶじゅてーむ』を、5月には『れんあいパン』をデジタルリリース。

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