カルチャー
GOOD MUSIC #4/Nick Hakim,ONYX Collective,and Roy Nathanson – from New York –
2021年7月27日
NYのストリートから生まれた、70歳も20歳も心躍る新たなジャズ。
雨の日のNYを歩くと、いろんな音楽を聴いている気分になる。そもそもここは騒々しい街なのだけど、普段は耳に痛い車のクラクションや、道行く人々の声が、アスファルトや傘を打つ雨音のリズムに乗る。その雨音は同時に、ストリートの音色を包み込むエフェクトのようでもある。日常に流れる数々の音の混濁に、心地よさを感じる。
NYはジャズの街だ、とよくいわれる。確かに、その音楽が生まれてから100年以上がたつ今でも、老舗の『ヴィレッジ・ヴァンガード』や名店『スモールズ』をはじめ、歴史が詰まったジャズクラブが息づいている。でも、それはまだ僕にとって、背筋を伸ばして対峙する存在。ちょっと、難しい。だからオニキス・コレクティブがこの街に現れたときは「こんなヤツら出てきたの!?」という、小さな困惑と、大きな喜びが、同時に胸の中に湧いて混ざった。正統なジャズクラブではなく、ダウンタウンのストリートシーンがオニキスの舞台だ。サックスのアイゼア・バーとドラムのオースティン・ウィリアムソン以外、メンバーは流動的。2016年に〈シュプリーム〉からレコードをリリースし、その後はウィキやプリンセス・ノキアなど同世代のラッパーをはじめ、R&Bのブラッド・オレンジ、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンとも共演。型破りな動きで、独自のコミュニティを形成し、自由に生み出される彼らの音楽は、ときに実験的でもあるけれど、根はストリートの、日常の遊びだ。昨年出したアルバム『Manhattan Special』では、相変わらず多様な客演で、ポップもR&Bもヒップホップも鳴っている。僕らにも聴きやすい、身近な「ジャズ」だ。
今年3月、そのオニキスのアイゼアが、ストリートのコミュニティとコラボレーションに重きをおいた「」というレーベルを立ち上げた。その最初のリリースが、次世代を作るソウルシンガー、ニック・ハキムと、NYジャズの生き字引であるロイ・ネイサンソンによる共作『Small Things』。
これもまた、心地よくて、ワクワクできるアルバムだ。彼らはオニキスのライブにメンバーとして参加して出会い、ことはここに至る。あまりにも自然な流れだけど、何かもっとストーリーがありそうだ。雨のNYを歩き、3人が集まっているロイの家に着くと、まずはアイゼアがそもそもの出会いを語ってくれた。
「俺は8歳くらいからサックスを始めたんだけど、本腰を入れたのはジャズを学べる高校に行ってから。そこで教えてたのがロイだった。俺の師匠だね。ニックはオースティンが彼の初ツアーにドラムとして参加したことがきっかけで、その後自然と仲良くなった」
長い付き合いの3人が収録した『Small Things』の曲は、95%が一発録りだという。まさに即興だ。「この家でロイの詩集を読んで、その場で『この詩で歌いたい』とお願いしたんだ。いくつかの詩を抜粋して、気の向くままにコードにのせて歌ったんだけど、それに合わせてロイがサックスを吹き始めて生まれたのが、アルバムタイトルにもなっている1曲目の『Small Things』だった」とニックが語るように、誕生秘話も含めてとことんジャズ。一際アップテンポな「Cry and Party」は、3人がともに口を揃えて「特に印象深い」と言う。
「この曲は私とニックに加えて、アイゼア、オースティン、ジャズ・パッセンジャーズで長年一緒にやってきたカーティス・フォークス、私の友人のスペンサー・マーフィーにガボ・ルゴ、そして実の息子のガブリエルによるアンサンブルだ。全員が世代も違えば、互いに顔馴染みもそうでないものもいる中であのスウィングが生まれたことは、長く音楽をやってきた中でも一番クレイジーな体験だった」
ロイがそう認める「Cry and Party」は、陽気なサウンドに、“Now they say old is a weed, I say itʼs a seed”という歌詞が乗る。このジャズ・ミュージックは、今を生きるすべての人のための音楽なんだと実感してしまった。
NYXO Recordsのリリース第2弾!
jasno 2021
NYのダウンタウンシーンから音楽を発信しようとアイゼアが始め
photo: Joe Miller
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