CULTURE

GOOD MUSIC #4/Nick Hakim,ONYX Collective,and Roy Nathanson – from New York –

2021.07.27(Tue)

photo: Koki Sato
text: Shimpei Nakagawa
2021年8月 892号初出

ロイの家のリビングルームにて。ブルックリンの少し奥まった閑静なエリアにある一軒家だ。
左/ニック・ハキム 中/オニキス・コレクティブ 右/ロイ・ネイサンソン

NYのストリートから生まれた、70歳も20歳も心躍る新たなジャズ。

雨の日のNYを歩くと、いろんな音楽を聴いている気分になる。そもそもここは騒々しい街なのだけど、普段は耳に痛い車のクラクションや、道行く人々の声が、アスファルトや傘を打つ雨音のリズムに乗る。その雨音は同時に、ストリートの音色を包み込むエフェクトのようでもある。日常に流れる数々の音の混濁に、心地よさを感じる。

 NYはジャズの街だ、とよくいわれる。確かに、その音楽が生まれてから100年以上がたつ今でも、老舗の『ヴィレッジ・ヴァンガード』や名店『スモールズ』をはじめ、歴史が詰まったジャズクラブが息づいている。でも、それはまだ僕にとって、背筋を伸ばして対峙する存在。ちょっと、難しい。だからオニキス・コレクティブがこの街に現れたときは「こんなヤツら出てきたの!?」という、小さな困惑と、大きな喜びが、同時に胸の中に湧いて混ざった。正統なジャズクラブではなく、ダウンタウンのストリートシーンがオニキスの舞台だ。サックスのアイゼア・バーとドラムのオースティン・ウィリアムソン以外、メンバーは流動的。2016年に〈シュプリーム〉からレコードをリリースし、その後はウィキやプリンセス・ノキアなど同世代のラッパーをはじめ、R&Bのブラッド・オレンジ、トーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンとも共演。型破りな動きで、独自のコミュニティを形成し、自由に生み出される彼らの音楽は、ときに実験的でもあるけれど、根はストリートの、日常の遊びだ。昨年出したアルバム『Manhattan Special』では、相変わらず多様な客演で、ポップもR&Bもヒップホップも鳴っている。僕らにも聴きやすい、身近な「ジャズ」だ。

Manhattan Special
ONXY Collective
2020 TMWRK Records
ニックやロイをはじめ、チェリスト兼シンガーのケルシー・ルーやアーティストのイアン・イザイアなどを客演に迎え、足かけ3年で制作。ジャズの名曲をポップに捉えてオニキス流にアレンジした楽曲も。聴き応えあり。

 今年3月、そのオニキスのアイゼアが、ストリートのコミュニティとコラボレーションに重きをおいた「」というレーベルを立ち上げた。その最初のリリースが、次世代を作るソウルシンガー、ニック・ハキムと、NYジャズの生き字引であるロイ・ネイサンソンによる共作『Small Things』。

Small Things
Nick Hakim & Roy Nathanson
2021 NYXO Records

今年4月にアイゼアが始めたレーベル「NYXO」のリリース第1弾。ニックのメロウな声音にロイのサックスが絡み合うリード曲「Moonman」から、ロイが詩を朗読する実験的な楽曲まで、多彩なスタイルで全7曲を収録。

これもまた、心地よくて、ワクワクできるアルバムだ。彼らはオニキスのライブにメンバーとして参加して出会い、ことはここに至る。あまりにも自然な流れだけど、何かもっとストーリーがありそうだ。雨のNYを歩き、3人が集まっているロイの家に着くと、まずはアイゼアがそもそもの出会いを語ってくれた。

「俺は8歳くらいからサックスを始めたんだけど、本腰を入れたのはジャズを学べる高校に行ってから。そこで教えてたのがロイだった。俺の師匠だね。ニックはオースティンが彼の初ツアーにドラムとして参加したことがきっかけで、その後自然と仲良くなった」

 長い付き合いの3人が収録した『Small Things』の曲は、95%が一発録りだという。まさに即興だ。「この家でロイの詩集を読んで、その場で『この詩で歌いたい』とお願いしたんだ。いくつかの詩を抜粋して、気の向くままにコードにのせて歌ったんだけど、それに合わせてロイがサックスを吹き始めて生まれたのが、アルバムタイトルにもなっている1曲目の『Small Things』だった」とニックが語るように、誕生秘話も含めてとことんジャズ。一際アップテンポな「Cry and Party」は、3人がともに口を揃えて「特に印象深い」と言う。

昨年上梓されたロイの詩集『Conversations and Other Songs』は詩と音楽の関係性を研究する彼の10年分の詩がまとめられた一冊。『Small Things』の中にある曲の歌詞はすべてここから抜粋し構成されている。
インタビューを始めようとすると、ロイが「ちょっと待って! 最近読んだ詩集ですごくいいのがあったから」とおもむろに朗読を始めた。生活のごく身近なところに詩があるのは素敵だ。
2人にロイが薦めるロス・ゲイの『Be Holding』。

「この曲は私とニックに加えて、アイゼア、オースティン、ジャズ・パッセンジャーズで長年一緒にやってきたカーティス・フォークス、私の友人のスペンサー・マーフィーにガボ・ルゴ、そして実の息子のガブリエルによるアンサンブルだ。全員が世代も違えば、互いに顔馴染みもそうでないものもいる中であのスウィングが生まれたことは、長く音楽をやってきた中でも一番クレイジーな体験だった」

 ロイがそう認める「Cry and Party」は、陽気なサウンドに、“Now they say old is a weed, I say itʼs a seed”という歌詞が乗る。このジャズ・ミュージックは、今を生きるすべての人のための音楽なんだと実感してしまった。

/ニック・ハキム|シンガーソングライター、マルチ・インストゥルメンタリスト。1991年、ワシントンD.C.生まれ。現在はブルックリンを拠点に活動する。2017年に発表したデビューアルバム『Green Twins』はそのジャンルレスな楽曲で方々で高評価を獲得。昨年には2ndアルバム『WILL THIS MAKE ME GOOD』をリリース。
中/ロイ・ネイサンソン|サックス奏者、教育者。1951年、NY生まれ。ジョン・ルーリーらNYの一流アーティストが集ったグループ、ラウンジ・リザーズに’80年代半ばまで在籍し、1987年にはジャズ・パッセンジャーズをスタートし、これまでにエルヴィス・コステロやジェフ・バックリィ、デボラ・ハリーなどを客演に迎えてきた。
右/オニキス・コレクティブ|流動的なメンバー構成のジャズグループ。インタビューに参加したサックスのアイゼア・バーを中心に、2014年にNYで結成。2018年にデビューアルバム『Lower East Suite Part Three』をリリース。デヴィッド・バーン、ブラッド・オレンジ、プリンセス・ノキア、ケルシー・ルーなどと共演する。

NYXO Recordsのリリース第2弾!

Drama
jasno 2021
NYのダウンタウンシーンから音楽を発信しようとアイゼアが始めたレコードレーベル「NYXO」。第2弾はアイゼアのパートナーであり、インディペンデントパブリッシャー・Paradigmを主宰するセオフィロス・コンスタンティノウの亡き友人の未発表アルバム。4枚組LP+ブックレットで今年の11月以降にリリース予定。
photo: Joe Miller
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