カルチャー
GOOD MUSIC #3/Wool & The Pants – from Tokyo –
2021年7月20日
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/07/DMA-_DSC9012-1.jpg)
壊れたサンプラーとオリジナルのコードと
パンクな心があれば。
とにかく、彼らの音楽をまずは聴いてほしいと思う。
SoundCloudにも数曲ポストされているし、Bandcampならアルバムの試聴も可能。ちなみに、聴くのはヘッドホンかイヤホンでがいいと思う。曲作りでモニタースピーカーを使わないみたいだし(こだわりというよりも資金とプライオリティの問題らしい)、大切にしている、というボーカルの距離感も感じられる。
それになにしろ、東京郊外のベッドルームで生まれたリアルで切実な音楽は、そんなふうにこっそり聴くべきだと思うのだ。ウール・アンド・ザ・パンツ。2015年に東京で結成されたスリーピースバンドで、’19年にアメリカ・ワシントンDCのレーベル「PPU」から『Wool In The Pool』をリリース。耳の早いリスナーから注目を集め、坂本慎太郎や音楽誌の『ele-king』も年間ベストタイトルのひとつに挙げた。
これ聴いてみて!
『Wool In The Pool』 2019 PPU
8曲25分の必聴のデビューアルバム。これまで手掛けた数十曲をPPUに送り、マスタリングとコンパイルが行われ形となった。現在は2作目に本腰を入れて準備中。年内のリリースを目指す。
バンドの首謀者の德茂悠は言う。「聴いてくれる人がめっちゃ増えた実感はあまりないですね。コロナでライブもなくなっちゃったし、作品がすごく売れたとも聞かないし」
![](https://popeyemagazine.jp/wp-content/uploads/2021/07/DMA-_DSC8636-1600x1066.jpg)
が、そうだとしても、はっきり言ってとてもカッコイイ音楽だ。古いダブのような粗さと奥行きがあり、ダンスミュージックやヒップホップのような身体性があり、ドライなリリックが東京の地べたの暮らしを描く。つまり、ロンドンやNYあたりのインディーズとも伍するオリジナリティがある。それはどうやら制作環境にも由来する。
「曲作りのメインで使っているのは、中古で買ったジャンクのサンプラーです。説明書もなかったし、機能も限られていて、メモリも壊れてます。ベースとギターも使うけど、基本は単音で弾いていて、コードは適当な押さえ方で、5個くらいのを使い回してます」
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左/右が愛用のサンプラー「ローランドMC-909」。曲作り用にラップトップも購入したが、使いこなせなかったため、使用を断念したのだとか。
下/貸しスタジオでセッション。バンド用のアレンジで曲の印象はがらりと変わる。
右/曲はすべてiPhoneのボイスメモに。
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ひねくれてるわけではない(たぶんね)。ただ彼は自分にとってベストな音楽を、今ある環境で模索している。ゆえに、正しいとされるコードや、高価な機材なんかは必要ないのだった。
DIY。今ではずいぶん手軽な言葉になってしまったが、その姿にはかつてあったパンクの美徳が重なる。それに、浸るように聴いてきた音楽の記憶と、独特の好き嫌いを聴き分ける素敵な耳がある。かくして、東京の地べたで生まれた音楽は、世界に届いた。
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