CULTURE

GOOD MUSIC #1/Smerz – from Oslo & Copenhagen –

2021.07.12(Mon)

photo: Michella Bredahl
text: Hikari Hakozaki

「好き」と「楽しい」へのピュアな貪欲さが生む、新しい音楽。

 「新しい音楽」って、なかなか出合わない。もちろん「新しく作られた音楽」は日々リリースされるし、しっかり定番のツボを押さえた楽曲も気持ちいいけど、たまには、こんなの聴いたことない! って音にも出合いたい。

 スメーツが今年出したデビューアルバム『Believer』は、オペラも、R&Bも、トランスも、民族音楽も、全部分解してくっつけちゃったような、まさに「新しい」音だった。ミュージックビデオは映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を撮ったラース・フォン・トリアー監督の作品などと比較され、ライブでは暗闇の中でグランドピアノの上に寝そべり、スポットライトを浴びて歌う。彼女たちのダークで妖艶な表現には、驚きを呼ぶ実験性と、惹きつけられる物語性が同居している。ファーストアルバムでこんな世界観を作りあげてしまうこの二人、素顔は一体どんな感じなんだろう?

「最近はコロナ対策の隔離中にジグソーパズルをやってた(笑)。しかも超大きい抽象画だから、時間がかかるの」というアンリエット・モッツフェルトは、ライブなどがあるとノルウェーから相方のカタリナ・ストルテンベルグの住むデンマークに移動している。一方のカタリナは、数学の修士論文を書いているそう。華やかなイメージからは意外なほど、地に足がついている。笑いながら屈託なく話す二人にてらいはなく、音楽を作ることや聴くことを純粋に楽しんでいるのが伝わってくる。それが垣間見えるのが、2016年からネットラジオのNTSで続けている番組だ。毎月更新されるミックスは、ヒット曲から作者不明のトラックまで、実に幅広い選曲。意表を突かれたのは今年2月に公開された「Oslo Teenage Mix」だ。スクリレックスやアンダーワールドなどレイヴチューンが目白押し。その上ミックスのジャケ写は10代の本人たちのパーティ姿ときている。

NTSで発表した「Oslo Teenage Mix」のカバー写真。「これは高校に入って初めてのパーティ。たった2時間だけなのに、新しい服を着て張り切って、超酔っ払った(笑)」

 二人が10代の頃に聴いていた音楽が中心というが、ただの懐古趣味じゃなく、現在のスメーツの音楽への影響もしっかり感じられる。「既存の音楽を組み合わせて、自分たちの好きな音を作っている」とカタリナが言うとおり、彼女たちが生み出す「新しい音」の背景には、古今東西問わず貪欲に吸収してきた数多の音楽への愛があるのだ。

Believer
2021 XL Recordings
2018年のEP『Have Fun』発表後、約3年の沈黙を経て、ロンドンのXL Recordingsからリリースされた待望のデビューアルバム。作曲からエンジニアリングまでを本人たち自ら手掛けている。

 そんな二人に、「もしも、人生で誰か一人のミュージシャンの音楽しか聴けないとしたら、誰にする?」と、聞いてみると、「うーん……」とちょっと考えてから、「バッハ!」、と声を揃えた。ガウディは「オリジナリティとは、オリジン(起源)に戻ること」という名言を遺したけれど、なるほどスメーツの「新しさ」の源泉が、「音楽の父」バッハなのも納得だ。

プロフィール

Smerz

スメーツ|ノルウェー出身のカタリナ・ストルテンベルグとアンリエット・モッツフェルトによるエレクトロニック・デュオ。2016年に、アイスエイジらも輩出した「Escho」からEP『Okey』でデビュー。最近ハマっているのはジャパニーズ・ロックで、お気に入りは裸のラリーズやMariah、LSDMarch。写真は、ライブ準備中の一幕。二人の衣装はノルウェー人のデザイナー August Vestbø によるニューヨーク拠点のブランド〈Bror August〉によるもの。

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