カルチャー
意外な二択に学びあり。『たばこと塩の博物館』。
東京五十音散策 錦糸町④
2024年7月10日
photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
edit: Toromatsu
東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「き」は錦糸町へ。
「砂糖と塩」なら想像がつくけれど、「たばこと塩」? 首をかしげた君はぜひ、この博物館へ行ってみよう。
錦糸町駅からスカイツリー方面へ。小さな運河が流れる『大横川親水公園』に面した、5階建ての建物が見える。ここ『たばこと塩の博物館』はかつて政府の「専売品」であった「たばこ」と「塩」の歴史と文化をテーマとする博物館だ。国の財源確保、安定供給など様々な理由から「専売品」であったこれら(たばこは1985年まで、塩は1997年まで専売)は、日本専売公社(現・JT)によって取り扱われていたんだとか。そんな同社により渋谷の公園通りに博物館が設立されたのが1978年のこと。それから所蔵品の拡大と、建物の老朽化を理由に、JTが所有する倉庫の一部をリニューアルした現在の錦糸町エリア(墨田区横川)に移転したのが2015年だ。
「かつてたばこの工場やマッチの工場があったこのエリアは、近代のたばこ産業にゆかりが深かったんです。また、たばこの風俗が描かれた当館が所蔵する江戸時代の浮世絵などには、隅田川エリアの方が所縁があるものも多いです。」
そう答えてくれたのは館の広報担当の袰地(ほろち)さん。取材日は特別に展示の案内をしてもらった。建物2階には「特別展示室」スペースと「塩」の常設展示室。「塩」の展示室でまず目につくのが岩塩の大きな塊(記事最初の写真を参照のほど)。中には実際に舐めてしまう人もいたんだとか。味はやはりしょっぱいらしい。真似しないように! 展示スペースは、なぜ動物に塩が必要なのかという解説パネルに始まり、世界や日本での塩作りや塩の科学的な側面に至るまで細かに展示され、”塩のように”濃ゆい充実ぶり。
3階には「たばこ」の常設展示室。メキシコのパレンケ遺跡(7世紀後半頃)の復元からはじまる。「たばこを吸う神」が描かれた、たばこと人の関わりを示す、現在確認できる最古の資料である。そんなたばこを利用する風習が大航海時代に世界に伝播する様子や、「パイプ」「葉巻/嗅ぎたばこ」「水たばこ」などのグッズの展示が総覧でき、見るだけで楽しい。もちろん、日本におけるたばこ文化の紹介も充実している。専売になる前(明治期)のたばこ商たちの「広告合戦」や、専売後の杉浦非水や和田誠などがデザインしたたばこパッケージなど、グラフィックデザインの原点を鑑賞できる。
「当館はJTの企業博物館ではあるのですが、あくまでも歴史と文化という視点から作品を紹介しています。たばこも塩も様々な文化に広がりがありますし、知らない世界を見ることができると思います。”日常”は次第に形を変えていくので、風俗や文化を保存し鑑賞できることは大切ですよね」
4階の閲覧室には図書資料庫があり、関連する図書や図録など豊富な資料を閲覧できる。また、5階の多目的スペースでは設置されたイスとテーブルでPCを開いて作業をしている人の姿も。良い意味で博物館とは思えない、堅苦しくないゆったりとした時間が流れていたのも特徴だ。「減塩」「減煙」ともいわれる昨今だが、その裏にある豊かな文化や歴史を学ぶことは”減らして”はいけないことかもしれない。暑い夏の日には涼みに行くだけでも十分に1日が充実しそうな、普段使いしたい博物館だ。

世界遺産・ヴィエリチカ岩塩坑の岩塩でできた彫刻『聖キンガ像』。ポーランドの現地にもよく似た像があり、守神として信仰の対象にされてきた。

遊牧民は塩を「家畜の栄養」と「群れのコントロール」の目的で用いていたんだとか。紋様が素敵。

7日間日替わりで使えるパイプ。やっぱり日曜日だけちょっと浮かれてない?

たばこの広告は今やなかなかお目にかかれないもの。中央の「今日も元気だたばこがうまい」のフレーズにはちょっとびっくり。勢いのある高度経済成長期の日本の生活を示す資料だ。

杉浦非水やレイモンド・ローウィなどの貴重なデザインも見れる。和田誠が学生時代にデザインした『hi-light』は、緑や青のイメージがあるけれど、実は和田さんは黒バージョンを推していたとか。

たばことデザインは非常に密接。かつて誰がどんなデザインを手がけていたのか、気になったら4階で資料閲覧も可能。

『大横川親水公園』側の出入り口には明治のたばこ王・村井吉兵衛の『村井兄弟商会』工場跡の門柱が。明治頃のたばこ工場のどっしりした風格を感じる。
インフォメーション

たばこと塩の博物館
1978年に渋谷の公園通りで開館。2015年4月25日に墨田区に移転し、リニューアルオープンしたJT運営の博物館。特別展も年に4回ほど開催され、直近では『第45回夏休み塩の学習室 買い物ゲームで塩さがし!2024』として7月20日(土)~9月1日(日)まで参加型展示も開催予定。大人・大学生:100円、小・中・高校生:50円という破格の安さの入館料が信じられない。
○東京都墨田区横川1-16-3 ☎︎03•3622•8801 10:00〜17:00(入場は16:30まで) 月、年末年始・休(7月9日(火)~7月12日(金)は臨時休館)
Official Website
https://www.tabashio.jp/index.html
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