カルチャー

小さな鉢の大きな自然。完成のない趣味を『品品』で。

東京五十音散策 奥沢③

2024年4月10日

photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
edit: Toromatsu

東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどを
ぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「お」は奥沢へ。

 空き地で野球をしていると、ボールが裏の家の盆栽に直撃。そこの親父さんに怒鳴られるなんて場面は、ギャグ漫画の王道描写。ところが近年、盆栽=”裏の家の親父の趣味”ではなく、「BONSAI」というクールな嗜みとして海外でも人気が高まっているそうではないか。ただ、盆栽というと手間のかかる印象があるし、伝統的な芸術のひとつであるからこそ、せっかく興味が湧いても、敷居の高さを感じてしまうのが本音だ。

 奥沢駅から徒歩5分、盆栽教室・造園のお店『品品』で、まずは教えてもらうことからスタートしてみるのはいかがだろう。初心者コース、応用コース、個人教室と、いろんな要望に合わせた3つの教室を用意しているから、どんな人でもトライすることが可能だ。

 教えてくれるのはオーナーの小林健二さん。盆栽作家として、個展をはじめ様々な著作を記したり、他業種とのコラボレーションを行ったりするなど、精力的に活動をされている方だ。「良い家と庭があって良い”家庭”になる」というお父さんの教えから、若い頃は建築や造園に興味があったという小林さん。庭や植栽などの公共の緑についての仕事をするうちに、盆栽へと関心を広げ、オレゴン州ポートランドで活動されている盆栽作家・古川昌弘さんの元で修行を積んだ。今年、奥沢でお店をはじめて22年目を迎える。

 「店名は『品のある品を』という思いでつけました。身近に四季を感じながら、その美しさを飾ってみるのは楽しいですよ」

 何にも知らない僕にも小林さんが優しく教えてくれるから、初めての盆栽でも安心して取り組めた。教室には若い人をはじめ、カップルから親子、会社員、リタイア後の仲間グループ、観光客などなど、年齢性別さまざまな人が訪れる。2時間ほどかかる作業も会話しながらやれるから、教室というより、コミュニティスペースのような楽しさがある。

「便利で効率がいいことも悪くないですが、盆栽のように手間がかかる良さもあると思うんです。小さな木と、自分と対話しながら温和な気持ちになれますしね。植物は自然のものですから、自分が住む地球や環境を知っていくきっかけにもなります。それはとても人生にプラスだと思いますよ」

 そう笑顔で語る小林さんを見ていたら、盆栽をやることで心も素敵になれるんだろうなと思わずにはいられなかった。今この原稿は、取材時に作ったイワシデの盆栽を横に置きながら書いている。数日間面倒を見ているだけで、感じたことのなかった情が湧いてきているし、徐々に成長するシデの葉にとても癒される。さて、水をあげてこようかな。

初心者教室は8500円(税抜)。セレブなイメージがあったけど、リーズナブルで挑戦しやすい。

お気に入りの一本をチョイスしたら、土づくりからスタート。硬質赤玉土など5種類の土や肥料を混ぜる。質感がとっても気持ちいい。

根まわりの土を削り、植え替え。構図が決まったら、苔を敷いたり、砂を配置したり、様々な情景を想像しながら、自分だけの景色盆栽をつくる。

いい感じに出来上がった! 人間よりも長く生きることがあるという盆栽。これから”完成”のない趣味の旅がはじまる。

撮影スタジオを改装した落ち着きのある店内では、盆栽作品の販売はもちろん、受け皿や鉢、ハサミなどの盆栽グッズも購入可。

インフォメーション

小さな鉢の大きな自然。完成のない趣味を『品品』で。

品品

実は飲食の持ち込みもOK。友達とパーティー気分で盆栽をはじめるのもよさそうだ。「車が故障したり、ペットが病気になったらすぐ専門家のところへ連れていきますよね。そんな風に盆栽もわからないことがあったり、困ったことがあったらすぐ連れて来てください」とのことで、不安があっても大丈夫。頼れる街の盆栽屋さんなのだ。

◯東京都世田谷区奥沢2-35-13 ☎︎03・3725・0303 11:00〜18:00 水・第一土曜休

公式ウェブサイト
https://www.sinajina.com/