フード

願わくはずっとあってほしい、池尻のオアシス『Caf’e du PePe』。

東京五十音散策 池尻大橋①

2023年6月23日

photo: Hiroshi Nakamura
text: Fuya Uto
edit: Toromatsu

東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどをぶらりと周っていく企画「東京五十音散歩」がスタート。2文字目「い」は池尻大橋。

渋谷駅と三軒茶屋駅の間にある池尻大橋ゆえに、トレンドやアップカマーが作る“最近の街”のイメージだったけど、甘い認識だった。ヒップにまぎれひっそり息づく店こそ、この小さな街の屋台骨となっていたからだ。

大事に使い込まれた奥行きのある半円カウンター、黒板に描かれた手書きメニュー、極めつけは有線で流れていたホイットニー・ヒューストンのバラード。クラシックだけど純喫茶とは異なる、80年代カフェブームの頃にできたこの喫茶店『Caf’e du PePe』は、池尻大橋と中目黒の中間(池尻寄り)に佇む、地元民はもちろん、喧噪に疲れた者が頼りにしているエスケープスポット。

ランチメニューはなく、朝から好きなものを注文できるスタイルで、食事の全品にサラダと珈琲がつく(しかもどれも良心的な値段)。お店をはじめた頃のことを店主の鍵谷浩子さんに聞くと、「食事はスパゲッティとサンドウィッチくらいだったの。要望に応えるうちに増えていって今では結構手一杯……。でもどの一品もそれを食べに訪れるお客さんの顔が見えるから、手一杯でもメニューを減らすくらいなら、たとえ焦げちゃってもしょうがないと思って出してるの。そういうタイプのお店なの」と、チャーミングに話してくれた。

レモンスカッシュ(¥500)に、フルーツポンチ付きのオムライス(¥1,100)とどこか懐かしいメニューばかり。視界に入ってくる店内の些細な造花や、壁面に彩られた野菜をモチーフにした装飾、レジ横にあるダルメシアンの置物なども実家にいるようでとにかく落ち着く。「枯れるのがあまり好きじゃない」と鍵谷さんが店内に飾る造花のように、この店がいつ見ても変わらない佇まいで咲き続けてくれていることを願う。

インフォメーション

Caf’e du PePe

池尻大橋駅東口を出て約7分。商店街を中目黒方面に抜けた先の住宅街で、平日のみ営業している古き良き喫茶店。「来店してくれるお客さまとの出会いが楽しいから続けている」と話してくれた鍵谷さんは、百貨店の販売員を経て、この喫茶店を始めたらしい。新聞を読む常連客や、喫煙可を知る慣れた顧客に支えられているお店だからこそ、訪れる際には礼節を忘れずに! 細麵で出てくる焼きそばも美味しかった。

◯東京都目黒区東山2-4-15 ☎03・3711・0391 9:00〜18:00 土・日休 お会計は現金のみ