カルチャー

東京のことをよーく知るための自由研究/小林眞 –アジアの刺激と好奇心編 –

2021年5月3日

普段使いの東京案内。


photo: Yuri Manabe
illustration: João Fazenda
text: Satoshi Taguchi
2021年5月 889号初出

タッカンマリもいいけどもっといろんなアジアがここに。

小林 眞

 JR山手線新大久保駅下車。北側の改札を出ると、目の前には大久保通り。首を左右に振れば、飽きるほど見慣れたチェーン店と、聞き慣れぬ語感をした店のサインが混在している。時節柄、ハングルとシティガールがたくさんかとも思ったが、道ゆく人だって、もっといろいろなアジアの気配。

「コリアンタウンなんていわれてるけど、それは一部。この街はどんどん入れ替わってるんですよ。だから楽しい」。羽根木の『out of museum』の小林さんは大股で歩きながら言う。かれこれ30年以上も通っていて、ガイドを買って出てくれた。

「シンオークボ」と称されるエスニックなエリアは、東は東新宿駅あたりから、西は大久保駅あたりまで広がる。その東西を大久保通りが背骨のように貫き、距離にしておよそ1.3㎞。端から歩くだけなら片道で15分。しかし脇の路地や雑居ビルに迷い込めば、あっという間に時計は進む。名も知らぬ香辛料に空腹を刺激され、汗を垂らして腹を満たし、ドリアンジュースや薬草入りのお菓子の甘味に、シビれた舌を癒やされて、たちまち日は暮れていく。ホントに美味しいお店を選んだら、という条件付きだけどね。

「増えてきているのは、ベトナムやネパールのお店かな。気になったら、まずは入る。まずかったり、メンチ切られたりすることもあるけど、そういうスリルもいいじゃないですか。東京じゃあなかなか味わえなくなったしね。美味しかったり、楽しいお店は、だいたいその国の若い人がすーっと入っていく。見つけたときはチャンスです」

 かくして我ら、新大久保でアジアを彷徨す。その成果を上に。ただし、これがすべてでは、もちろんない。

「何が起こるかわからない。だから面白いんです。今の世の中、ネットで検索できないものすべてがノイズになってしまっている気がします。でも、本当はノイズこそが面白い。この場所では、そんなノイズが渦を巻いて待っていてくれる。期待感があるんです」

 刺激的な香り。勢いよく湯気が立つ皿。聞き慣れぬ旋律と会話。雑音に堕すことのないエネルギーのようなもの。シンオークボが東京にあってよかった。

Nepal ネパール
近年、新大久保への進出が目立つ国のひとつ。ヒマラヤ山脈を抱く山岳国家で主食は米。チベットやインドなど周辺からの影響を感じる料理が多い。ややマイルド。

『ベトガト』の店内
『ベトガト』のワンプレートカレーランチ

『ベトガト』
店内に入るとまずはネパールの食材がずらり。各種の乾物やマトンの塊肉などもある。その奥が食堂のようになっていて、ミールスやモモ、リーズナブルなワンプレートのカレーランチ(¥550)も。○新宿区百人町1-11-31

ベトガト

『バラカーデグッドタイムス』
外観はどこか韓国風。階段を下りると、広々とした空間にステージやDJブースまで。夜はネパールの若者の社交場に。穏やかなムードが漂うのは、スタッフや仏像の優しい表情ゆえか。写真の皿はチリーモモ¥770 ○新宿区大久保1-14-18

ライサン ヘア ネパール

『ライサン ヘア ネパール』
ネパール出身の若者が増えてきたせいか、美容室もおよそ1年前にオープン。スタッフのお姉さんも美人だし、カットで2100円というお値段も魅力。髪型はツーブロックが人気みたい。○新宿区百人町2-20-23 1F

Thailand タイ
トムヤムクンにグリーンカレーと辛い印象だが、それは料理のごくごく一部分。南北に長い国なので味もいろいろある。カラフルで甘ーいお菓子も名物で、甘党が多いのも特徴。

『バーン・タム』のシェフ、タムさん
バーン・タム

『バーン・タム』
店名は「タムさんの家」の意。駅近くの雑居ビルの地下で店頭に「伝説のシェフ」と大書されているが、伝説かはともかく、調理場を一人で切り盛りするタムさんの料理は素敵かつスピーディ。○新宿区大久保2-19-1 B1

ルン・ルアン

『ルン・ルアン』
お菓子とお弁当は、すべてハラルフード。タイから来日して39年のママさんの手作りだ。店内にはイートインスペースも。ブルーのゼリー、ローアンチャーン(¥216)は薬草入り。少し甘くて、少し苦くて、少し硬い。そして全体的に優しい。○新宿区百人町1-14-5

Indonesia インドネシア
「世界一美味しい」とも称される、ルンダン(牛肉のスパイスとココナツ煮込み)を生んだ国。辛いも甘いもいろいろで、量もたっぷりが基本。食事は右手でどうぞ。

トウキョウ インドネシア オオクボ

『トウキョウ インドネシア オオクボ』
大久保駅から程近くのインドネシアの食材店。レトルトヌードルやスナック、ジュースが豊富で、それを目当てに来る若者も。冷凍庫にはアヒルや川魚が。○新宿区百人町1-19-18

モンゴ モロ
モンゴ モロ

『モンゴ モロ』
ジャワ料理のレストラン。メニューはショーケースから選ぶ。家族経営でお母さんが厨房に立ち、その日の食材に合わせて腕を振るう。運が良ければルンダンや、看板娘のレヴァさんの素敵な笑顔にもお目にかかれるかも。郷土の母の味を求めて遠方からも来客多数。新宿に移転予定。@monggomoro.pasti.enak

Vietnam ベトナム
こちらもまた、このところ新大久保への進出が見られる国。野菜をたっぷり使った優しい味付けに、スパイスやニョクマムの風味が素敵。いろどりも豊かな皿が多い。

東京のことをよーく知るための自由研究/小林 眞 –アジアの刺激と好奇心編 –

『フアン ビ アジアトウキョウ』
ベトナムの食料品店。店内は明るくてクリーン。食材から調味料まで品数も豊富だが、マムと呼ばれる発酵食品のバリエーションはさすが。旨味と香りは独特で、クセになったらこちらへ通うしかない。○新宿区百人町1-19-13 2F

ソッコン/ソッコン ファーストフード

『ソッコン/ソッコン ファーストフード』
和名はリスちゃん。2017年にまずはレストランがオープン。小ぢんまりとしてるが、料理は本格的でベトナムの若者からも支持されている様子。バイ貝とレモングラス炒め(¥1,380)も美味! 新宿区大久保1-7-21/ファーストフードのほうはテイクアウトスタンド。出来たてのバインミーは500円から。○新宿区百人町2-20-1

一緒に研究した人

小林 眞

こばやし・まこと|『out of museum』代表。1960年、長野県生まれ。2018年にアトリエ兼ギャラリーショップ『out of museum』をオープン。最近は月3〜4回ほど新大久保へ。主に食材調達が目的だが、気が向けば夜更けまで。