カルチャー

机の上のサイエンス。Vol.25

鹿の角

2023年7月3日

text & edit: Shogo Kawabata
photo: Akira Yamaguchi
2023年7月 915号初出

立ち上る炎のようなシンボル。

奈良の名猟師・吉田博さんが約50年かけて集めた美しいニホンジカの角。野生では「ゴンボヅノ」と呼ばれるごぼうのような細い角のほうが多く、2本揃って立派な「3又4尖」となるシカが捕れることは稀だそう。

 シカの角の枝分かれの数は遺伝的要素と栄養状態で決まる。ニホンジカの場合、通常3つの枝分かれと4つの頂点からなる「3又4尖」と呼ばれる形状となる。特別大きな個体などに「4又5尖」も現れることもあるが、非常に稀なケースだ。過酷な環境を生き抜く野生個体ともなると、栄養状態は安定しないため、2本揃って「3又4尖」となる個体すら珍しい。

 角はオス特有のもので、毎年3月頃に生え替わる。新しく生えてきた角は、皮に覆われた「袋角」という状態で成長していく。中には血管が通っていて、その血流によりカルシウムが溜まり、角が形成されていくのだ。この袋角の状態で角はどんどん大きくなっていき、9月頃になると全体が硬くなり、皮が破れて、中から硬い角が現れる。この袋が破れたあとは、もう角は成長しない。角の表面のゴツゴツとしたテクスチャーは血管の痕跡である。