TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】山ときのこと人/山ときのこと人
執筆:猪瀬真佑
2026年3月5日
アダムとの出会いは2023年2月。ニューヨークの友人から紹介された。大都市の有名ホテルのラウンジや自然食品で有名なグローサリーストアチェーンの店内で当時のアメリカでは珍しい種類のきのこを育て販売するという、斬新なきのこ栽培を展開していた。ハイテクとサステナビリティを持ち合わせたアプローチが評価され、メディアでも注目の人だった。その彼が、旨味に関する情報を求め、きのこのリサーチため日本へやってきたのだ。
初来日で、山梨の原木生椎茸の栽培現場を案内した。菌床栽培よりも不安定で効率も良くない原木栽培をなぜ今の時代になってもまだ続けているのか、アダムが不思議そうにしていたのも、わからなくはない。けれども私は日本における原木椎茸の魅力を伝えたいその一心で、「食べればわかる」とただ言うのではなく、その椎茸の背景にある「里山」の存在をアダムに話した。
時は巡り、2025年11月。ニューヨークとロサンゼルスからやってきた4人と私は、大きな機材や荷物を抱えて東京に集合し、山地を目指した。プロデューサーのアダム、監督のルイス、フォトグラファー/ビデオグラファーのコリン、AR /VRのテクノロジストのウィンズロー。今回の目的地は、福島、宮崎、長野と周辺地域。「里山とは何か」。これを明らかにしていく取材の旅。一つのアイディアが形になっていく実感があった。
細い林道を抜けると、そこには原木椎茸栽培をしている「ホタ場」があった。綺麗に並べられた椎茸の「ホダ木」。この頃はもう、これらの専門用語は私の日常単語になっていた。
知人や、紹介してもらった人たちを頼りに訪ねゆく、里山の取材。
「親の代が炭焼きをしていてね、炭をつくらなくなって原木椎茸を始めたんだ」
先祖から代々受け継がれた山。時代に合うように里山は活用されてきたのだ。つまり、それはリソースマネージメントが行われている証拠でもあった。そして、守り続けるということは、その場所に住み続けるということ。当たり前のように放たれる「代々」という言葉にかかっている時間の流れ、意志の重みを目の当たりにした。
インタビューの質問項目はいつも監督と話し合って決めて挑んだ。自然に始まっていく日本語での会話を、カメラを止めずに撮り続けてくれたクルー。取材している相手と何を話しているのかわからなくても、私を信じて会話の流れを委ねてくれていた。
コミュニケーションの役目は、特に責任を感じると同時に、気合いが入る。本来育った国が違う者同士では、同じ文脈で理解できないのが当たり前。日本人の私が受け取った感動をクルーの仲間に共有し、彼らがそれをどう受け取るか、私にとってはとても重要なことに思えた。なぜなら、互いに学びを共有し、理解しあった上で形成される複合的な視線からこの「里山」を分解しているからだ。
ドキュメンタリーフィルムの撮影は、チームプロジェクトの一つ。それ以外でも私は各地を巡り人を訪ねては記録することをしている。山は本当に面白い。
原木椎茸を通して、きのこに出会い、そこから山を知った。
山ときのこと人。
きのこが山とつないでくれたと思っている。
そのつながりこそに、なぜ里山を訪ねることになったかの理由が詰まっている。
季節ごとに顔を変える里山は、一度にその全貌を捉えることなど到底できない。このドキュメンタリーフィルムはまだまだ制作中のため、その魅力の一部を切り取ったリール動画をお届けして「山ときのこと人」の最終回としようと思う。
阿蘇山にて
プロフィール
猪瀬真佑
いのせ・まゆ|1989年、東京都生まれ。山梨県にある原木椎茸の種菌メーカーへの入社をきっかけに、原木椎茸栽培にまつわる里山とのつながりに興味を抱き、日本の地形と豊かな森林資源からなる里山文化の奥深さを知る。キノコを共通点として国内外の人とつながりを広め、現在は山やその中の人の営みを記録するアーカイブプロジェクトのほか、「原木椎茸栽培を通して調べる里山や自然資源管理」を大きなテーマにアメリカのチームとドキュメンタリー映画を制作中。清澄白河にあるコーヒーかすできのこを栽培するカフェ〈KINOKO SOCIAL CLUB〉の立ち上げメンバーの一人でもある。
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