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【#3】街とVHS -水戸と陶器の熊-

2021年11月25日

photo & text: VIDEOTAPEMUSIC
edit: Yu Kokubu

先日、ビデオアーティストのピピロッティ・リストの展示がどうしても見たくて、常磐道をひた走り、茨城県の水戸芸術館に行ってきた。

学生時代に観たピピロッティ・リストの映像作品「I’m Not The Girl Who Misses Much」は自分に大きな影響を及ぼしている。早送りや極端なスローモーションで無慈悲なまでに歪められた歌。画面を鋭く横切るビデオテープの磁気ノイズの暴力。彼女の作品の本来のメッセージとはズレているのかもしれないが、自分にとってそのビジュアルのインパクトはビデオのノイズ、そして映像メディアそのものの魅力と恐ろしさに取り憑かれるきっかけの1つだった。映像というものはそこに映された本人の意思を無視して、ズタズタに切り刻まれても動き続けるゾンビみたいなものだ。とても怖い。

そんなピピロッティ・リストの旧作から新作までを網羅した展示で自分のルーツを再確認し、どこか心を清められたような気分になった後は、何度かライブでお世話になっている水戸のイベントスペース&レコードショップのLights Out Recordsへ。店内にあるレコードに針を落とし、ハートランドを開け、2019年の夏以来の久々の再会を楽しんだ。

先ほどのピピロッティ・リスト「I’m Not The Girl Who Misses Much」の中の速度を歪められた歌を思い出しながら最近入荷したというニューウェイブやポストパンク系の45回転の7インチをかたっぱしから33回転で聴いていく。低速になりサイケデリックに変調された響きに、その場のみんなが唸り、揺れ、酩酊する。楽しい。本来の再生速度を無視された音楽の引き延ばされた拍と拍の隙間から、今まで見えなかった別の世界が顔を出す。33回転で聴いたUKのポストパンクバンドPersian Flowersの84年のシングルB面曲「Summer Of Love」は湿度を含んで重く揺らめく夏の空気みたいで素晴らしかったので、その場で購入した。そのまま安いビジネスホテルに1泊。翌日は下道で東京へ戻りつつリサイクルショップなどを巡った。

茨城の国道沿いを走っているとやたらと目に付くご当地ラーメンチェーンのにんたまラーメンを食べ、ニンニク臭くなった体のまま小美玉あたりの国道沿いのリサイクルショップを訪問。薄暗く乱雑な店内を奥深くまで徘徊し、VHSを1本購入。

「ふるさと光紀行」

買ったのは2001年に常陽藝文センターが制作した茨城県のご当地VHS。「光」をキーワードに茨城県各地の風景(ホタル、灯台、伊奈の綱火など)を紹介していく内容。灯台の保守管理をする人や、ステンドグラス作家、古灯具コレクターなどだいぶ渋いところをついた人選のインタビューで構成されてるのだが、「光」というテーマに絞ることで、淡くて独自目線の地域案内になっている。BGMは国内大手の著作権フリー音源ライブラリーであるナッシュミュージックライブラリーのもの。ステンドグラス作家の紹介シーンで流れる曲に程よいニューエイジ/アンビエント感があって良かった。

ちょうど阿佐ヶ谷姉妹の楽曲のMVを作っているタイミングだったので、店内にあったどことなく阿佐ヶ谷姉妹を思わせる雰囲気のある熊の陶器人形が妙に気になってしまい、1分ほど悩んだ末にこれも購入。2体で300円。微妙に2体の顔つきやサイズ感が違って、既製品にはない愛嬌がある。MV内にも紛れ込ませたのでよかったら探してみてください。

阿佐ヶ谷姉妹「Neighborhood Story」(MV)
https://youtu.be/KJRdBUsDkLk

プロフィール

VIDEOTAPEMUSIC

びでおてーぷみゅーじっく|ミュージシャン、映像ディレクター。1983年、東京都生まれ。地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西さまざまなビデオテープをサンプリングして映像と音楽を同時に制作。近年では様々な土地に行って録音されたフィールドレコーディング素材を用いた楽曲制作や、国内外のアーティストとのコラボレーションなども多く行なっている。VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、MV制作、VJ、DJなど幅広く活動。映像ディレクターとしてはcero、CRAZY KEN BAND、坂本慎太郎など様々なアーティストの映像も手がける。

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