TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#4】「他人の日記なんか集めてどうするの?」
執筆:金子祐輔(日記博物館・館長)
2026年7月5日
数百冊の日記に囲まれて、板橋区に住んでいる。
2年あまりの買取で日記が仕事部屋に収まらなくなり、廊下にあふれ始めているのが目下の悩みだ。
「日記を集めてどうするの?」とたまに聞かれる。
正直に言えば、最大の理由は「ロマン」だ。
更級日記や土佐日記、方丈記やアンネの日記——今では文学や歴史資料として読まれる日記も、書いた当人は「まさか教科書に載るとは」と思っていなかったはずだ。私が収集した日記だって、100年後には誰かの論文に使われるかもしれない。
昔読んだ本に「100年かけてやる仕事」というノンフィクションがある。100年以上の年月と膨大な資金をかけて、中世ラテン語の辞書を編纂するという何とも羨ましいプロジェクトを追った本だ。
「そんな気の長い仕事、やっていられないよ」という人が大半だろう。しかし私からすれば、四半期決算に向けて数字を積み上げる方がよっぽどしんどい。年に4回も疲労の波が来て、そこに向けて全力を出して、出世だとか昇給だとか言っているのは狂気の沙汰である。日記博物館は100年続くプロジェクトになってほしいので、北斗神拳のように一子相伝で誰かに受け継いでいってもらいたい。
ちなみに日記の買取依頼は断ったことがない。
「そんなにたくさん買わなくても良いんじゃない?」
いやいや、そんなことはない。
日記は「私が買わないと、処分される可能性が高い」のだ。
日記は売ってもお金にならないし、保存しようにも場所を取る。個人情報が載っていれば、処分方法も悩ましい。その結果、日々大量の日記が「処分」されている。私からすれば、日記を捨ててしまうのは、ヒエログリフを破砕処理しているのと一緒である。
なんともったいない。イーロン・マスクくらいお金があれば「日記を買い取ります」と朝から晩までテレビCMを流したいと悔しい思いだ。
もし、日記の処分に困っている方がいらっしゃったら、小遣い稼ぎ程度にご連絡いただけると嬉しい。
幸いなことに連載中にも日記の買取依頼が来た。とりあえずは廊下に置くことになる。妻には「夢みたいなことは良いから、段ボールごと部屋にしまって」と言われている。
こうした妻の小言も、日記とともに100年先まで残っていくかもしれない。
インフォメーション
金子祐輔
かねこ・ゆうすけ|1988年、群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、出版社を経てビジネスメディアに転じる。本業の傍ら、他人の日記を蒐集する「日記博物館」の館長として活動中。暇さえあればジュンク堂書店と囲碁サロンに行きがち。
Official Website
https://diary-museum.jp/
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