TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】いろんな人というひとりひとりの色

執筆:熊谷充紘

2026年4月26日

「お客さんはどんな層の人が多いですか?やはりご近所の方が多いのでしょうか?」インタビューで聞かれる度に口ごもってしまう質問だ。そんなこと考えたこともなかったから。

 基本的にお客さんとは挨拶しかしないので、お客さんの名前も、どこに住んでいるかもわからないし、性別や年齢も関係ないというか、ひとりの人としてしか見ていない。何かを分類することでこういうお店と言えばそこに当てはまる人は来やすくなるかもしれないけれど、当てはまらない人が来づらくなるのは困る。そもそもわたしはさまざまな局面においてどの分類にも当てはまらないなと感じることが多かった。選べないことが多かった。分けることは、わたしの居場所がなくなるということだった。そんな思いをお客さんにはしてほしくないから、分かりやすくない店でいいんだと思う。本屋と言われることが多いし、自分でも「わたしとあなた」の本屋ということもあるけれど、店名の頭には、本屋&ギャラリー&カフェをつけていて、お客さんに提供しているのは時間だと言っている。まどろっこしい店なのだ。わたしだってまどろっこしい手続きは苦手だけれど、ひとりひとりの人生からまどろっこしさを省略してしまうことは他人が勝手にしていいことではない。

 近所の方が多い? という質問からは、街の本屋であることが期待されているようにも感じる。街から本屋がなくなっている今ここで店をやることで街を盛り上げようという気持ちがあるのではないかと聞きたいのかもしれないけれど、わたしにはしっくりこない。そもそも街というものは、ひとりひとりから成り立っているのだから。街を主語にすることで、やっぱりその分類から溢れて落ちてしまう人がいると思う。それは本当は街だけではなく、それぞれの県も国も社会も、すべてはひとりひとりから成り立っているということ。だからどれだけ遠く離れていても、「わたしとあなたの店」という親密さは生まれると思うし、もちろん近所の通いやすさから、結びつきが強くなっていくこともあると思う。大切なのは、主語をひとりひとりから始めること。

「近所にはもうここしか本屋がなくてね。ありがとうね」と声をかけてくれるお客さんがいる。「遠くてなかなか来れないけれど、また来ます」と言ってくれるお客さんがいる。そしてほとんどのお客さんとは「こんにちは」と「ありがとうございました」だけを言い合って別れる。

 だからインタビューの答えはいつも「いろんな人が来てくれます」。いろんな人という大雑把さの中には、ひとりひとりの色が確かにあると思うから。黄昏時が美しいのは、いろんな色が混ざっているからだと、屋上でひと息つきながら思う。

プロフィール

熊谷充紘

くまがい・みつひろ|1981年、愛知県生まれ。三軒茶屋で本屋&ギャラリー&カフェ『twililight』を営む。出版社としても、『体の贈り物』(レベッカ・ブラウン/柴田元幸訳)、『人といることの、すさまじさとすばらしさ』(きくちゆみこ著)などを刊行。本と出会う場を広げるべく、イベント企画や選書、執筆も行う。これまでに「SHIPS HAPPY HOLIDAYS」選書、渋谷PARCO「あいとあいまい」選書&出店、LUSH「BATHING & POETRY」選書&インタスレーションなど。屋上でぼんやりする時間が好き。

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