TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#3】広告ハンターの観察記 痴漢・盗撮啓発ポスター

執筆:小林美香

2026年4月25日

 よく利用する駅のエスカレーターの壁面に、「痴漢・盗撮は犯罪です 必ず誰かが見ています!!」というコピーで、警察官のキャラクターが監視カメラと黒いシルエットの人物(痴漢・盗撮する人)を背景に、手を前に出して制するようなポーズに「STOP!」と呼びかけるポスターが掲出されています。赤・黄色・オレンジの鮮やかな色合いと明快な線画のイラストなので遠目でもよく分かりますし、犯罪を抑止したいという断固たる意志・態度が表現されています。

JR浮間舟渡駅(2026年4月11日撮影)

 このポスター、他の駅構内でも目にするので、見かけたことがあるという方も多いのではないでしょうか。広報ポスターとして目立つし、メッセージをわかりやすく伝えているものだと思うのですが、それでも見る度に「このポスターは痴漢・盗撮の抑止にどれほど効力を持っているのだろうか?」と訝しむ気持ちが湧き上がります。おそらく、このポスターを見る人の多くは、「犯罪行為を見て、通報・告発する側」であることが想定されていて、潜在的な加害者に対する注意喚起・警告のメッセージとして受け止められて、行動変容を促すものとはあまり思えないのです(確かに、周囲の人が注意を払って被害者をサポートすることはとても大切なことです)。さらに言うならば、痴漢・盗撮は、常習・反復性の高い性的な行為依存症としての側面もあり、広報物を通して監視の目の存在を意識化させさえすれば問題行為を抑止できるというわけでもないでしょう(依存症としての盗撮については、『盗撮をやめられない男たち』が詳しいです)。

 私が、広告観察をするようになったのは2018年ごろで、駅構内に貼り出されるポスターで、ソーシャルメディアを通した性加害行為や、リベンジポルノに対する啓発広報が増えていったときだと記憶しています(ちなみにリベンジポルノ防止法が制定されたのは2014年です)。印象に残って記録しているのは「私をさらしたのは、私だった。」と制服姿の若い女性が沈んだ表情で写っている写真を使っているものです。何らかの被害を受けた女性に対して、「あなたの不注意や落ち度にも一因がある」というメッセージが含まれています。「インターネットを介して画像が拡散されて被害者になる可能性があるかもしれないよ(だから迂闊に個人情報を開示しないように、気をつけて)」という事前の教育・指示・行動指南は必要ですが、「さらす」ことに関わる加害者・加害的行為の主体は透明化されています。また、スマートフォンを持つ手が誰のものなのかは示されていません。イメージとして差し出されている女性の顔との関係においても、見る側の身体は透明化され、執拗に若い女性が「見られる対象」として差し出されています。

都営三田線蓮根駅(2018年7月17日撮影)

 その後、「痴漢撃退機能」「防犯ブザー機能」を備えた警視庁のアプリ、デジポリスの広報も頻繁に見かけるようになりました(デジポリスのリリースは2016年)。アイキャッチとして著名人を起用した広報ポスターはさまざまに作られていますが、「どうしてこんな表現になるんだろう??」と思ったのが、「サザエさん」の波平とマスオの着ぐるみキャラクターが登場するもの。「声はかけにくくても、できることがある。」とスマホを持った波平が「ちかんされていませんか?」という画面を差し出しながら正面に向かってくるという絵面で、親しみやすいキャラクターを通してアプリを周知したいという狙いはわからなくもないのですが、もう少し違う伝え方があるのでは、、と思いました。

都営地下鉄 春日駅通路(2022年7月12日撮影) 

 公共空間で性的加害行為について伝えたり、注意喚起をするのに適した表現を作るのはなかなか難しいものだなぁ、と思います。

プロフィール

小林美香

こばやし・みか|1973年、奈良県生まれ。国内外の各種学校や機関にて写真やジェンダー表象に関するレクチャー、ワークショップ、研修講座、展覧会の企画と並行して、雑誌やウェブメディアに寄稿するなど多岐に渡り活動中。著書に『ジェンダー目線の広告観察』(現代書館)『その〈男らしさ〉はどこからきたの?』(朝日新書)などがある。また、Inclusive Marketing Lab(IML)を運営する。

Official Website
https://inclusive-marketing-lab.com/

Instagram
https://www.instagram.com/mika__kobayashi/

X
https://x.com/marebitoedition