カルチャー

創刊50周年記念プロジェクト ポパイフォントを作ったよ。/中編

2026年6月16日

「P」「O」P「E」「Y」Eを分析する。

「『ルールなし』です。本誌の『タイトル・ロゴ』以外のボクが作る子どもたちは自由で良いと。〈字役者〉が元気な舞台作りたいですね。文字だけでも魅力のある物ができたら嬉しい。自己弁護にもなりますが『ちょっと、へたっぴー』なのもこのフォントの魅力です。というと、堀内さんに叱られるか。でもボクは創刊号を描いてるそばでみていたときからヘタウマがいいと思っていたのです」。

まずは『POPEYE』をつくる4つの文字、「P」「O」「E」「Y」を観察することから始めたが、これが面白い。新谷さんからもらったメールを引用しつつ、研究の成果を紹介していこう。

5月23日
件名: 「原画分析」

まずは基本となる寸法を考えていくことになった。創刊号で堀内さんが描いた「P」をトレースし、原画と同じ、縦20センチに拡大した文字を測ってみる。「縦軸」の直径は62ミリということがわかった。また「テカリ」は文字の同心円上から微妙にズレて、感覚的に置かれていた。

「堀内スタイルの持っている味をどうするか、ですね。これは全字を壁に貼ってにらむ時間をもたないと解決しないかもしれません。(写植文字は一字6センチほどで500文字つくり、壁にはって、ときどき位置をいれかえて長期間検討したそうです。堀内さんは3時間でつくりましたが・笑 つまりあの字はイラスト性が強いのではないか)。」

「堀内さんの原画は『重ね文字』としてロゴ用につくられています。ですから成り立ちが特殊といえます。したがってバラバラに字間をあけて使うと、どこかが違う感じになります。」

「『E』には筆圧の太細に味があって、これも生かしたいので課題となります。」

5月24日
件名: 「四十数年の間で数度変更されていた」

さっそく驚くべき発見があった。「創刊号(イラスト)」「創刊2号以降(版下)」「現号(最新号)」「送本用袋」のそれぞれに書かれたロゴを並べて比べてみたところ、時代によって少しずつ変化していることがわかったのだ。

「ロゴの変更は、そんなにはないものと思い込んでいたのは迂闊でした。考えたら40年以上、編集・AD諸氏や販売担当者による変更案がないはずがないのでありました。」

「堀内さんの手描き文字から版下制作へ。そこで版下制作者によって整理され、以降、再々の変更後に、現号はあったのです。当方の作字のヘタさとは関係なく、当方はいわば古い字から起こしていたのですからそりゃ違うわけです。現号の字の作字の仕方の分析から出発したほうが良いと、現時点では考える次第。」

5月24日
件名: 「現号から始める」

現号のロゴから「P」を抜き出し天地20センチに拡大してみると、縦軸の幅が4ミリ太くなっていることがわかった。

「そのぶん可愛く低年齢化している印象があります。これは良し悪しの問題ではありませんが。フォトショップで書き直した際に(軸の)弧線使用も止めています。ポパイの筋肉なら弧はリアルな表現です。ここで記号化・フォント化したともいえますね。ここから発展させていく方向でしょうから、やっと始まったというわけです。たとえば軸をふくらみのない直線(そして太く)にするのもここまでの試作の大きな変更点です。」

5月25日
件名: 「yの重要性」

あまりに違和感なく収まっているため、気がついていない人も多いのではないだろうか?『POPEYE』ロゴの不思議のひとつは、「Y」だけ小文字になっていることだ。小文字の「y」をフォント化する際にどう扱うべきか。

「何故yが重要か。yがw、v、k、x等の作り方と繋がっているからです。」

「(yの)頭に楕円を乗せたのはふつうに V のままだと POPE までのパワーが外に逃げてしまうからでしょう。それを内包させて強くしたのです。 この工夫は先行する 『an・an』にすでにあって、最初の an・には中点を nの尻尾に密着させてパワーを強めています。ですからこれ限りの『ロゴ』なのです。また『an・an』は筆記体で、フォント化するほど、実は字そのものに個性はありません。『BRUTUS』もそうで、ボクでもたちまち 26 字作ってしまえるほどフォント化されていました。ですからいちばん挑戦のし甲斐があるのがポパイです。」

5月27日
件名: 「不思議なE」

「ポパイの E は Y と同じく不思議な字です。」

まるで急ぎでメモを取ったときのように「E」の筆順が小文字の「e」のようになっているからだ。

「Yに次いでEもこうしてみると制作過程に起きた、工夫の面白さ不思議さを感じます。POPEYEではPOEYの4文字しかないですが、基本はありますね。」

「この E の精神・形も生かしたいです。」

5月30日
件名: 「O事件」

「Oには何の問題もないだろうと最後に確認しましたら、事件です。」

またまた大変なことがおきた。現行ロゴの「O」を詳しく見ていると、途中で何者かによって書き換えられていたことが判明したのだ。

「おそらく勝手に初期の版下氏がOを変更していたのでした。ボクは気づきませんでしたし、堀内さんは終わったら無関心だし、これで40年以上経過したとは……驚いたなあ」

「いずれにしろ現在の字が基本で、それはパソコンを使ったのが判明しましたので、できるかぎりデッサンを基本に”フォトショ”で作っていきます。」

5月31日
件名: 「軸」

「P」「O」「E」「Y」の観察を終え、次はアルファベットそのものについて観察していくことになった。大文字と小文字の違い、縦軸・横軸の太さの関係、筆のたまりがある部分はわずかに太くなること————既存の書体を参照しながら、こうした細かい規則を一から確認していく。

「イタリアの美大だったか。書き文字の基礎は、まず模写から。手本は墓石に彫られたオールド・ローマン。古代の書です。東洋でも晋・唐の書の臨書から始めるのと同じ。このEe はMB31 と言い、パソコンに最初から設置された書体。デザインはたぶん外国人。非アルファベット人種には作れません。接してきた時間に差があるからです。感覚の差ですね。たとえば今回の軸も、縦横や小文字との差など確認しないと分からないのでした。すこしでも疑問があると、先に進んでから戸惑うことになるので、一つずつ学習することにしました。」

6月1日
件名: 「字幅」

「日常、英字は書かない日本人には、英字の字幅なんかに関心はありません。」

確かに、英語は身近な言語だけど、それぞれの字幅については考えたこともなかった。

「Aはほぼ正方形。他の字の幅はほぼ予測通りですが、書いてみなさいと言われたばあい、すぐには書けません。Wが広いのがわかる程度。B、J、Xあたりは迷います。英文は縦書きしませんから、視線は常に横に流れます。」

「読み取り時間を研究した人がいて、『出口』と『EXIT』をくらべたら日本人は『出口』をコンマ以下で認識しましたが、『EXIT』はそうとう時間がかかったといいます。あたりまえですが、緊急時には大きな差のでる話です。外国人を奥方にした日本人が、画面で急速でスクロールした英文の文章を何ワード読めるか調べたら、日本人の自分の何十倍も多く速かったのに驚いたとも言います。」

「ポパイ創刊時には英文タイトルは電通にいた黒丸尚氏(明石さん)に依頼していました。氏は翻訳家でもありましたが、NYで原作者に会ったときに『君はここの人間よりも英語が巧い』と言われた人でした。ポパイではSF特集のチーフを担当してもらいました。『英字は外国人に学べ、そして真似ろ』今回はそうした次元の話。」

6月3日
件名: 「交叉点」

K、Y、Wのように線が交叉する字では、交叉点に向かう線をだんだん細くしていかなければならない。

「そうしないと交叉地点に勢いが溜まってボテボテに見えるからです」。

「錯覚を利用するという手法は造型美術のみならずあらゆる分野にわたっています。特に軍事、宣伝などでしょうが……当テーマからはずれますので。造型ではギリシャ神殿の円柱や階段、同じく法隆寺回廊の柱などの中心部分がふくらんでいて、それで直線に見えるという事実は、文字デザインにもあるわけで、ヒトの目の不完全さを表しているわけです。不完全さをカバーする知恵は学んだほうが賢い。ゴシック文字の太さはすべて同じでなくてはならない。あるいはそう見えなければならない。そんな課題の解決法の一つがこれです」。

6月6日
件名: 「特異性」

「おはようございます。って、ちょっと早すぎか?(5時半)今年は夏至は21日。ここで昼の長い日々(つまり夏)は終わり冬に向かうとボクは考えています。だんだん暗くなっていくのですから、冬でしょう? 12月22日が冬至で、ここから春に向かいます。さてここまでの文字観察はこの回で、とりあえずの結論が出ました。」

さあ、いよいよ、まとめだ。これまでの観察をもとに、新谷さんはロゴが持つ「特異性」を言語化していった。堀内さんの原画のロゴは「重ね文字」として作られており、バラバラに字間をあけて使うと印象が変わる。「一発限りのロゴの性格をもっている」「自在な精神を生かしたフォント作り」「現号の書体から派生した文字にしないといけない」——。これまでの調査の集大成として、「POPEYE」のロゴがもつ特異性を次の5つにまとめた。

①大文字と小文字の混在。
②書き出しの頭に楕円が乗っている。
③テカリを配置する。
④筆記体のような自由さを活かす。
⑤重ねても良い文字とする。

資料の末尾にはこんな一節があった。

「堀内さん(そういえば堀内さんのほめ言葉は『独創的だね』。酷評のほうは『独断的』でした)から頂いたこのヒントを取り込みながら新味を創り出すことがわれわれの重くて楽しい課題となりましょう。」

「次回からは実作にはいります。試行錯誤でしょうが。」(後編に続く)