カルチャー

創刊50周年記念プロジェクト ポパイフォントを作ったよ。/後編

2026年6月16日

かくして、制作は始まった。

夏になると新谷さんは面相筆を持ち、農作業の合間に一文字一文字を手描きし続けた。

6月13日
件名: まずアイから

「まず手始めとして簡単そうな「I」アイから始めました。ところがこれが変な?方向へ。」

「I」

「I」の習作①②「極ふつうの」
「I」の習作H「これは秘密にしておきましょう」

6月13日
件名: アイからの流れでジェイにいきました。

「J」

「J」の習作①「ごく普通のJ。テカリだけでも特異性はありますが。独創性にはとぼしい。」
「J」の習作③「頭を付けてみました。」

6月13日
件名;Aの①から⑤

「Aに戻りました。Aの天地を逆さにすればV、並べるとW、大文字のY(小文字は堀内文字がある)が仲間なので、そちらに進んでいくことになります。ヘタな鉄砲も・・・です。はたして。特異性の頭の楕円は展開のしかたが難しいですね。課題です。まあ鈍才は数多く書くしかないというのが真理ですね。」

「A」

「A」の習作①「定型のA」
「A」の習作②「いちおうの案として」
「A」の習作③「②に平体をかけてみた」
「A」の習作④「縦棒、長さ違いで2つ」
「A」の習作⑤「どこかGにも見える」

6月20日
件名: yの①から③

「Y」

「y」の習作①「トレースして改めて気付いたのはふくらみ。Pの縦棒にふくらみは無くなっていましたが、yにはちゃんとある。その後のデッサンではすべて直線にしていました」
「y」の習作②「直線のままの大文字のY。交流点への道が細くなり過ぎているか」
「y」の習作③「ふくらませたy。ふくらんでるほうが優しい」

6月16日
件名: vの①から④

「V」

「v」の習作①「AとVは天地を逆にしただけではないか?」
「v」の習作②「力こぶを付けてみました」
「v」の習作④「これがいちばん元気。こういう展開の字が多くなれば面白い組み合わせができて、文字だけでも新しい商品の顔になるかもしれません。母体が雑誌ですから、そういう出自を感じさせる書体構成に向かうのが正しいかと思いますが。」

6月17日
件名: wの①から③

「さて本日はwです。これもスタンダードなら安心なんですがそれじゃあ作った意味がないので。大文字はスタンダード。小文字は暴れん坊にするという考えもあると思っていますが。」

「w」

「w」の習作①「スタンダードに近い。面白味は薄い」

6月20日
件名: yの①から③

「農作は6年め。だんだんと自分流の型にしつつあります。しかし虫や鳥の害、特有の病気・・・、諸事情がすべて異なりさいごは「まあ6割食べられたらいいか」とかになります。そういえば美大で教わった福田繁雄さんは「6割できたら良いとして前にいくことだよ」と笑ってました。」

「Y」の習作①「現在使われている y です」
「Y」の習作②「直線のままの大文字のY」
「Y」の習作③「ふくらませたy」

7月4日
件名: P、B、X

「さすがに安定しているP。Bの2は、これだけなら使える?かなあ、という感じ。XはどうやってもXですから、これからでもあります。」

「P」「B」「X」

7月6日
件名: OとR

「頭に浮かぶ形が、描き出せないのは太さ6から65ミリを保持する形を想像していないからです。どうしても太い細いで描くことに慣れて、それに親しんでいていざ描きだしてみると「ここも同じく太いのは変だろう」と、感じてしまう。とりあえず全部描いて、床にならべて、にらんでからが勝負(やり直し)ですね。ひたすらそれだけが酷暑中の楽しみ(想像)です。今回も正字の「O」だけは安定しています。」

「O」「R」

7月7日
件名: S

「英字の仕事があったとき、まず中に『S』があるかどうかを見ていました。いちばん難しいからです。今回も完成とはいきませんが、骨格はできたかなあ、と思っています。」

「S」

7月21日
件名: T・U・Z

「全字をならべて初回の修正レベル作業にたどりつきたい一心です。全字をならべて、ひとりで自己審査する場面だけは浮かんでくるのですよ・笑。『この線はもうちょっと上だなあ……』『こりゃアカン』とかぼやきつつ。こっそり、そこでは禁止のビールやりつつ。」

「T」「U」「Z」

7月22日
件名: C/D/Q

「鉛筆で字の枠線をひいて、その枠線に墨入れをして枠中にベタ塗りをして仕上げます。すると枠だけとはまったく違う仕上がりになります。鉛筆で軽く全体を塗っただけでは、やはり上がりは不明です。一字20センチ画大の墨ベタというのは強力です。枠線をフォトショにとってベタ塗り加工するのは簡単なんですが、簡単過ぎて楽しくないし、面相筆でシコシコと0.2ミリ幅の下書き線から出ないように墨入れする緊張のあとの原画のような、良いにしろ、ダメにしろグッと(あるいはガックリ)くるものがない。けちくさい話ですが、プリンターの墨インキの激しい消耗も僻地ではこたえます。墨汁はただみたいな値段ですからね。やはり手間をかけて、失敗作を作り続けるのが正しいのでしょう。なかなかツライもんです・笑。QはOに尻尾をつけるだけじゃ面白くないので、工夫が欲しい。大文字は全体にいじりようがないですね。今回も問題多種・多数。」

「C」「D」「Q」

7月25日
件名: E/F/G/H/K

「現在40パーセントほどきたところです。問題がつぎつぎ現れます。われわれがいなくなった時に、独自な展開ができる可能性を残したほうがいいと踏み込んだせいです。」

「E」「F」「G」「H」「K」

7月27日
件名: L/M/N

「ボクは元々「補」という漢字の仲間に帰依することを心がけております。補充・補完・補足・補給・補筆・補強・補修・補助・・・などなど。これらの状況がうまれた原因は、スタート時に完全ではなかったということですよね。完全主義者には許せない態度でしょうけど、補主義者は、人間そんなもんだと考えますから、補をすればいいわけです。」

「たとえば畑に出かける時。途中まで来て『あ、あの道具を忘れた』は何度もあります。その際に『クソ!! 損した』とか思わないのは『引き返したおかげで運動になった・・』とか思うからです。まあ、これあくまで努力目標でもありまけど。字はやっと45パまできました。これから補レベルにはいります。」

「L」「M」「N」

ポパイフォントの完成。

「全字をならべて観るために、中央公民館の12畳を確保しました。ボクは視覚派なので、こうして観ないとピンとこないのです。写真集なども、こういうふうに置いて作ってきましたから懐かしい。ただ一人相撲っていうのが残念です(のみながら、ごちゃごちゃ言うのが楽しい。堀内さんとも含め)。」

2枚目の写真には「P」「O」「E」「Y」の親文字を上段に置き、その血族——曲線を共有する字たちを族ごとに分類して並べてみた。こうして視覚で全体を把握してから、どこを直すかを判断していく。

「休憩なしの5時間でした。弁当は自作のライ麦パンに、チーズ+安ハム+わが家の麦茶。公民館使用料は無料。バス代は往復(30分×2)400円でありました。充実していて楽しい豪華な一日でしたよ。」

中央公民館での総覧会の後も明快なゴールというものが存在しないまま、試行錯誤の作業が続いたのだった。「いま一番楽しい仕事はこのフォント作りかも」と僕がメールに書いたのは、まだ半分も文字が揃っていなかった2022年の夏のこと。その後、すべての文字が一応の完成を果たしたあとにも、POPEYEの前ADにも手伝ってもらい「カーブ」や「テカリ」を整えつつ、デジタル化していくのにまた一苦労、二苦労、いや三苦労ぐらいあった。デジタル化されたポパイフォントをすべて使ってみると上のような感じ(OVERAは間違い、正しくはOVER A)。シンプルだけどそれぞれに個性的な、愛嬌のある文字ができたと思う。

それにしてもずいぶんのんびりと作ったものだ。新谷さんも「デザインは創るだけではなく、読み解くのも面白い。1975年に『Made in U.S.A.catalog』を作ったときからの姿勢ですね」とメールを送ってきてくれた。4つの文字に残された筆跡を手がかりに、暗中模索、手探りで22文字を探し出すような旅だった。気がつけば創刊時のPOPEYE編集部の様子や師匠である堀内誠一について、はたまた雑誌作りへの思いや情熱、面白さを新谷さんに教わったような気がする。松江には3度ほど訪れ、あとはメールを中心としたやり取りではあったけれど、それは僕にとってとても貴重で、なにより贅沢で楽しい時間だった。かくしてポパイフォントは完成した。