TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】親とか。ヒーローとか。作りたい欲とか。
執筆:高橋達也
2026年4月21日
高橋達也
photo: Leonhard Clemens, Verena Glup, Samantha Melnyk
text: Tatsuya Takahashi
edit: Yota Shiraishi
親は、自分が叶えられなかった理想や、かつての成功体験を子供に押し付ける。私もまさにその通りの親になったわけだが、いざなってみると、自分を変えるつもりもなければ、変え方もわからないし、そんな親に反発するのが子供なのだと、納得してしまっている。
例えば、私の親世代は、一般的に子供の安定収入を最優先にする傾向が強いと思う。「好きなことは仕事にしちゃだめ」と母親に言われたことがある。私はそれに反抗して、興味そのものを仕事にして今に至るわけだが、私の周りにも結構そういう人が多い。もっと言うと、好きなことを収入に変えられた人が勝ち、みたいな感覚を持ってしまっている節がある。これこそが、80年代生まれの世代感覚なのかもしれない。
そして2000年代生まれである長男は、今16歳。彼はどうやら、好きなことと安定収入の両方を重んじている模様。ただ、アプローチが全然違う。彼にとっての勝ちとは、稼ぎを問わず好きなことをやり、生活は不労所得で賄うことだ。
叶う叶わないは別として、理想像として興味深い。どこでそんな生き方を知ったんだろう。どこかに、そんな生き方を魅せたヒーローがいるはずだと確信している。今度聞いてみよう。
私が16歳の頃のヒーローは、オーディオ雑誌『無線と実験』に投稿していた窪田登司さんや、自作スピーカーを一般層に広めた長岡鉄男さんだったりする。当時の夢は、オーディオ評論家になることだった。自作オーディオが大好きだった。
二十歳を過ぎた頃からのヒーローは、Aphex Twinや池田亮司さん、そして現代のシンセサイザーの生みの親であるBob Moogへと移り変わっていった。オーディオから楽器や音楽へと興味が向き、楽器作りに没頭した。
40代半ばの今、昔みたいに具体的なヒーローに憧れることは少なくなった。けれど、いい作品に魅了されてそれに近い感情を抱くことはあるし、さすがに親にはもう反抗しないけれど、親に代わって世間だったり権力だったりに反発はする。形を変えながらも、憧れと反抗が人の製作意欲を生むのだと思う。
さて、前号はコルグ本社を離れてケルンの広告代理店に転職したところで話が止まっているけれど、その後を簡単にまとめると、入社3年後、その広告代理店では私を含むチームごと一斉解雇された。今後を思案しているところに、コルグの当時の社長であった故・加藤世紀氏から連絡があった。「ドイツに開発部隊を持ちたい」。解雇されたことは伝えていなかったので、虫の知らせだったのか、とにかく信じられないタイミングだった。おかげで、代理店との契約が切れた翌日からコルグのベルリン支社の設立に携わり、1日たりとも無職にならずに済んだ。
ありがたかった。水を得た魚のように、2020年は会社を設立し、社屋を作り、設備を入れ、社員を雇い、足りないものは家具でも換気システムでも照明でも、なんでも作った。社員も一緒になって作りまくった。今でもその精神は生きている。もちろん本業である楽器開発にも励んでいるが、しばらく本業以外のものを作っていないと、突発的にスピーカーやDJミキサーを作り始める社員がいたりする。最近だと、ソフト担当が社内の全照明をコントロールできるウェブアプリをこっそり作っていた。
気づけばベルリン・オフィスは、我々が自分たちで作ったものであふれている。彼らは全員30歳前後。ありものを漫然と受け入れない姿勢に感動する。自分と同じように、憧れと反発の狭間から製作意欲が湧き出ているのだと思うと嬉しくてしょうがなくなり、デザイン集として本まで出してしまった。
ちなみに、この原稿も本業外なので、製作意欲を刺激されて書いているのですが、なかなかうまく話をつなげるのは難しいですね。何度か書き直しています。正直、出来は今ひとつなのですが、締切が過ぎているのでこのまま出します。悪しからず。
なお、作ってしまった本は、korg.berlinで購入できます。
今回は宣伝で締めちゃいますね。また次週。
architects:
Max Hacke
Felix Xylander-Swannell
プロフィール
高橋達也
たかはし・たつや | 1982年生まれ。日本生まれ、ロンドン育ち。ケンブリッジ大学で電気・情報工学を学び、2006年にKORG入社。アナログシンセサイザーの復興期に、monotronやvolcaシリーズ、minilogueなどの開発を手がける。2017年に退職後、ケルンのYadastar GmbHにてRed Bull Music Academy関連プロジェクトに携わる。2020年よりKORGのベルリン支社を率い、現在は同社CEOを務めるほか、KORGグループ全体のCIO(Chief Innovation Officer)として新しい楽器の研究開発を行う。
プロフィール撮影:小林匡輔
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