カルチャー
〈ジル サンダー〉クリエイティブ・ディレクター、 シモーネ・ベロッティさんの東京レコードディグ紀行。/後編
2026年4月17日
photo: Kazufumi Shimoyashiki
text: Katsumi Watanabe
edit: Shigeru Nakagawa
〈ジル サンダー〉のクリエイティブ・ディレクター、シモーネ・ベロッティさん。「来日する度、スーツケースを買い足すほど、レコードをショッピングしてしまうのが悩みです」と告白する。クラシックからジャズ、アンビエントまで。満遍なくチェックすれば、荷物が重量オーバーしてしまうのもうなずける。そんなシモーネさんに、自身の音楽遍歴を振り返ってもらいながら、現在ハマっているレコード、そして音響機器についても話を聞くことができた。
シモーネさんがアンビエントを聴くきっかけになったエイフェックス・ツインの傑作『Selected Ambient Works 85-92』(1992年)。
〈ジル サンダー〉がリリースした「Wanderlust」にて音楽を担当したボカム・ウェルトのセカンドアルバム『Martians And Spaceships!』(1999年)。エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスがプロデュースを担当。
ミュージックビデオ「Wanderlust」と連動するかたちで制作されたボカム・ウェルト『JS EP』(2025年)は、7曲入りの12インチレコードとしてリリース。〈ジル サンダー〉の美学を映し出す、エモーショナルなエレクトロニック・ミュージック。
「まずは80年代。私には姉がいて、その影響でデュラン・デュラン、ニューオーダーなどの、いわゆるニューウェイヴが好きになりました。それからハイティーンの90年代には、ダンスミュージックの虜になり、クラブへ通っていましたね。その時に出合ったエイフェックス・ツインの影響が、いまだに大きいんです。テクノから端を発し、実験的なアプローチからアンビエントまで、その進化の過程を聴き続けていますが、とても刺激になります」
シモーネさんが〈ジル サンダー〉のクリエイティブ・ディレクター就任後、ミュージックビデオ「Wanderlust」を発表し、ファンを驚かせた。その音楽面を担っているのが、旧友でもあるボカム・ウェルトさん。
「彼はエイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスが、唯一プロデュース(1999年の『Martians And Spaceships!』)したイタリア人なんですよ。友人ながら、本当に凄いことだと思います。さまざまな音楽的要素を電子音楽に落とし込んでいますが、彼の音楽性を例えるなら、少しロマンティックになったエイフェックス・ツインといった感じですかね。すごく魅力的な音楽を作り続けています」
現在の音楽的な嗜好は、クラシックからアンビエントまで、どんどん幅が広くなっているという。多忙な日々のなかで、一体どのように音楽と向き合っているのか。そう問いかけてみると、シモーネさんのリスニングスタイル、とりわけ音響機器について、日本との意外な親和性があった。
「家でリラックスしている時は、アンビエントや現代音楽、ジャズやクラシックを聴いていますね。父の影響で日本製のステレオ機材が好きで、自分も使うようになりました。スピーカーはドイツ製ですが、アンプは日本製。大阪のメーカー
では、改めて日本の音楽、そして足繁く通うレコードショップの魅力は、どんなところにあるのだろうか。
「日本のお店で売られているレコードはコンディションがいいですね。アメリカやヨーロッパでは、専門店でない限り、そうはいきません。盤面に傷があったり、カビで傷んでいたりすることも珍しくありません。その点、日本では安心して買い物をすることができる。丁寧で、優しい国民性がよく出ていると思います。音楽的には、とにかく独特な質感があって、とても惹かれています。例えば、〈Kankyo Records〉で聴いた、柴野さつきさんのエリック・サティの演奏や、ジャズ・スタンダードのカバーでも、日本人が同じ楽曲を演奏すると、欧米とはどこか異なる響きになる。特に80年代の演奏や録音には、強い個性を感じます。それから吉村弘さんやススム・ヨコタさんのようなアンビエントの作品には、日本の童謡やトラディショナルに通じる要素を聴き取ることができる。私にとっては未知の領域でもあり、それがとても魅力的に感じられます」
今回の来日でも、時間があれば〈タワーレコード〉や〈ディスク・ユニオン〉へ通ったという。そのなかから、新たに発掘したレコードの一部を教えてもらった。
「まずは、新宿〈ディスク・ユニオン クラシック館〉で、クラシックのモノラル盤を大量に買って(笑)。あれだけ状態のいい古いクラシックのレコードが揃っているのは、かなり珍しいと思います。それからジャズに関しては、〈タワーレコード〉で坂元輝トリオの『海を見ていたジョニー』(1980年)を発見しました。ジョン・コルトレーンで有名な『My Favorite Things』のカバーや、日本のみなさんにはお馴染みの『夕焼小焼』のジャズアレンジは、本当に美しい。レコードは高額なので、今回はCDを買いました。それから、ずっと探していたテナーサックス奏者・武田和命の『Gentle November』(1979年)も見つけました。価格は張りましたが、そのバラードの美しさに惹かれてね。さらに、パーカッション奏者の冨樫雅彦とベーシストの鈴木勲さんによる『陽光』(1979年)。これは実験的な要素が強く、コンセプトアルバムのようでもあり、どこか映画のサウンドトラックを思わせる響きがあります。早く家に帰って聴きたいです」
現在開催中の「RECORD KIOSK – JIL SANDER SOUND PRESENTS CISCO RECORDS」では年代や国籍を問わず、さまざまなレコードが並んでいる。その様子には、シモーネさんも満足している模様。
「まず坂本龍一さんとコラボレートしていた佐藤博康さんによるスピーカーシステムが素晴らしい。店内を包み込むように設計された音響は、とても心地よく感じられます。レコードセレクトは、私好みのジャズやアンビエントはもちろん、ロックからダンスミュージックまで、さまざまな音楽が並んでいます。私も〈CISCO RECORDS〉のセレクションから、和モノのジャズを買いそうになりましたが、これ以上荷物が増えると困るので、ちょっと我慢しましたね(笑)」
プロフィール
Simone Bellotti
シモーネ・ベロッティ|イタリア・ミラノ出身。ドルチェ&ガッパーナやボッテガ・ヴェネタなどでキャリアを積み、グッチで16年間に亘り活躍。バリーのクリエイティブ・ディレクターを歴任後、2025年3月にジル サンダーのクリエイティブ・ディレクターに就任。
インフォメーション
RECORD KIOSK - JIL SANDER SOUND PRESENTS CISCO RECORDS
ジル サンダー 銀座のアートスペースに、3月28日から5月10日までの期間限定レコードショップとして〈CISCO RECORDS〉が復活。
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