TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】奈々福の浪曲的生活
執筆:奈々福
2026年5月30日
いま、帰路の東北新幹線の中で書いています。今日は仙台にて独演会の昼夜ダブルヘッダー。一時間半の独演会×2。昼夜四席演じて、へろへろです。
でも、心地よい疲れです。昼夜とも満席、そしてお客様がとても温かかったから。
場所は、仙台の繁華街の中にある「花座」という、定員30名の小さな演芸場。この演芸場から初めて、独演会のご依頼をいただきました。
「花座」の外観(提供:花座)
平日の14時開演の昼の部と、18時半開演の夜の部。
まず昼の部。初めての場所で初めてのお客様。さて、どんな客席か。
どきどきしながら舞台に上がる……途端に「待ってました!」の声がかかった。びっくりした。そして舞台から眺めた客席は……。
私たちは客席を暗くしません。お客様の表情を見ながら、いましゃべっていることが有効かどうか、楽しんでくれているかどうか、さぐりながら進めるために、明るくしたまま、演じます。
でも、探る必要もない客席だった。期待して待っていてくれたんだということが、一目見まわして、わかる。平日昼間なので、ご高齢の方が多かったですが、たぶん、演芸に慣れておられるお客様。マクラをしゃべっている間に、すでにお客さんの心身が開いていることが反応でわかる。
こういう場で演じるのは、実に楽で、お客さんが支えてくれるからそれに安心してのっかっていけます。30人だと、一人一人の表情が見える。全然笑わない人が、だんだん表情がゆるんで笑ってくる。陽気で、笑いどころでの反応もするどく、前のめりに聞いてくれて、無事終了。
さて、夜の部。舞台に上がるやこれまた「待ってました!」と掛け声がかかって客席を見ると……客層ががらりと変わりました。昼の部より平均年齢で20歳くらい若い。明らかに会社帰りの方。学生と思しき若いお客さん。かっこいいよなあ、会社帰り、学校帰りに寄席寄って演芸聞くなんて。女性も多い。そして夜もまた、集中力の高い、明るいお客様でした。
お客さん力! いつも私はお客さんの力に感動するのです。演じる側と、受け取る側は五分五分だと私は思っている。それが拮抗する場が、最高の場。この演芸場は開場して9年経つそうで、年月かけて、場を育ててこられたのでしょう。
お客さんが、こちらを受け入れてくれてない場、というのもある。たとえば……学校。生徒たちにしてみれば、授業の一環で興味もない古臭い演芸を見るんだぜつまんね~という感じなんでしょう。その雰囲気全開の小学生150人の塊を前にしたとき、どうするか。いや~、これまた、腕が鳴ります。ひとかけらの興味を示さない子たちを、腕力でどう持ってくるか。あたためるまでの時間とテクニックが必要になります。どう興味を持ってもらうか。講義と実演とワークショップと、さまざまな手を尽くした構成で攻める。子どもたちの表情がだんだん変わっていくのが、これまたたまらない面白さ。ただ、半端なく体力気力知力を使います。全力総動員して、子どもたちの表情を見、反応を見、小さな声も極力拾い、即座に対応していく……うまくいくときもあれば、そうでないときもある。それもそれで、辛くて楽しい。
お客さんによって支えられ、お客さんによって磨かれ、場数を踏むことによって、経験値を高めさせてもらっているんだなあと、思う日々です。ちなみに明後日も、仕事では初めて行く和歌山県、初めてのお客さんだ、頑張るぞ~!
プロフィール
玉川奈々福
たまがわ・ななふく|神奈川県横浜市生まれ。1995年、曲師として二代目玉川福太郎に入門。師匠の勧めにより浪曲も覚え、2001年に浪曲初舞台。2006年、美穂子改め玉川奈々福として名披露目。さまざまな浪曲イベントをプロデュースする他、自作の新作浪曲や、長編浪曲も手掛けるほか、海外公演を行うなど、多岐に渡って活動。第11回伊丹十三賞受賞。著書に『浪花節で生きてみる!』(さくら舎)『語り芸パースペクティブ―かたる、うなる、よむ、はなす』(晶文社)がある。
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