カルチャー

目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.46

写真・文/久山宗成 a.k.a. Donald

2025年12月31日

photo & text: Muneaki Kuyama a.k.a. Donald
edit: Yukako Kazuno

2025年の最後を締めくくる第46回目は、カーマニアの憧れ〈BERTONE ベルトーネ〉特集です。知らない方も多いと思うので簡単にご説明。〈ベルトーネ〉とはイタリアの名門カロッツェリアのこと。カロッツェリアとは、自動車の車体をデザインや製造する工房、業者のことを言います。

カロッツェリアのなかでも、とくに〈ピニンファリーナ〉や〈ベルトーネ〉〈イタルデザイン〉などの有名工房が、自動車メーカーと連携しながら独自のデザインや職人技で美しいボディを架装し、スーパーカーなどの特別な車両を手がけてきました。

今回紹介する〈ベルトーネ〉は、創業1912年。1910年創業の〈アルファ ロメオ〉とほぼ同時期に誕生し、〈フェラーリ〉〈ランボルギーニ〉〈アルファ ロメオ〉と良好な関係を保ちながら、半世紀以上の長きに渡って優秀な作品を世に送り出してきました。有名なジョルジェット・ジウジアーロも、〈フィアット チェントロ スティーレ〉から〈ベルトーネ〉や〈ギア〉を経たのちに〈イタルデザイン〉を設立したというくらいの超名門なんです。

彼らは工業デザイン的な未来派フォルムの腕時計を少量で生産。「腕時計」という日用品を、走らないコンセプトカーに変換してしまったんです。それでは早速見てみましょう。

ケースは完全なウェッジシェイプ。丸でも角でもなく、自動車のフェンダーやエアインテークを思わせる多層構造は、1970〜80年代のイタリアン・インダストリアルデザインの狂気と美意識をそのまま腕元に移植したかのよう。しかも! リューズは12時位置。操作性よりも思想を優先した配置は、ダッシュボード中央のノブや航空機のコントロールレバーを連想させます。ここに「時計としての正解」は存在しません。内部には日本製クォーツムーブメントを搭載。素材はレアなチタン製。90年代の発売価格定価は1本8万円程度です。

通称3つ目と呼ばれる〈ベルトーネ〉が描いたもうひとつの「ダッシュボード」。3つの独立したサブダイヤルは、時・分・秒を分解して表示するためのものではなく、3タイムゾンーン。これは時刻を読む装置というより、計器を配置するというデザイン行為そのもの。完全なラウンドケースでありながら、厚み・段差・面構成によってその造形は、メータークラスターや航空計器の配置を思わせます。左右と12時位置に配された複数のリューズは、操作性の合理化ではなく「操作している感覚」そのものを演出するため。これは腕時計ではなく、もはや腕に装着するインストルメント・パネルですね。

〈ベルトーネ〉腕時計は年々プレミア化が進行中。今回紹介したこの2本も年々絶滅危惧種になってきているので出会ったら迷わずゲットすることをおすすめします。

プロフィール

目指せGEEK WATCH図鑑!!! Vol.46

久山宗成 a.k.a. Donald

くやま・むねあき | 改造活動家、企画編集者、GEEK WATCH偏愛家。ワタリウム美術館のミュージアムショップ地下中二階にて、2014年より改造見世物小屋『+R.I.P. STORE』を営む。様々なマテリアルや手法を組み合わせてジュエリー、腕時計、プロダクト、舞台美術などを制作している。趣味的に始めてどハマりしたGEEK WATCHのコレクションは今や700本以上。現在『GEEK WATCH PEDIA』なる本を編集中。

Instagram
https://www.instagram.com/geekwatch_tokyo/
https://www.instagram.com/kuyama_donald_muneaki