カルチャー
TOWA TEIとシャッポ、進化する60歳の音楽と24歳の不思議な音楽。【前編】
2025年6月6日
photo: Kazuharu Igarashi
text: Izumi Karashima
ニューアルバム『AH!!』をリリースしたTOWA TEIさん。石野卓球、権藤知彦、高田漣、高橋幸宏、高野寛、VERBAL、細野晴臣など錚々たるメンバーが参加する中、ファーストアルバム『a one & a two』が話題のシャッポも参加しているとのことで、TEIさんとシャッポの福原音さんと細野悠太さんで語り合いました。1964年生まれで還暦を迎えたTEIさんと、2000年生まれで24歳のシャッポの2人。36歳差の鼎談です。まずは、お互いの出会いと印象について、前編をどうぞ。
2023年、TOWA TEIとシャッポが出会う。

TOWA TEI
僕、悠太くんはチュパチュパやってる頃から知ってるから。

細野悠太
はっはっは(笑)。だいぶ小さい頃から。僕はたぶん記憶ないです。

TOWA TEI
途中で気づいたんだっけ、僕のこと。

細野悠太
そうだと思います。母がTEIさんの曲を家でよく聴いてたんで、あ、よく会うあの人の曲なんだ、と。途中まではホント、なにも知らずに(笑)。

TOWA TEI
そりゃそうだよ。おじいちゃん(細野晴臣)の楽屋にいつも小山田(圭吾)くんとか僕とかその辺がいるんだけど、悠太くんからすればただのおじさんでしかないもん。

細野悠太
はっはっは(笑)。

TOWA TEI
で、悠太くんがベースを弾いてるのを初めて観たのが、確か、ハナちゃん(注:シンガーソングライターのHana Hope)と一緒にやったライブで。

細野悠太
YMC、「イエロー・マジック・チルドレン」のときですよね。(注:2019年に行われたYMO結成40周年記念イベント)

TOWA TEI
そうそう。それでYMOの曲でベースを弾いてる悠太くんを観て。ベースはいつから始めたの?

細野悠太
高校からですね。高校のとき、軽音部の部員にベースがいなくて、消極的にですけど、ベースになったということで。

福原音
ベーシストはみんなそんな感じ。細野さんもそう言ってた。「誰もいなかったから」って。

TOWA TEI
ただ、残念なことにサウスポーだから、悠太くんは。細野さんのベース、1個も使えないんだよね。

細野悠太
はっはっは(笑)。もったいないけど、それはそれでおもしろいかなって。

TOWA TEI
で、音くんと2人でシャッポを始めたっていうのは、なんで知ったんだっけなあ……。

細野悠太
たぶん、僕ら2人でTEIさんと最初に会ったのは、“ハレマメ”だったと思うんですよ。(注:代官山のライブハウス『晴れたら空に豆まいて』)

福原音
金延幸子さんのライブがハレマメであったときです。

TOWA TEI
そうだ、思い出した。2人もライブを観に来てて、そこで会ったんだ。で、「同い年の2人でバンドを始めました」って。

福原音
ちょうどその日が、僕らがデビューするという告知が出る日で。2023年の12月でした。

TOWA TEI
でさ、そのとき、音くんと細野さんの出会いの話を聞いてめちゃめちゃショックを受けたんですよ。もう一回ここでその武勇伝、披露してよ。おもしろすぎるから(笑)。
細野晴臣宅を突撃訪問した福原音。

福原音
僕は1940年代のブギウギが好きなんです。で、細野さんがブギウギをやっているのをたまたまNHKで夜中に観て。あ、この人、すごい! と。40年代の感じでやれる人って世界中をみてもあんまりいないなと思っていたのに、日本人でやれてるヤツがいるじゃないか!と。

細野悠太
ヤツ(笑)。

福原音
こいつはすげえヤツだと(笑)。

TOWA TEI
知らなかったんかい、細野さんのことを(笑)。

福原音
全然知らなかった。はっぴいえんどのことはなんとなく知ってたけれど、どんなメンバーがいるとか詳しいことを知らなかったし、YMOは聴いたことがなかったんです。とにかく、NHKで観たブギウギを演奏する細野さんに衝撃を受けて。こいつはすげえ! と。ブギウギに関して、この人は僕よりもいろいろ知ってるだろうから、話を聞きに行きたいと。

TOWA TEI
細野さんのライブを観に行きたいじゃなくて、話をしたかったんだ(笑)。

福原音
はい。その頃、ブギウギについていろいろ調べていたんです。日本だと本もないし情報もないので、アメリカの国会図書館にメールして資料を取り寄せたり。日本にこんな人がいるんだったら、聞きに行くしかない! と。それで細野さんの家を突然訪ねてしまいました(笑)。

TOWA TEI
すごい行動力だよ。細野家に突入しちゃうんだもの。よく住所がわかったよね。

福原音
僕は愛媛出身なんですが、東京にいる親戚がたまたま林立夫さん(注:ドラマー。70年代は細野晴臣らとバンド「ティン・パン・アレー」として活動)と知り合いで。そのツテで住所を入手しまして。でも、突然ピンポンしたら「ヘンな人が来た!」って警察を呼ばれるかもしれないじゃないですか。東京の大学に入学した直後だったので、細野さんの家に突撃する前、母に電話しました。「いまから行くんですけど、捕まるかもしれません。迷惑をかけることになります」

TOWA TEI
あはははは!

細野悠太
遺言のように(笑)。

福原音
で、行こうかどうしようか、細野さんちの近所で悩んでたら、タモリさんが歩いてたんです。サングラスしたオンの姿で。

TOWA TEI
ブラタモリ中のタモさんが。

福原音
生タモリさんを見たからにはピンポンするなら今日しかないと。

細野悠太
はっはっは(笑)。

TOWA TEI
意味わからん(笑)。

福原音
で、細野さんに会って。いろいろ話をしていたら、「きみと背格好がよく似た孫がいるから。話が合うと思う」って紹介してくれたのが悠太くんでした。

TOWA TEI
それがいつだったんだっけ?

福原音
2019年の春のことでした。

細野悠太
あ、もうそんなに経つんだ。

TOWA TEI
ていうか、細野さんが会ってくれたっていうのがすごいですよ。

福原音
その日、細野さんはたまたま家にいたんです。ピンポン押したら、悠太くんのお母さんが出てきてくれて。たぶん、ファンの人が来ちゃったからお断りしなきゃということだったと思うんです。でも、僕があんまりちゃんとしゃべることができず、ブギウギの人の名前とか言葉とかだけをブツブツ言うんで、ふつうのファンの人とは違うなと。

細野悠太
めっちゃヤバいヤツが来た(笑)。

TOWA TEI
どういうことを言ったわけ?

福原音
40年代のブギウギのソングライターでドン・レイという人がいるんですが、その人の名前をあげて「ぜひ、細野さんにいろいろ聞きたいんです」と。すると悠太くんのお母さんが、父がよく言ってる名前と一緒だから会わせてみたらおもしろいかも、と思ってくれたみたいで。

TOWA TEI
ということはさ、細野さんが悠太くんと繋げたということだよね。

福原音
完全にそうです。バンド名の「シャッポ」も細野さんがつけてくれました。(注:シャッポは帽子の意味。「シャッポを脱ぐ」で脱帽するという意味になる)
還暦を迎えようやくスタート地点に立った気分。

TOWA TEI
そもそもどうしてブギウギだったの?

福原音
もともと音楽が好きで、10歳からギターを弾き始めて。最初はロック少年で、エリック・クラプトンとかだったんですが、だんだん古いミュージカル映画ばっかり観るようになって。で、コール・ポーターやジョージ・ガーシュウィンといったティン・パン・アレーの人たちが手がけるミュージカル曲をどんどん掘るうちに、30年代のヒットチャートを聴くようになって。で、40年代になると俄然ヒットチャートがおもしろくなっていって、中でもブギウギがおもしろいなって。

細野悠太
僕はもう全然そういうのはわからなくて。音くんと知り合ってから、祖父が最近やってる音楽はこういうことなんだなとわかるようになっていったんです。とにかく、の音楽の歴史については全部音くんに教えてもらいましたから。

福原音
悠太くん、細野さんのことも全然知らなかったもんね。

細野悠太
はっはっは(笑)。

TOWA TEI
それもすごい話ですよ。

細野悠太
何も知らずに生きてきたんで。

福原音
でも僕も細野さんに会って、交流するようになってから、ああ、この人はやっぱりすごい人なんだとだんだんわかってきて。それを悠太くんに逐一伝えるようになりました。細野さんは昔、ユーミンのバックバンドをやってたんだよ、とか。

細野悠太
え、そうなの? 荒井由美時代のユーミンの? って。

TOWA TEI
あはははは! ものすごい回り道(笑)。

細野悠太
それすらも知らなかったんで。

TOWA TEI
でまあ、そんな音くんの話がインパクトがありすぎだったんで、もうちょっと話を聞きたいなと思って、すき焼きに誘ったわけですよ、僕は。

福原音
行きましたね、すき焼き。

細野悠太
めっちゃおいしかった。

TOWA TEI
で、話をいろいろ聞いたんだけど、おもしろい2人だなあと。僕は、若い世代だから興味があるとかそういうことではなく、細野さんの孫と40’sオタクが一緒になってどういう音楽になるんだろうと、そこにすごく興味があって。で、シングルを聴いてみたらめちゃめちゃエキゾチックだった。僕が言うのもおこがましいんですけど、2人の不思議な感じが音にも出てるなと。で、ついこのあいだ、ファーストアルバムも聴かせてもらったんだけど、これもやっぱりヘンで(笑)。

シャッポ
あはははは!

福原音
細野さんにも言われたんです。「ヘンだ。聴いたことのない音楽だよなあ」って。

TOWA TEI
そこですよ、結局。「ヘン」。聴いたことのない曲とは言わないまでも、聴いたことのないバランスのアルバムというか、いい意味で伸びしろがあるなと。次も期待というか、どう変わっていくんだろうなあと。で、いつ解散するんだろうなあって。

福原音
もうそこまで(笑)。

細野悠太
まあ、3枚目でいいのをつくったらね(笑)。

TOWA TEI
で、たまたまほぼ同じ時期に、シャッポはデビューアルバムが出て、こっちは13枚目の還暦記念アルバムが出て、という2025年の春じゃない(笑)。

シャッポ
還暦、おめでとうございます。

TOWA TEI
いやいやもうさ、去年の9月に還暦を迎えたわけですが、僕は長かったセミセミリタイヤからセミリタイヤへひとつ前進したのでね。

福原音
セミセミリタイヤ(笑)。

細野悠太
なんかいい響き(笑)。

TOWA TEI
僕、35歳ぐらいからセミセミリタイヤだったんですよ。その頃から軽井沢暮らしを始めたので、深夜のDJイベントとかをやらなくなって。明後日のDJも無理矢理昼間にしましたから。

細野悠太
健康的な生活を送られて。

TOWA TEI
もっと温泉行かなきゃなと思ってます。週4〜5は行かなきゃなと。

細野悠太
そんなに!

TOWA TEI
温泉旅行(もしくは旅館)はいままで月1、月2くらいは行ってるんだけど、セミリタイヤになったからにはもっと行かないとダメだなと。なんたって、こっちは伸びしろが少ないわけですから。

シャッポ
いやいやいや。

TOWA TEI
でね、細野さんに今回のアルバムについてコメントをお願いしたんです。還暦ですから、無理言ってお願いしたんですよ。すると「進化している」と言ってくれて、ホントうれしかった。なんというか、継続は力なりというか。僕はわりとコンスタントに、アルバムをつくってきたんですよ。あんまり間を開けず、2年に1枚みたいなペースで。その続きで、60歳のアルバムもつくったんですよ。ゆるゆると少ない伸びしろの中で進化していけたらいいなと思いながら。

福原音
TEIさんはリリーススパンが短いので、この世代にはあんまりそういう人っていませんよね。

細野悠太
そうだよね。

TOWA TEI
だから、60になって、セミリタイヤ宣言をして、ようやくスタート地点に立ったような気分なんですよね。たまにいるじゃないですか、70歳でDJ始めたおばあちゃんとか。

細野悠太
いますね。

福原音
地域ニュースに出てくるインスタやってるおばあちゃんとか。

TOWA TEI
そうそう、YouTuberとかさ。なんかそんな感じ。そういう意味で、僕は余生がもうあんまないんだけど、キャリアを始めたばっかりのシャッポの2人とたまたまクロストークすることがある。それが、音楽のおもしろいところだなあと。
インフォメーション
TOWA TEI
1990年に DEEE-LITEのメンバーとして、アルバム『World Clique』で全米デビュー。現在、13枚のソロアルバム、3枚の SWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINE名義、METAFIVEのアルバム等がある。2025年4月からBillboard Liveのテーマ楽曲を担当。 6月6日、最新アルバム『AH!!』のアナログ盤を発売。

『AH!!』
発売日:2025年6月6日
仕様:アナログレコード/初回限定クリアスカイブルーヴァイナル 180g重量盤
(品番:MBLP-2501/価格:¥5,500(税込)/全11曲収録/レーベル:MACHBEAT.COM)
参加アーティスト:石野卓球、権藤知彦、高田漣、高橋幸宏、高野寛、原口沙輔、細野晴臣、る鹿、BAKUBAKUDOKIN、CHAPPO、MIYA(Ålborg)、TAPRIKK SWEEZEE、VERBAL、他
ジャケットアートワーク:横尾忠則
配信:https://linkco.re/XCuAxf41
インフォメーション
シャッポ
2019年結成のインストゥルメンタルバンド。メンバーは福原音(Gt,etc.)、細野悠太(Ba,etc.)。ともに2000年生まれ。23年12月13日、ファーストシングル「ふきだし」でデビュー。25年4月、ファーストアルバム『a one & a two』を発表。

『a one & a two』
発売日:2025年4月23日
仕様:CD
(品番:KAKU-221/価格:¥3,300(税込)/全14曲/レーベル:カクバリズム)
配信:https://kakubarhythm.lnk.to/CHAPPO_a1a2
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