TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#3】音の考古学
執筆:園田努
2024年8月29日
僕が幼稚園児だった頃、将来の夢は考古学者だった。生まれてまだ数年というところにしては、些か偉ぶった夢だが、その時の僕は自分を偉く見せようなんて微塵も思っておらず、とにかく本気だった。
僕をそうさせたのは他でもない、幾億年前にこの地球で生息していた恐竜という不思議な生物たちである。考古学者という言葉は、恐竜に関係した仕事をしたいと言った僕に、適当なものを母が教えてくれたのだろう(僕が本当に目指すべきだったのは、おそらく古生物学者だが、そういう細かいツッコミはさておく)。
とにかく、そう決意してから、誕生日のプレゼントには恐竜図鑑と虫眼鏡を買ってもらい、近所の狭い公園に通っては、土を掘り返す日々が始まった。もちろん、そんなところで自分の何十倍も巨大な恐竜の骨や化石が見つかるわけもなく、スコップが硬い何かを弾いたと思ったら、小石か木の根っこがいいところだった。いつの間にかそんな夢を追わなくなったのは、『ドラゴンボール』を読んで漫画家を夢見始めたからかもしれない。
乾燥した指先を痛めながら、中古レコードの山を漁っている時、かつてそんな日々があったことを思い出した。きっと僕の脳が、レコードを漁る行為と、土を掘って化石を探す記憶を勝手に結びつけたのだろう。思えば、その二つの行為は似ているような気もする。見つかるわけもない化石を探しながら、見たことのない不思議な生物の姿、それが生息していた土地の空気、時代、彼らの暮らし、生態系。少ない記憶を必死につなぎ合わせては、それらを妄想していた。
今の僕はまだ見ぬレコードを探しながら、過去に生きた人々の、命を削りだして作りあげた芸術、哲学、心の原空間に漂うエネルギー、さらにはそのレコードを手に取り、受け継いできた人々の、音楽と共にある生活までにも想いを馳せる。僕自身がレコードを作っている今では、瞼にその全てを、かなり鮮明に映し出すことができるようになった。昔も今も、引いて見たらやっていることは同じだろう。
映画『ジュラシックパーク』では、琥珀に閉じ込められた蚊の腹部から恐竜の血を採取し、その血に含まれるDNAを使って恐竜を復元するシーンがあるが、レコードも元々は固めた樹脂なので(現代では塩化ビニール素材が広く使われている)そこにもややシンクロを感じる。
レコードに針を落とし、スピーカーを鳴らして聴く音には、何かが宿っている。多分それは、考古学的思考を繰り返した先に辿り着くような、不確かだけどかけがえのない何かで、僕はそういうものを求めて、日々レコードを探している。世間に溢れている「レコードは音がいい」という言説も、時を超えてレコードが流行するのも、結局のところ、この何かが起因していると思う。インターネットを駆使して音楽を探していたら、こういうものには出会えない。コンピュータが作り出したアルゴリズムには人々の情緒も縁起も、何もかもが欠落している。
僕にとってレコードを探すことは、音をめぐった考古学的行為であり(というか、数千、数万年、ずっと先の未来では正真正銘の考古学になるのだが)、その不確かな何かを、人生を賭けて追求し、自分なりに解明したいと考えている。こんな僕が、音の考古学者を名乗るのは、些か偉ぶっているだろうか。まあ、夢見るくらいならしてもいいだろう。
プロフィール
園田努
そのだ・つとむ|1997年神奈川県生まれ。サイケデリックでトリッピーかつ、ニューエイジでメディテーショナルなサウンドが癖になる『maya ongaku』のギタリスト、ヴォーカル、作詞家。8月30日にニューEP「Electoronic Phantoms」を配信。最近公開されたミュージックビデオ「Iyo no Hito」も要チェック!
Instagram
Maya ongaku
https://www.instagram.com/maya_ongaku/
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