カルチャー

「エフェメラ」を探して。Vol.3【後編】

『SKWAT KAMEARI ART CENTRE』編

photo: Hiroshi Nakamura
text: Ryoma Uchida
edit: Kouske Ide
cooperation: Yu Kokubu

2025年1月22日

エフェメラの魅力に惹かれ、集う人々と広がる活動の輪。

 廣瀬友子さんが運営するオンラインショップ『telescope』は活動を拡大中。2014年に閉館した『清里現代美術館』の所蔵品の整理・販売だけでなく、アーカイブブックの制作や、「TOKYO ART BOOK FAIR」への参加、『twelvebooks』協力のもと、亀有に新設された芸術文化センター『SKWAT KAMEARI ART CENTRE』に展示空間をもつまでになった。現在これらの活動は、NPO法人「NPO Telescope」を中心に運営中だ。

Yutaka Hirose “John Cage memorial“

 廣瀬さんのパートナーは、主に80年代日本の環境音楽の分野で知られるサウンド・デザイナーでアンビエント作家の広瀬豊さん。『清里現代美術館』で行われた展示『ジョン・ケージ メモリアル』(1992)では、展示構成や会場のサウンドデザインにも携わっていたとか。そんな同展の資料や楽曲作品の復刻するサウンドアーカイブプロジェクトもNPOとしての活動の一つだ。こちらは栃木県益子のレコード店/レーベル『Art into Life』との共同で実現した。

「元々、『清里現代美術館』は私設ということもあり、あまりアカデミックなものとはいえませんでした。しかし志が高く、何かをやりたいと思う人が関われる館だったと思います。『telescope』を運営するなかで、そんな気持ちをもった人たちが集まってきてくれるようになりました」(廣瀬)

 『telescope』の元・常連で、現在も深くプロジェクトに携わる人がいる。エフェメラ専門店『苑ス』をオープンした鈴木貴也さんだ。先述したNPO法人の常任理事も務めている鈴木さんは、SKAC『twelvebooks』内で『EPHEMERAL DOCK(エフェメラル・ドック)』と名付けたオリジナルの収蔵庫を設置し、鈴木さんが集めてきたインビテーションカードやポスター、『清里現代美術館』のコレクションの一部を不定期に展示販売している。

『苑ス』鈴木貴也さん。

『twelvebooks』内のエフェメラ専門スペース「EPHEMERAL DOCK(エフェメラル・ドック)」。実際に触ってみることも可能だ。

「元々、ポスターなどのエフェメラが好きで集めていたんですが、『telescope』の活動と出会って、本格的に動き始めました。エフェメラは国内ではあまり馴染みのない言葉ですし、拠点を持って、新たな魅力を広める場所を作りたいと思っていたんです」(鈴木)

 鈴木さんが用意した「エフェメラル・ドック」。大量のポスターやエフェメラを収容しているのだが、その見せ方は工夫を凝らしているのだとか。

「エフェメラは古物であり、また小さく薄いものが多いので、一枚ずつ真空パックに封入して、手に取りやすくしています。そもそも保存を目的に作られたものではないので、廃棄されてしまうケースが多く、残存しているエフェメラはとても貴重なもの。本やレコードなどと違って、一度手放したエフェメラが再び入荷する機会はほとんどありません。展示・販売はテーマやアーティストを絞って、少しずつやっていきたいと考えています。

 エフェメラの中には宛名が書かれていたり、一部が汚れたり破損していたりするものもありますが、作家の残した痕跡やモノにまつわる歴史、当時の時代の空気感をリアルに感じられる良さがあります。エフェメラに触れることで、色々な見方や面白さ、新たな魅力を発見して、“モノを見る目線”の価値に気づいてもらえるよう努力しています」(鈴木)

「エフェメラル・ドック」の見せ方は試行錯誤中。今後はテーマやアーティストを絞って展示するとか。

縦型に挟み込むことで、エフェメラが全く異なる見え方になる。

ついつい長居してしまうので、座りながら鑑賞もおすすめ。

「エフェメラル・ドック」カタログ。様々な大きさのエフェメラが収納されている様子をイメージして作られた。これもいつの日かエフェメラになっていくのだ。

 アーカイブの制作や、廣瀬さんがまだ手をつけられていなかったポスター等の資料の整理、NPOとしての運営など、一人ではやりきれない仕事を様々に手伝ってきた鈴木さん。現在、『telescope』に携わる人々は、みんな自分の好きなものや価値を信じて、なんとかそれを形にしようと動いてきている。

「アーカイブブックに展示に販売と、様々な活動があってわかりづらいかもしれません。でも、アートも本来、わからないからこそ面白くてワクワクする部分もあるかなと思うんです」(廣瀬)

 エフェメラを探して、たどり着いたのは故・伊藤信吾氏が「よく分からない」自分だけの価値を信じて、集めて蒔いた芸術への愛の種。『清里現代美術館』から『telescope』へ。そして「NPO Telescope」として活動は広がり、「エフェメラ文化」がいま亀有から芽生えようとしている。