ライフスタイル

【#2】音声圧縮技術とファッション

2022年4月18日

text: Mitsuyoshi Azuma
edit: Yukako Kazuno

吾妻と申します。前回、40数年会社勤めをしていた、と書きましたが、まあその大部分は映像関係の音声現場の仕事をしていたので、学校を出て20年弱は、ワークシャツにジーンズ、みたいな格好で仕事に行ってたわけですが、ある日、「カンリショク」というものになりなさい、と言われました。

いざ自分がその立場になるにあたり困ったのがスーツの問題です。ほとんどの上司はスーツを着て職場に来ていますが、こちとらは結婚式やお葬式を含めて、スーツを着たのはせいぜい50回ぐらい?で着る度に居心地の悪さを感じていましたし、何かスーツってロックとかブルースっぽくないよな、とガキの様に思っていたわけです。何とか今の服のままで通したい、と思うのですが、日本の同調圧力は凄まじく、そんな服で出社しようものなら、おい、スーツはどうした、と聞かれるのが関の山です。

そんな頃、音声関係の仕事をしていた、と申しましたが、音声のデジタル化ではデータ量の議論が欠かせません。何も考えずにデータ量を削減するとこんな音になってしまいます。

これは相当ババッちく、まさに神聖な会社のオフィスにジーンズで踏み込んでいく様なものです。しかしきょう日皆さんが何気なしに聞いているmp3という「圧縮音声」を使えば、

おお、全然ババッちくないのに、データ量はほぼ同じなのです。何故こんなことが出来るかというと、人間の耳の「大きな変化があればその周りの小さな変化には気づかない」という特性を利用しているのです。なるほど!と膝を打った私は、床屋に行ってそれまでの長髪しかも頭頂部薄毛、という髪型を坊主頭にしてもらいました。そして翌日出社して・・・

「おはようございまーす・・・」
「お? あ、おっ、おおおおーー!」

オフィスの上司や同僚達はどよめきました。よもや坊主頭で出社するとは思っていなかったので、皆、一様に驚き、これがほぼ4〜5日続きましたが、実は皆さん、目線が「大きな変化」である頭に行ってしまうので、ジャケットの下が実はジーンズだったという「小さな変化」に気がついたのは翌週になってからで、以後どさくさに紛れ、その格好のまま無事に出社していました。改めていま考えてみると、昔のブルースマン達もほぼスーツ姿でしたし、素直にあの時スーツを着ていればPOPEYEでももっとまともなことが書けていたのかも知れませんね。

プロフィール

吾妻光良

あづま・みつよし | 1956年2月29日、新宿生まれ。60年代中頃から70年代中頃のロック / ブルース・ブームの波に飲み込まれギター演奏にも没入し、大学を卒業したらミュージシャンになる、という野望を抱えて5年生になるまで大学に通ってみたが、いまひとつ開花せず断念。サラリーマン生活に突入するが、42年を経て退職の時を迎え、 遅咲きのプロ入りを果たす。吾妻光良 & The Swingin’ Boppers、吾妻光良トリオ+1などで活動中。座右の銘は「善人に悪い人無し」。

Official Website
https://s-boppers.com/