カルチャー
【#1】馬だけが暮らす島|ユルリ島のこと
2022年1月13日
photo & text: Atsushi Okada
深い霧に包まれた草原を、馬を探して歩く。
舗装された道も、人が住む家もない。可憐な野の花が海風に揺れる無人の草原が、ただ目の前に広がっている。
どこか遠い異国の話でも、小説の中の架空の物語でもない。北海道の東の果ての海に浮かぶ、“ユルリ”という名をもつ小さな無人島の話だ。周囲8キロに満たない海霧に包まれた幻の島。その島を覆う草原のどこかで、ただ馬だけが静かに暮らしている……。
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北海道根室半島沖に浮かぶユルリ島。アイヌ語で“鵜のいる島”という意味をもつこの島に、写真家の僕が出会ったのは10年以上前のことだ。
いまでこそ「ユルリ島」と検索すれば、インターネット上にたくさんの情報が溢れているが、当時のユルリ島は、日本に点在する名もなき無人島のひとつにすぎなかった。検索してわかることといえば、島の位置と、“野生化した馬がいる”ということぐらいで、写真や映像はでてこない。なぜなら、それは立ち入りが厳しく制限された、辺境の海に浮かぶ無人島であったからである。
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霧に包まれたユルリ。北海道出身の写真家の僕ですら知らなかったその島に、2年近くにわたる交渉を経て上陸することができたのは、2011年の夏の終わりだった。
僕は漁師に船を頼み、小さな昆布船に乗って、境界のむこう側にあるその島を目指した。そしてそこで目にしたものは、霞をはむように自由に生きている馬の姿だった。
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東京からユルリ島に通い、10年以上が経つ。僕は幾度となくこの島の草原を彷徨い、島のどこかにいる馬の群れを探した。空を遮る山も、大地を隔てる川もないこの島で、自分が島のどこに立っているのかを教えてくれるのは、島にただひとつだけある建造物、緩島灯台(ゆるりとうとうだい)だけだった。その灯台の光だけが、道なきこの島を歩く僕の指標となり、草原の海を照らし、帰る場所を教えてくれた。
いま、この瞬間、馬が島のどこにいるのかを確かめるすべはない。
だから僕は、ときどき不安に思う。馬だけが暮らす北辺の海に浮かぶ小さな無人島、それは僕が心の中に描きだした幻想だったのではないかと……。そして、島に佇む灯台の光だけが、本当のことを知っている。
ユルリ島ウェブサイト
写真・映像:岡田敦
文章:星野智之(⻘い星通信社)
デザイン:鈴木孝尚
音楽:haruka nakamura
企画制作:岡田敦写真事務所
運営:根室・落石地区と幻の島ユルリを考える会
プロフィール
岡田敦
Website
http://okadaatsushi.com
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