TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】映画ができるまで
執筆:小宮雄貴
2026年7月18日
7/16(木)からシネマ・チュプキ・タバタでも映画『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』の上映が始まった。自主上映会を始めた当初は人前に立つたびに感極まっていたのだが、これまでに6つの映画館で上映させていただき、舞台挨拶にも少しずつ慣れてきたかもしれない。
振り返れば、映画という形になるまでは紆余曲折があり、偶然の出会いにもかなり助けられてきた。そもそもなぜ編集をしたのかを正直に話せば、恭平さんへの密着ができなくなり、編集せざるを得なかったからだった。鬱で撮れなくなったという訳ではなく、一時的に恭平さんからもう密着はしないで欲しいと伝えられてしまった。こちらの撮りたいというエゴを押し出し過ぎていたのだと思う。「自己否定をやめろ」と言う人を撮りながら、無遠慮が招いた事態に自分を責めた。それでもカメラを置いてライブやトークに遊びに行く中で、密着ではないならとライブなどの撮影は許してくれることになった。
2024年8月、岡山県津山市のギャラリー朔で開かれた個展のオープニングライブを久しぶりに撮らせてもらったのだが、その時に思わぬ再会があった。岡山県をベースに上映活動をするCineRuelleの吉川夫妻が個展を見に来ていた。吉川さんとは鳥取県湯梨浜町のミニシアター jig theaterで初めて出会った。と言うより、jigの支配人の柴田修兵さんが「多分二人は会っといた方がいいよ」と紹介してくれた。少し脱線してしまうが、湯梨浜町には2021年9月に行って以来、毎年通っていて、軽やかに出会いを促すこの町のおかげで変え難い経験を沢山させてもらっている。恭平さんとの出会いも、湯梨浜町の独立系書店 汽水空港で『独立国家のつくりかた』をたまたま買ったことだった。吉川さんは映画館を作ろうと志したばかりで、自分はドキュメンタリーを志したばかり。いつか自分の作品を上映して欲しいみたいなことを冗談混じりで話していたので、朔のオーナー横山悦子さんも交えて、「来年ここで上映会したいですね」と冗談半分本気半分で伝え、密かな目標になった。
前回も書いたけれど、恭平さんへの密着というのは初めてやりたいことが見つかったという初期衝動に突き動かされていたので、密着ができなくなった期間は自分にとっての鬱のような時間だった。一人で映像を見返すのは孤独な時間ではあったけれども、その時の自分を救う作業でもあったと思う。坂口恭平の何を撮ってきたのか。振り返ると、現場では見逃してきた眼差しや声の震えなどの細部に気づくようになった。
『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW』というタイトルも恭平さんのアイデアだったが、これ以外に相応しいタイトルがないと思えるほどには映画の方向性が見えたところで、まだラストシーンができていなかったにも関わらず、吉川さんと悦子さんに「上映会させて欲しいです」と連絡した。二人はその無謀な賭けに乗ってくれて、翌年7月の恭平さんの個展に併せて上映会をすることが決定。ラストシーンをどう締め括ればいいのか悩みに悩んだ末に、上映会1週間前にやっとラストに相応しいシャッターチャンスが巡ってきた。しかし、恭平さんの鬱が深まり、結局不在を撮影して上映会に臨んだ。
上映時間169分。とんでもない長尺に30人のお客さんが向き合ってくれた。「俺は編集できない」と言われて始まった密着の編集版が果たして受け入れられるのかまったく自信はなかったが、上映後は長い拍手で迎えられた。坂口恭平という人物のドキュメンタリーを超えて、人間誰しもが抱える「さびしさ」という普遍性が捉えられていると教えてもらった。
上映会後、朔で恭平さんの書籍を出張販売していた汽水空港のモリさん一家の車に乗せてもらい、湯梨浜町の水郷祭という花火大会へ行くことになった。人でごった返していたのだけど、ここでもまた予期せぬ再会があった。東中野の独立系書店platform3の丹澤弘行さんたちが遊びに来ていた。丹澤さんとはplatform3で一度話したことがあり、なぜ湯梨浜町にいるのか驚かれた。上映会のことを伝えると、「ぜひうちでも」とその場で次の上映が決まった。そしてplatform3の上映会に招いたポレポレ東中野の小原治さんが本作を気に入ってくださり、劇場公開版を作るべく伴走してもらえることになった。恭平さんの鬱明け後、再び熊本での生活の密着も再開。新たなエンディングを加えて、各地での上映会で少しずつブラッシュアップを重ねて147分の劇場公開版となった。
カメラを勝手に回したことから始まり、撮れなくなったことで勝手に落ち込み、自分を救うために勝手に編集して生まれた、勝手づくしの映画ではある。それでも、坂口恭平という人物の生活を執拗に写したこの映画が、人間はどのようにして他者を、そして自分を助けていけばいいかという手掛かりに少しでもなればと思っている。シネマ・チュプキ・タバタでの上映は7/31(金)まで。自主制作で宣伝が行き届いているとはとても言えないけれど、これからも多くの方に本作と出会ってもらえることを願っています。
プロフィール
小宮雄貴
こみや・ゆうき|1997年、神奈川県生まれ。映像制作会社に所属し、ディレクターとして『情熱大陸』などテレビドキュメンタリーを制作する傍ら、自主制作も行う。2026年3月より初監督作品『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』が全国順次公開している。
Instagram
https://www.instagram.com/yuki__komiya/
YouTube
https://www.youtube.com/@TRUEKYOHEISAKAGUCHISHOW
映画『TRUE KYOHEI SAKAGUCHI SHOW 坂口恭平生活』公式サイト
https://www.true-kyohei-sakaguchi-show.com/
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