TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#1】憧れの映画の話
執筆:工藤遥
2026年5月9日
工藤遥といいます。映画やドラマという作品に飛び込んでみると現実を曖昧にできるから好きです。要は現実逃避。でも俳優という仕事の性質上、当然の学びなので誰にも咎められずラッキーな私です。
今回は『The Fall 落下の王国』の話を。私のお守り映画。初めて見た時に沸いた感情がずっと救ってくれる。
カルト的人気を誇る作品だが、日本公開以降、配信が無いだけでなく、円盤も無い。長年オススメされ続けたが観る手段がない。知れば知るほど引き返せず、何度もフリマアプリと睨めっこ。
そんな時、たまたまDVDを持っている人に出会い、観る機会を得た。長年喉から手が出るほど欲しかったものが目の前に現れ、なんとしても観なければという使命感から動悸がした時は驚いたものだ。
2025年には4Kリマスター版の劇場公開があり、映画館で観れる機会も得た。願っても叶わないから願い続けてしまうのに、叶ってしまったなんて。思わずグッズまで購入してしまうオタク節。
物語は、大怪我で自暴自棄になっているスタントマンの青年と腕を骨折している5歳の少女。青年が少女に向けて話す、思いつくままの作り話を壮大な映像で表現している。
特に病室での2人の会話のシーンは素晴らしい。
わずか5歳の少女は、驚くほど自然体でそこにいる。アドリブなのか台本なのか、リアリティしかない奇跡の会話の連続に開いた口が塞がらない。
水を跳ねるような無色透明な少女の声、言葉を交わすほど光を失いながら沈んでいく青年の瞳。たった1枚のカーテンで2人きりのジリジリと音のするような世界が輪郭を現す。目眩がするほど美しかった。
涙を流すようなシーンではなかったが、溺れてしまいそうになるまで泣いた。
無意識に声を押し殺していたのは多分、少女が羨ましかったから。
この運命が欲しかった。狭く無機質なベットの上で青年の作り話が聞きたかった。
私にこの記憶があれば世界に恐れる事なくどこまでも飛んでいける気がした。
アレクサンドリアになれなかったことを今更悔やんだ所でどうにもならないのに、悔やんでしまうのはそれだけ彼女が私にとって眩しかったのだろう。
引き込んで離さない世界観や文字通りの“美“術を纏い、演じ手としてそこにいれるだけでも良いから参加できたらどんな心地だろうと想像する。でもこれは今の26歳役者の私の憧れで、「アレクサンドリアになりたかった」のは、心の奥の奥、薄いガラスケースで覆われた5歳少女だった私の憧れな気がする。
恋焦がれた作品は、永遠に焼き付いている。この先もずっとアレクサンドリアになりたかった自分を抱きしめ続けていたい。
プロフィール
工藤遥
くどう・はるか|俳優。1999年10月27日生まれ。埼玉県出身。
2018年より俳優活動を本格的にスタート。特撮ドラマ『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』にてルパンイエロー役を務め、注目を集める。2020年には映画『のぼる小寺さん』で映画初主演を飾り、その後もMBS『ロマンス暴風域』日本テレビ『若草物語』TBS『御上先生』NHK『3000万』映画『この夏の星を見る』など、多様なジャンルの話題作に出演。
趣味は、ドラマ・映画鑑賞。自他共に認めるMARVELオタク。