ファッション
今もなお借りて観る映画狂なポートランダー。
PORTLAND/変わらないもの、生まれ変わるもの。
STYLE SAMPLE ’26
photo: Carter Hiyama
text: Sakiko Setaka
2026年2月 946号初出
2026年2月6日
サブスク全盛、ビデオ店全滅時代になお、拡大する『ムービー マッドネス』。その偉業が日常として続いているのは“ポートランドだからこそ”できること。
週末の夜、カウンターの行列は常に途絶えず、手には何本もDVDをかかえる人、ビールを飲みながら棚を舐め尽くすように物色する人が点在する。ここはポートランド市内で唯一現存するレンタルビデオ店『ムービー マッドネス』(以下、MM)。いまや珍しい〝レンタルビデオ〟という文化が、日常の一部として老若男女に愛される。一体、どういうことなのか。まずはその歴史をひも解いてみるとする。
Shirt – ELY Cattleman
Jeans – Levi’s
Hat – Master Hatters of Texas
Boots – Justin
テンガロンハットにカウボーイブーツ。正統派ブランドの硬派なウェスタンスタイルだが、好きな映画はレトロな日本の特撮系やメキシコ覆面レスラーが主役のカルトアクション、スタント技や着ぐるみなどの造形美が光るもの。MMで上映会をホストした際は、自らキャラクターになりきって人気を博したとか。
T-Shirt – Media Crypt
Pants – Dickies
Hat – Thank You Skateboards
Sneakers – Puma
サイコなトリップ感に誘うカルト、B級映画を愛するベンは勤務歴7年。VHSコレクターが立ち上げたブランドのTシャツも地味に主張。「レンタルビデオ文化は次世代への進化の触媒、古き良きアメリカ文化をつなぐ架け橋。それがポートランドで可能なのは“地に足のついた暮らしの感性”があるから」
初代オーナーはハリウッドで映画製作のキャリアを積んだマイク・クラーク。当時、自分の観たい映画を借りに行こうと思うと、3、4軒もの店を回らなくてはならなかった。「いつか自分でやるならあらゆるジャンルが一堂に揃う店をやりたい」。その〝いつか〟の一歩がかなったのが’91年。某有名映画会社からの誘いをけって、自分のハートに従った決断を、生まれ育ったポートランドで果たしたというわけだ。
Vest – Uniqlo
Jacket – Rapha
Pants – Pearl Izumi
Shoes – Shimano
Bike – Salsa
バイクウェアに身を包んだイーサンはヘルメット着用のまま店内をブラウジング。ポートランドでは当たり前かもしれないが、にわかに目を引いた。「MMにはもう22年通っているよ。なんでもデジタルになったいま、物理メディアが恋しくなるしここに来ればすべてあるから」
「1年目のストックは5000本で、どこにでもある小さな街のビデオ屋から始まったんだ」
そう語るのは、マイクの甥でチーフキュレーターを務めるマット・パーネル。12歳からカウンターに立って手伝ってきたという彼は日々、まだ観ぬ作品を探し集め、週に何十本ものペースで増え続けるコレクションを統括する。
「それがいまでは9万5000タイトルにまで増えている。ぼくらの店には〝Hard to Find Video〟、というサブタイトルがつくほどでね。どこにもない作品がある、というのが強みなんだ」
Jacket – used (Giorgio Armani)
Tops – second hand (from Spain)
Shirt – second hand (from Spain)
Pants – Cordera
Shoes – Adidas
Jacket – Poler
Shirt – Lady White Co.
Pants – Nonsapiens
Hat – Giant Robot
Shoes – Adidas
レンタルビデオ店で誕生日会。夢のようなそれが叶うのがミニプレックス併設のMM。俳優の藤谷さんと脚本家のハビエル夫妻はゲストとして来店。カーキのジャケットと〈アディダス〉のスニーカーでさりげなく夫婦でテイストを合わせて。「ここに集う人は映画愛と情熱が半端ない。アートやスモールビジネスへのサポート意識が高いポートランドならではですね」。普段からMM愛用者でシネフィルのふたりは口を揃える。夫婦でP・T・アンダーソン監督作品が好き。
スタッフのベンは、そんなMMのことを〝世界文化の記録者〟とも例える。
「67か国別、400以上の監督別に、カルト、クラシック、SF、B級など、その多様さと数で成長してきたんだ。そしてそのコレクションを作ってきたのはリクエストしてくれるお客さんやスタッフの声。いまでもこの作品がない、と言われたら個人コレクターに当たってまで探し出す努力をしているよ」
Jacket – Lazy Oaf
Pants – used
Shoes – Dr. Martens
Backpack – Jansport
カーディガンの羊やバックパックのエイリアンなど、ポップな柄の装いとは裏腹に映画は古典派。「ケイリー・グラント、キャサリン・ヘプバーンの作品は全制覇しています」。大学院で映画を専攻し、教鞭をとっていたこともある彼女が愛するのはクラシックハリウッドやヌーベルバーグ。「好きな映画は自分の輪郭を忘れるほど没頭させてくれる」
Jacket – Resurgence
Shirt – Machus
Pants – IISE
Shoes – Y3 × Adidas
カナダのインディーブランドの“AKIRA”ジャケットを着こなすパトリック。日本の古い映画、特に黒澤明監督の『乱』が大リスペクト作品。亡き仲代達矢氏を偲んでいた。通い続けて10年以上、フレンドリーで知識豊富なスタッフがいるのもMMが好きな理由だとか。
Sweatshirt – Fantasy Initiative
Pants – used
Hat – Fantasy Initiative
Shoes – Blundstone
「とにかくファンタジー。 架空の世界へ没入させてくれる作品なら、どんなものでも惹かれる」。ハットとスウェットは“剣と魔法”の世界観をストリートに落とし込んだブランド。SFセクションで長い間、作品選びに没頭していた。「ここは自分にとってホームのような場所だよ」
全くもって順風満帆なようだが、もちろんそうは時代が許さなかった。
「配信の登場だね。右肩上がりだったすべてが’12年を境に横ばいに。あちこちにあった同業は次々と店を閉め、気づいたら街には数軒のみ。そんな状況になった’17年、マイクが引退すると言い出した。それでこの街のクラシック映画の先輩である非営利シアターにオーナーになるよう打診してみたんだ。彼らはこの膨大なコレクションの重要性をよく理解していたから積極的だった。だが資金はない。それでファンドレイジングがすぐに立ち上がったんだ」
結果、30日で35万ドル以上という驚異の速さで期待以上の額を調達。「それはポートランドという街だからこそ成し遂げられたもの」とマットは振り返る。変わりものが集まり、ノスタルジーを好み、小商いを敬愛する。MMが育んだコミュニティの意義を理解しそれは世代を超えて引き継がれている。現に、ここ数年では週に250人というペースで利用者が増加し、なかでも生まれたときからデジタル世代の若者層の支持が増えているとか。〝何軒ものレンタルビデオ店を回らなくてもいいように〟という創業者の思いから生まれたMMだが、いまでは〝あちこちにサブスクせずとも、この一軒でこと足りる〟店としても重宝されている。
「初期のサイレント映画、デジタル化されないVHS。配信にはできないものをぼくたちはかき集めている。そもそも9万5000本という数字は、大手配給会社が寄せ集まっても到底、たどり着けない数なんだよ」
Jacket – used (Wrangler)
Shirt – Big Mac
Pants – Carhartt
Hat – Seager
Boots – Wesco 「Job Master」
継父譲りのデニムジャケット、オレゴンで100年以上の歴史をもつ〈ウェスコ〉のブーツ。オールドウェスタンな気分をまとったスティーブンは近所の書店員。ドイツのサイレント映画の巨匠、F・W・ムルナウと、1930〜’50年代に傑作を生み出したイギリスの監督、マイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガーのコンビに影響を受ける。「MMは新しい“親友”に出会える場所」
Hoodie – used
Pants – Carhartt
Shoes – Adidas
ジャンルの多さのみならず、クラシック作品のマニアックな品揃えに圧倒されていた初来店のマルコ。初めてのレンタル作品はスリラーの『アザーズ』。映画の世界に誘い入れてくれた監督はティム・バートンで「奇妙で変わった物語の面白さを教えてくれた」。服はスリフトや古着屋を物色するのが常。
ふと、お客さんを見渡してみると、隣り合った人同士がマイフェイバリットを紹介し合い、飲みながら映画談議に花を咲かせている。アルゴリズムの網からは完全に逸脱し、人と人とが映画を介してつながっている。MMにはいまの時代がにわかに求めているもの―フィジカルでリアルな交わり―が地下水のごとく浸透していたのだ。
インフォメーション
MOVIE MADNESS
1991年創業。世界トップのコレクションを誇るレンタルビデオ店。新作は4ドル、旧作は3ドルから2泊3日レンタル可能。’18年からは同市内の非営利映画館「ハリウッドシアター」が運営。併設されたミニシアターではフリー上映会や誕生日会をはじめ、映画教育の集まりやワークショップなどコミュニティのために開かれている。店内に展示された衣装小物にもファンが多い。
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