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”西表島の自然を守りながら楽しむ”ために、僕らができること。
2026年1月21日
photo: Naohiro Ogawa
text: POPEYE
あんなに暑いことに嫌気がさしていたはずなのに、こうも寒い日が続くと、また夏が恋しくなるのが不思議だ。ふと、POPEYE9月号「サマーボーイと夏の島」の取材のため、西表島で過ごした一夏が頭をよぎる。ジリジリと照りつける太陽と、生命の活気に満ちた湿った空気。西表島の森は、少年時代の冒険心を呼び覚ます野性を宿していた。じつは、誌面の中では書き切れなかったんだけど、これから西表島に行くシティボーイには、ぜひ知っておいてほしい大事な話がある。ちょっと長いかもしれないけれど、最後まで読んでほしい。
西表島は沖縄県下では本島に次ぐ大きな島。石垣島、竹富島、小浜島、黒島などとあわせて八重山諸島と呼ばれている。地形は山がちで平地が少なく、島の面積の約90%以上は亜熱帯の森。年平均2200㎜を超える降水量は、島の至る所に大小の河川と多くの滝を形成し、沖縄県最長の浦内川と、最大の落差を誇るピナイサーラの滝がある。写真は望遠レンズで捉えた「ピナイサーラの滝」。1976年に開通した「船浮海中道路」から眺めることができる。所要時間は、上原港から車で6分ほど。
まるで、自然の中にフルダイブするような感覚を味わえる「マングローブ林でのカヤック」や、島随一の美しさを誇る「イダの浜の透明度」。数えきれないほどの星が輝く夜空。
西表島の自然は、誰かが守ってきたから、そのまま残っている。そして、その背景にある仕組みを、僕は島の滞在中に知った。そのキッカケになったのが 「Us 4 IRIOMOTE(アス フォー イリオモテ)」 というプロジェクトの一環で制作された、映画「生生流転(せいせいるてん)」だ。「Us 4 IRIOMOTE」は様々な企業、団体、地元住民、アーティストなどが協力して推進するプロジェクトだ。旅行者と同じ目線に立って、「島のためにできること」を考え、行動する。例えば、地元の声や取り組みを島の外に届けるための映画を作ったり、島の自然と文化を正しく伝える”エシカルガイド”の活動を後押ししたり……。
映画「生生流転(せいせいるてん)」を見ると、島を守るために意外とたくさんの人や団体が関わっていることがよく分かる。行政(環境省や竹富町)による管理、保全団体の専門的な取り組み、島のガイドさんの判断、宿泊施設の努力。いろんな人たちが、それぞれの役割で“自然を減らさない仕組み”を作っているのだ。
仕組みそのものを作るのではなく、島全体の「いい循環」を支え、整える。そんなポジションだ。旅の最初に知っていたら、見えていた景色はもっと違っていたと思う。
まずは、島の自然を体系的に学べる”西表野生生物保護センター”を訪ねよう。
「Us 4 IRIOMOTE」が、島を訪れる際に推しているスポットの一つが「西表野生生物保護センター」だ。2022年の7月にリニューアルし、さらにパワーアップしたこの施設は、環境省や沖縄県によって運営されていて、質・量ともに離島の一施設とは思えない見応えがある。西表島の豊かな生態系や多様な生物の展示や、インタラクティブな体験が魅力だ。
展示のテーマは「豊かな自然が育むいのちの”つながり”と”にぎわい”」で、まず壁一面に描かれた600種以上の生き物に圧倒される。イリオモテヤマネコや固有の動植物、水の循環、海と森のつながり……。展示は“ただの図鑑”ではなく、島というエコシステムがどう連鎖して存在しているかを、視覚的に楽しく学べるようになっている。
イリオモテヤマネコの交通事故が今も西表島の大きな課題だということも、「西表野生生物保護センター」に行けば、すぐに実感できる。島内にタクシーはほとんどなく、バスは一日4本だけ。だからレンタカー移動がメインになるのだけれど、島内の制限速度は40km/hが基本で、集落内(生活道路)ではさらに厳しい30km/hに指定されている場所もある。滅多に出会えない希少種だからといって油断は禁物だ。とくに雨の日や夜間は、餌となる動物の活動が活発になり、イリオモテヤマネコの出現率が上がる。
イリオモテヤマネコなどの野生生物を守る取り組みを学べるスペースでは、中心にその飛び出し方を再現したドライブシミュレーターが据えられている。直線やカーブ、下り坂などさまざまなパターンで飛び出しが再現されていて、なかには、実際の事故データから飛び出し方を再現しているものもあるのだけど、何度か轢いてしまって背筋が冷たくなった。だからこそ、この島でハンドルを握るときは、いつも以上に慎重に。旅の最初に訪れて、心底良かったと思う。
旅のメイン「ガイドツアー」も、自然に優しいカタチを選びたい。
西表島の滝や奥地は、基本的にツアーに参加しないと行けない場所が多い。「ツアーで滝に行くのが当たり前」というならわしは、特定の年に決まったルールじゃない。国立公園としての保護区域の強化、事故防止のための行政ガイドライン、そして地元ガイドたちの自主的な安全ルールなど……。こうした積み重ねから、ツアーには、専門ガイドが必ず同行するという文化が少しずつ根づいたのだ。
アウトドアのアクティビティに慣れた人なら「不便だな」と思うかもしれないが、実際はこうした文化が島を救っている。
マングローブに囲まれた川をカヤックで遡る。水面から見上げるマングローブの森。西表島の自然を体感するアクティビティのなかでも、代表的なのが「ピナイサーラの滝」をめざすカヤック&トレッキングツアーだ。マングローブの川をカヤックで進み、森を歩き、沖縄県下で最大落差55mを誇るこの滝を目指す行程は、観光客にも一番の人気を誇る。
※ヒナイ川(ピナイサーラの滝)は竹富町が定める立入制限フィールド(特定自然観光資源)となっているため、事前に手続きを行って立入承認を受ける必要がある。立ち入る際には基本的に、町の認定を受けた登録引率ガイドの同行が必要だ。
滝までの道は、島ならではの植生も見どころだ。赤いがくをつけるマングローブ「オヒルギ」。地中に根を伸ばす代わりに、板根という板状の根が発達した「サキシマスオウ」は亜熱帯の森でも一際目を引く。
「雨による増水や、地形を理解したガイドの同行」「ルートを必要以上に踏み荒らさない」「野生動物を脅かさない」「ゴミは出さずに戻ってくる」。このすべてが、島の自然を“持続可能な遊び場”にするための不文律だ。
島を訪れた夏、「ピナイサーラの滝」ツアーを案内してくれたのも、「Us 4 IRIOMOTE」プロジェクトに協力する國見祐史さんだ。
世界遺産に登録されたことで、島を取り巻く環境、特に観光産業は大きく変わった。環境に配慮せず、ただ「観光客を楽しませる」だけのツアー会社も増えたらしいけれど、何も知らずにそれを選んでしまうのはスマートじゃない。その点、島で家族との生活を営む國見さんが運営する「オハナアウトフィッターズ」のツアーは信頼できる。
鬱蒼とした森を抜けると、55mの高さから流れ落ちる「ピナイサーラの滝」がついに姿を現した。雨上がりで増した水量の迫力に圧倒され、思わず滝壺に飛び込んだ瞬間、悩みも何もかも、悪いものは全て洗い流された気がした。
西表島の滞在中「ピナイサーラの滝ツアー」の他、「宇多良炭鉱跡」や「クーラの洞窟」を案内してくれた「オハナアウトフィッターズ」の國見祐史さん。
島を守る一つの選択、 ”どこに泊まるか”を大事にする。
島の自然を守るために頑張っているのは、宿泊施設も同じだ。例えば、「西表島ホテル by 星野リゾート」の場合を見てみよう。というのも、世界自然遺産に登録された西表島にふさわしく「日本初のエコツーリズムリゾート」を目指し、徹底した環境配慮の取り組みが行われているからだ。島内ではプラスチックごみのリサイクルや、排水処理は大きな課題の一つ。なかでも、リゾートホテルのような大型施設は環境への影響が大きいため、対策も重要になってくる。
その点、「西表島ホテル by 星野リゾート」ではペットボトル飲料の販売をしない代わりに、給水機を設置し、マイボトルのレンタルサービスも提供している。
排水処理については「洗剤を使わずに洗濯できる“スマートランドリー”」のスペースを館内につくり、客室には「自然への負担を最小限にとどめるオールインワンソープ」のみが配置されていた。つまり、旅行者が“全く無理なく環境負荷を下げられる仕組み”になっているのだ。
それに、西表島が生産地のピーチパインをウェルカムフードとして配布したり、朝食と夕食のビュッフェは島で親しまれている食材を積極的に使っているし、それにホテルのロビーでは、地元の事業者と旅行者が直接関われる機会を設けている。持続可能な観光産業を実現するための、取り組みと”本気度”が見て取れる。まさに、旅行者にも島で生きる人たちにも”Win-Win”なリゾートホテルだ。
「Us 4 IRIOMOTE」を支えるブランド、〈KEEN〉についても知っておこう。
「Us 4 IRIOMOTE」の背景にあるブランドとして、アウトドア・フットウェアブランド〈 KEEN 〉の存在も大きい。じつは「Us 4 IRIOMOTE」は、KEEN JAPANを発起人として2019年にスタートした取り組み。コラボグッズの売上の一部を寄付するなど、今なおサポートし続けているのだ。
実際に、西表島ホテル by 星野リゾートの中にあるお土産・グッズスペースには、長場雄さんのアートワークをあしらったTシャツやサンダルが、〈KEEN〉と「Us 4 IRIOMOTE」がコラボレーションしたチャリティグッズとして販売されている。アイテムとしても可愛いし、「Us 4 IRIOMOTE」が掲げる”思いやりを持って旅をしよう”って気持ちを気軽に身につけられるのもなんか良いよね。
上の写真は、売店の入り口に設置されている「530 ART PROJECT(ゴミゼロアートプロジェクト)」の展示スペース。海岸に流れ着くプラごみを回収して、アートに変えるこのプロジェクトは、グッズもそうだけれど、旅行者が無理なく実践できる“島の未来を守ること”の象徴のように感じられた。
知ってから旅をすると、景色の奥行きが変わる。
90%が亜熱帯の森で覆われた西表島。特に「イダの浜」のある「船浮エリア」周辺は険しい地形になっていて、船でしか行くことができない。小さな島を抜ける航路の景色は美しく、たとえ島内でも、船に乗ることでさらなる旅感を味わえる。白浜港から、船浮港までは有料の定期船で10分ほど。
集落には飲食店や宿が密集し、港には小さな舟が幾つか停泊していて、のどかな港町といった雰囲気。イダの浜へは、港から森に延びる一本道を10分ほど歩くと辿り着く。珊瑚からできた砂浜の美しさと、海水の透明度の高さは西表島随一。人はまばらで、アウトドアチェアに腰掛けて読書をする老人もいる。人の少ない朝なら、まるでプライベートビーチだ。
西表島は、ただ美しい場所じゃない。“守ろうとする人がいるからこそ、美しさを保てている場所”だ。島旅は”自然を消費する行為”にもなりうる。でも、この島には“守りながら楽しむ”ための仕組みがすでにある。その仕組みを理解し、のっかって楽しめばいい。
そして、僕ら旅行者ができることは実はとてもシンプルだ。「島を愛するガイドさんを選ぶ」、「ゴミは持ち帰る」、「生き物が飛び出してくる想定で走る」、「自然に負担をかけない宿に泊まる」こと。これらを心がけるだけでも、島の未来に関わることができる。「知っているだけ」で、”旅先でのスマートな態度”へ変えることができるのだ。
振り返るほど、“あの島はまた行きたくなる”。西表島には「西表島病」という言葉があるらしく、他では決して味わえない自然の魅力に取り憑かれて、気づいたら再訪してしまう人が多いという。
島の美しい景色がこれからも残るかどうかは、少なからず僕らの振る舞いにかかっている。
だからこそ、次に訪れるときはもっとスマートに旅ができたらいい。「Us 4 IRIOMOTE」の活動を知ったあとで思うのは、“西表島には、守りながら楽しめる仕組みがある”ということ。そしてその仕組みを知ったとき、この島への旅はもっと豊かになる。
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