カルチャー

師走の空の下でじっくり噛み締めたい3作。

12月はこんな映画を観ようかな。

2025年12月1日

『海賊のフィアンセ』 
ネリー・カプラン(監)

©1969 Cythère films – Paris

 知る人ぞ知る異端の映画監督、ネリー・カプランが1969年に発表した作品だ。舞台は架空の村テリエ。そのはずれで母と暮らすマリーは、不法滞在者であるがゆえに、他の村人たちからつまはじきにされている。母が亡くなったのを機に、村の男たち相手に売春することを決意したマリーは、稼いだ金でガラクタを買い集め、ほったて小屋のような住居を飾っていく。まるで母の不在を埋め合わせるように……。映画を作ることを通してゼロからオリジナルの政治性を立ち上げてしまう本作は、通り一遍の解釈で立ち向かえば必ず頓挫するハメになるので、戸惑う人も多いかも。なので、ネリー自身が本作に寄せたというコメントを引用しておこう。いわく、本作は「異端審問官たちを火刑にする現代の魔女の物語」なのだ。12月26日より開催される特集上映「ネリーに気をつけろ!ネリー・カプラン レトロスペクティヴ」内で公開。

『THE END(ジ・エンド)』
ジョシュア・オッペンハイマー(監)

©Felix Dickinson courtesy NEON ©courtesy NEON

 ポストアポカリプス的な状況下の地球において、地下シェルターで贅沢に暮らす富裕層一家とその仲間たちのお話だ。しかし、広大な塩抗の中に設られた彼らの家はハリボテめいていて、そこで営まれる装われた普通の暮らしも”家族ごっこ”の感が否めない。時々挿入される古典的ハリウッドミュージカル風のシーンが、そのニセモノ感をさらに強調するだろう。そんな中、1人の若い女性が闖入してきたことで、家族間の数々の嘘が暴かれ、平穏な暮らしは危機に晒される。つまり、家族もまた幻想でしかなのだろうか。だとしたら、ラストで大合唱される”あのナンバー”はどう受け止めればよいのだろうか。それは各々が劇場で鑑賞した上で考えられたし。12月12日より公開。

『ジェイ・ケリー』
ノア・バームバック(監)

 年末の恒例行事となりつつある、バームバック監督作のネトフリ独占配信(とはいえ、数えてみると2、3年に1本のペースだったが)。今年、その主役を務めるのは、ジョージ・クルーニーだ。クルーニー演じるジェイ・ケリーはハリウッドスターである。仕事では何度でもリテイクしつつ演じるキャラクターの人生をよりよい方向へと導ける一方、実人生は当然のごとく繰り返すことができず、それゆえに後悔も多い。そんな彼が、献身的なマネージャーとヨーロッパを巡る旅を通して、これまでの生き方を見つめ直すというヒューマンドラマだ。12月5日よりNetflixにて独占配信。