カルチャー

「まだ7月なのにこんなに暑くて大丈夫?」って不安を鎮めるために観たい3作。

7月はこんな映画を観ようかな。

2025年7月1日

『顔を捨てた男』
アーロン・シンバーグ(監)

©2023 FACES OFF RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 病で顔が変形している役者志望のエドワードは、新しい治療によりごく平均的な容姿を手に入れる。身分を偽り別人として暮らし始めた彼だったが、かつて想いを寄せていた劇作家の女性と再会。彼女が過去の自分を主人公にした舞台劇を製作中だと知り、その役のオーディションを受ける。問題を抱えていると感じている主人公が、医療の力で一旦は解決させるものの、それがまた別の問題を生むという物語は、『サブスタンス』と近い。しかし、『サブスタンス』は「物語で描かれる夢の科学技術(医療も含む)は悲劇を招きがち」というありきたりな発想に陥ったのに対し、『顔を捨てた男』はそこをさも当然のようにスルーし、もっと複雑かつ普遍的な場所を目指している。その点が素晴らしかった。7月11日より公開。

『ユリシーズ』
宇和川輝(監)

©ikoi films 2024

 映画では、ひとつのシーン内での人物たちの画面内での左右関係を混乱させないため、イマジナリーラインというものを設定し、それを越えないようにしましょうという暗黙の了解がある。しかし、本作はそんなラインを涼しい顔で踏み越え、ひとつの空間で別々に親密圏を築いている者たちを自由に撮り、それぞれのショットをさらりと繋げてしまう。キッチンでダンスを踊るカップルと何食わぬ顔の猫、部屋で談話する母子とベランダで洗濯物を干す祖母……。繋げてしまえば繋がってしまうし、繋がってしまえば繋がっているように見えるんだから、繋げますよ、という具合だ。こうした空間把握能力が、本作のキモと言えるかもしれない。“ひとつの空間“は“世界“へと広がり、マドリードと日本で展開されるそれぞれに無関係の3つの物語が、国境を越えて大胆不敵に繋がれる。なるほど、国境とはイマジナリーラインでしかなかったのか。7月19日よりポレポレ東中野、8月よりシネ・ヌーヴォにて公開。

『ストレンジ・ダーリン』
J・T・モルナー(監)

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 死に物狂いで走って逃げる女を、銃を抱えた男が追っている。シリアルキラーによる連続殺人事件が世間を賑わせている中、2人は最近知り合い、モーテルで一夜を明かしたらしい。それ以上のストーリーは知らずに観るのが吉。ただその情報だけだと面白いかどうかの判断もつかないと思うので、一点だけ本作のストロングポイントを。全6章構成なのだが、なぜか3章から幕を開けて、その次は5章に進むっていうのがそれ。タランティーノの『パルプ・フィクション』の時系列リミックスをさらにロジカルに極めたというべきか。しかも、物語は実話を元にしているというのが驚き。7月11日より公開。