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【#3】毎朝ヴィラ九条山のテラスで、二頭の蚕が羽化していないかを観察する。

執筆: セバスチャン・プリュオ(2023年度ヴィラ九条山レジデント、展覧会企画)

2024年2月27日

photo: Sébastien Pluot, Villa Kujoyama
text: Sébastien Pluot
translation: Tsugumi Kozuma
edit: Eri Machida

この蚕は、安曇野の天蚕で知られる養蚕農家の方から譲り受けたものだ。安曇野には、友人で人類学者のニコラ・セザール氏の紹介で3日間滞在させてもらった。ニコラとは7月、ヴィラ九条山が一般公開されている第一木曜日に初めて出会った。私の日本到着初日のことであった。レジデンスのリズムを奏でているのが、このとてもラフでフレンドリーな集いだ。一般公開は、レジデントが自身の作品や研究を発表する場でもあり、異分野の情熱溢れる人たちと交流する場でもある。

ヴィラ九条山
天蚕の繭玉、戸田蓉子、ローラン・グラッソ、ルカ・クラナッシュによる作品、 99年前のガラス球、 大阪の骨董屋で見つけた太平洋を50年間彷徨っていた野球ボール。

ヴィラでの滞在歴が長いレジデントからアドバイスをもらうこともできるし、新しいレジデントが到着すれば、自分が歓迎する立場となる。真面目さと面白さが同等に存在する雰囲気の中にあるのは、レジデントの間に一瞬で生まれる連帯感とその連鎖だ。偶然の出会いから何も生まれなかったとしても、京都のみならず、日本中にいる刺激的な人たちとレジデントを繋げてくれるのが、ヴィラ九条山の素晴らしいチームの小寺雅子氏、アデル・フレモル氏、カミーユ・レ氏、そして大里エリザ氏である。彼女たちは、建築家、職人、料理人、哲学者、アーティスト、デザイナー、公共機関や団体の責任者など、レジデントのプロジェクトに最適な人材を熟知している。

ヴィラ九条山レジデント

私のプロジェクトの研究テーマは、日本の伝統文化における偶然性の美学である。日本の職人には、不測の事態を受け入れ、物事との折り合いをつけ、モノの経年変化を嗜み、災難を制約ではなくプラスなものとして捉え、そこから立ち上がるという特有の流儀が存在する。この美学は、金継ぎやボロの中に息づいているだけでなく、数え切れないほどの習慣や日々の生活に溶け込んでいるのだと気が付かされる。相利共生の関係性を紡ぎ直し、環境保護と気候をめぐる問題に取り組むために、巡り合いという真の価値観から学ぶことは多い。

ヴィラ九条山

私のアトリエでは、骨董市で買い集めた数々のオブジェ、本州のほぼ全ての地方を巡り、民藝運動の継承者やレストランオーナーから買い求めた陶磁器(もちろん料理も堪能させてもらった)、体験ワークショップを体験させてもらった職人が手造りした漆工芸品などの収集・展示を行った。また、アーティストから指導を受けた作品を自ら制作することができるアトリエでは、来月開催予定である展覧会のバンケット用の陶磁器を制作中だ。ヴィラ九条山に滞在した誰もが、日本に再び戻り、ここでの経験を共有したいと願わずにはいられない。

プロフィール

セバスチャン・プリュオ

セバスチャン・プリュオ

美術史家、研究者にしてインディペンデント・キュレーター。また、国立高等美術デザイン学院TALM(ESAD TALM)とパリ・セルジー国立高等美術学院(ENSAPC)の共同プログラム《Art by Translation》の共同ディレクターも務める。アリソン・ノウルズ、メル・ボックナーやクリストファー・ダルカンジェロの作品を巡る数多くの展覧会やシンポジウムの企画に携わったほか、「Art by Telephone – Recalled」「Time Capsules 2045」「The Intolerable Straight Line」「Dernières nouvelles de l’Ether/エーテルの最新ニュース」「Une lettre arrive toujours à destinations/1通の手紙はいつも複数の宛先に届く」「Double Bind」「Arrêtez d’essayer de me comprendre/私を理解しようとするのはやめてください」などグループ展のキュレーターも務めてきた。

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インフォメーション

ヴィラ九条山

ヴィラ九条山

フランスのヨーロッパ・外務省の文化機関で、アンスティチュ・フランセの支部の一つとして活動し、主要メセナのベタンクールシュエーラー財団とアンスティチュ・フランセパリ本部の支援を受けて運営している。アーティスト・イン・レジデンス施設として、1992年以来、400名以上の芸術家や職人を迎えており、日仏間の現代創作と芸術交流の先駆けとなる場所。毎月第一木曜日に一般公開を行っている。

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