カルチャー

【#1】ヴィラ九条山に暮らし始めてから2か月が経とうとする今

執筆: エマニュエル・ルベン(2024年度ヴィラ九条山レジデント、文学)

2024年2月13日

komorebi

ヴィラ九条山に暮らし始めてから2か月が経とうとする今、ようやく自分に合った生活リズムが掴めてきた気がする。もちろん悟りを開くには、まだまだ修行が足りていないのだが。

自分らしいリズムとは、歩調を緩めることを学ぶこと。冬の知らせと落ち葉の雨に、あくせくと心を煩わして過ごすのをやめること。光り輝く瞬間を見過ごすことを恐れないこと。来るものを拒まないということ。チェーホフの作品のように雪の宿りを眺めること。絶景と言われる紅葉を拝みたいがために数百キロを移動して紅葉狩りに行くことをやめること。逆に、家に籠ってみるということ。クスノキの上に舞う雪の小片の目まぐるしい移り変わりと、ヴィラ九条山の亜鉛メッキのドームに心を奪われるということ。ドームの反対側にある6メートルもある大きなガラス窓に、午後1時から2時という一瞬しか差さない陽の光。そこで、木の葉の間から透ける太陽の光である「木漏れ日」(一言では訳すことのできない日本語の一つ)を眺めること。コンクリート打ちっぱなしの壁に映ったその木漏れ日が、星を散りばめた影のシネマとなり、踊り出すということ。日本で暮らすということ。それは、単なるルーティンをいち儀式にしてしまうこと。このような儀式的なルーティンによって一日が始まる。決して急かされることなく習慣化された行動を取ることで、その真の価値が推し量られる。今という一瞬にピタリと心を合わせ、その瞬間を鋭敏に感じ取る。ただ静寂を貫こうとする世界に身を委ねる。あらゆる悲しき情念を捨て去る。暖房をつける。抹茶を点てる。ヨガマットを広げて20分間ヨガに励む。シャワーを浴びる。ラジオに耳を傾けながら朝食を食べる。パソコンを前に、2か月にも及ぶ試行錯誤の末たどり着いたベストポジションに腰を下ろす。その間に炊飯器でお米を炊いておく。読書後に昼寝をする。本当はデッサンか書道をするのに向いているであろうちゃぶ台を前に、正座かあぐらをかきながら仕事に戻る。椅子に座って、キーボードを叩きながらこのエッセイを書き進める。昨晩の残り物で作るうどんのための出汁を取る。是枝作品を見ながら夕飯を頬張る。積読本に手をつける。斯くして、家から一歩も出なくても一日は終わりを告げるのだと知る。

プロフィール

エマニュエル・ルベン

エマニュエル・ルベン

1980年リヨン生まれ。フランスの高等師範学校出身、地理学の博士、そして、国立東洋言語文化学院の卒業生。ヨーロッパの境界について探求しする小説、物語、エッセイ、短編小説を含む約10冊の著者で多数の賞を受賞。

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インフォメーション

ヴィラ九条山

ヴィラ九条山

フランスのヨーロッパ・外務省の文化機関で、アンスティチュ・フランセの支部の一つとして活動し、主要メセナのベタンクールシュエーラー財団とアンスティチュ・フランセパリ本部の支援を受けて運営している。アーティスト・イン・レジデンス施設として、1992年以来、400名以上の芸術家や職人を迎えており、日仏間の現代創作と芸術交流の先駆けとなる場所。毎月第一木曜日に一般公開を行っている。

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