カルチャー

気になるニューオープン。診療所をそのまま使った実験的ギャラリーへ。

八王子『準備中クリニック』

2023年12月9日

photo: Koh Akazawa
text: Eri Machida
edit: Toromatsu

準備中クリニック

 JR八王子駅から徒歩2分のところに朝まで営業しているカラオケ店や『アニメイト』が入った雑居ビルがある。建物の4階は2年前に閉院した『金子内科クリニック』で、そこへ向かうと密かに構えられたギャラリー『準備中クリニック』に辿り着いた。学芸大学にあるギャラリー『準備中』の第二のスペースとして今年9月にオープンし、名前通り診療所をそのまま使っている。

松上剛さんの油彩画。
松上剛さんの油彩画。キャラクターや食べ物など身近なモチーフを多く描く。
Eunice Lukのセラミック彫刻「Tamago」
トロントを拠点とするEunice Lukのセラミックでできた彫刻「Tamago」。普段は5階の孫田クリニック内に飾られている。
CIANSUMI バービー人形
ニットブランドCIANSUMIと並行して、各国の子どもたちが遊び終えた人形のための洋服を編んでいる中村須彌子さんによる作品。窓の外に見える“ある建物”を意識しているので、実際に足を運ぶ方は意図を考えてみてほしい。答え合わせもお忘れなく。
小田原亜梨沙さん
丁寧に説明してくれる小田原さん。展示作品はもちろん、周辺のおすすめスポットも教えてくれた。

 運営するのは自身もアーティストである小田原亜梨沙さん。ここはあくまで表現の場で、「すべて非売品くらいの場所でありたいです」と話す。展示のために求められて制作された作品は売れ残ると出番がなく、出しどころが意外に少ない、といった作り手が感じているモヤモヤの解消を目指している。『準備中』オープン時には売れなかった作品だけを集めた企画展を行った経験もあるそうで、より良い解決策を見つけることが小田原さんにとってのライフワークになっていた。

小田原亜梨沙「Shibuya」
渋谷のシンボルのロゴが入っている陶器は小田原さんの作品。
大きな窓から見える景色。
大きな窓から見える景色は天候や時間帯によって表情がコロコロ変わる。
アタリ Eunice Luk「Snail」
夜になると『東横INN』の文字が光る。人工的なブルーの光が入ったギャラリーはまた別の顔に。

 学芸大学の『準備中』はオープンから6年が経ち、今や数ヶ月先まで展示のスケジュールが埋まる場所となったけれど、「自分の部屋のようにしたい」という想いはずっと変わらない。都心から離れ、看板もなく、知る人しか行き着くことができない『準備中クリニック』は、小田原さんが好きなように配置を変え、家にあった作品を足すこともできるから、さらに私的で自由自在。世界でも類を見ないであろうクリニックそのままのギャラリーが次はどんな顔を見せてくれるのか、遠くても足を運びたくなる唯一無二の異空間だ。

インフォメーション

準備中クリニック入口

準備中クリニック

2023年9月にオープン。基本的に土日のみ開けていて、開催中の「準備中6周年記念展」は12月29日まで。国内外から13名のアーティストが参加している。クリニックは現在も上の階にある病院のカルテや白衣の保管部屋として使われているため、取材中も何度か看護師さんが出入りしていた。

◯東京都八王子市旭町6-6 ピオスビル4F 13:00〜17:00 月〜金休

Instagram
https://www.instagram.com/junbicyu_clinic

Official Website
https://www.junbicyu.com/