トリップ
【#4】One day in AMAMI
執筆: しまおまほ
2023年9月30日
マヤは21年前の8月、52歳で亡くなった。マヤとは、父の妹。わたしの叔母。小児麻痺と言語障害があった。晩年、奄美大島で祖母とマヤが住んでいた家は今もそのままで、家族で奄美へ行く時の滞在場所になっている。広いベランダ、書庫、浴室は2つもある。二人暮らしには広すぎた家で、彼女たちは寝起きも食事もテレビもすべて一部屋で済ませていた。なぜなら、他のスペースは全て段ボールと物で埋め尽くされていたのだ。とことん捨てられない家だったのだ。1970年代に贈られたウィスキー、完全に干からびたお歳暮の味噌漬け、飼っていたインコの剥製は数匹分。本当にすごかった。マヤが他界した5年後に祖母が亡くなり、それまで手をつける事が御法度だったその屋敷の大掃除が数年に渡って行われた。
そして、最後に残ったのがマヤの部屋だ。ずっと物置状態で、部屋として機能したことはないのだけれど。少女漫画と西城秀樹、そしてジャッキー・チェンを愛するマヤは、祖母の血をしっかり受け継ぎそれらのコレクションを捨てる事なく部屋に溜め込んでいた。天井まで届くクリアボックスの中身はファンシーグッズの山。なんとなく父もわたしたちもそれらに手をつけることを後回しにしていたけれど、いよいよどうにかせねば、という家族会議で夏の終わり、8歳の息子が合宿で留守の間に両親と3人で片付けに行くことにした。
しかし、わたしも根っからの片付けられない、捨てられない人間だ。10畳ほどの部屋いっぱいの荷物を捌くことなんてできるはずがない。ただ、楽しくマヤの好きだったあれやこれやを眺めていただけだった。奄美の2泊3日はほとんど外にも出ず、荷物を右から左に移しただけで終わった。
「片付ける」って何だろう。物を捨てられること? 物への執着がなくなること? どうして片付けるの? 自分がいなくなった時に誰にも迷惑をかけないため? 本当はいつまでも取っておきたいのに。後に残された人のことなんて構わず、洋服もコップも人形もシールも、マヤの物、自分の思い出も全部とっておきたいのに。時が止まっていたマヤの部屋で、切り抜きのジャッキー・チェンたちはこちらを見ていつまでも微笑んでいた。
プロフィール
しまおまほ
しまお・まほ | 漫画家、エッセイスト。1978年、東京生まれ。多摩美術大学在学中の1997年にマンガ『女子高生ゴリコ』でデビュー。主な著書に『しまおまほのひとりオリーブ調査隊』『まほちゃんの家』『スーベニア』『家族って』などがある。最新刊は『しまおまほのおしえてコドモNOW!』。POPEYE本誌では「しまおまほのセクよろ2」を連載中。
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