フード

【#4】キレイめOLのランチと老いぼれ犬

執筆: 伊藤ガビン

2023年2月10日

いままで3回に渡って、のりしお、のりしお、カップヌードル、と言ってみりゃジャンクな食べ物の話を続けてきてしまったわけですが、実はジャンクフードにさほど思い入れがあるわけではないという……。
加えて言えば、いわゆるB級グルメと呼ばれるものにも苦手意識がある。レトロな店で出てくる懐かしい洋食の類いも、口に入れれば満面の笑みうまいうまい言うくせに、「好き」と声に出すことは難しい。

では、何が好きなのかと問われたら「サラダランチ」みたいなやつなんですよ。ええ。
なんなら「ケールサラダ ピーナツオイル添え」「キヌアのタブーリサラダランチ」みたいなやつが好きなわけです。「オーガニック京野菜プレート」とか、「ヴィーガンズ・グリルベジタブルサラダランチ」みたいなものが大好物。ちょっと前ならメニューに「レディースランチ」って書かれていたようなものたち。
レディースランチ好きのおっさん。どうなんだこれは。
通称「老いぼれ犬の目やに」と呼ばれるヨレヨレ度のおっさんでありながら、キレイめ女子のために作られたようなメニューが好き。
いや、特にそれを頼む恥ずかしさはない。いい年なんで、恥ずかしいという感情自体に霧がかかりがち。だからわりと平気で頼んでおります。
でもね。複数人でファミレスに行ってサラダランチ的なものを注文するじゃないですか。でも私の前にサーブされた経験がない。他の人が頼んだ「こってりチーズハンバーグ」をナチュラルに私の前に置かれる日々でございます。これは俺が悪いのか、サーブする人が悪いのか、世間が悪いのか、政治が悪いのか。

サラダ

それはそれとして、今回この原稿を書くにあたって、なぜ自分はレディースランチみたいなものが好きなのか? ということに向き合ってみたんです。座禅を組み、思念を宇宙に飛ばして無になってみたんですね。なぜだ。なぜだ。なぜなのだ……
自分の中の女子的部分を最大限に拡大して解釈してみたりしたですが、どうもそういうわけではない……ではなんのだ……
あ!
あ?
あーーー!
と急に浮かんだそのワード。
それは「苦味」。
苦味だー!

私が世界で一番好きな料理は「大根の葉っぱをごま油で炒めたヤツ」なんですが、これ長年ね、「本来捨てられるべきところを食べて始末する素晴らしい俺」と見られたい欲が自分にあるのか? なんて思っていたんだけど、そうじゃなかった。
この料理は、苦い。
そうだ、苦さだ。
ケールも苦いし、そもそも葉っぱにはどれもこれも苦味がある。
そうなんです、私が欲していたのは苦味。
いやー、そうだったのか、苦味を欲してたんだな、ということが、原稿書いてて初めてわかりました。ありがとうPOPEYE!
苦味さいこー。

プロフィール

伊藤ガビン

いとう・がびん|1963年生まれ。編集者。映像にフォーカスしたメディア「NEWRELL」の編集長を務める。書籍、web企画の他、ゲーム「パラッパラッパー」などの制作も手がける。

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