TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム
【#2】「ファッションが好き」というのはなぜか言えない
執筆:Dumb Store
2026年6月19日
“「ファッションに興味がある」ことを公言することに対して「恥ずかしい」や「キツい」と話していたのに妙に共感し、面白いと思ったのですが、それはなぜなのかもう少し具体的に聞きたいです。”
これは僕らのポッドキャスト”ファッションを東大する”第0回を聞いた編集者さんからいただいたメールの一節だ。
一緒に想像してみてほしい。
「ファッションが好き」だと言ったとする。
あなたは相手に何を着ているのか見られ、聞かれるだろう。
大抵の人は褒めてくれる。
しかし問題はそこではない。
普通に恥ずかしい。
自分で自分が何を着ているか解説したくない。どこで見つけて何をオシャレだと思っていくらで買ったかなんて言いたくない。
見られているという不安。
こだわっているとも思われたくないし、こだわっていないとも思われたくない。
これは自分だけの問題だと思っていた。
しかしそうではないことが、コラムのご依頼でわかった。
これは服を着る全ての人にとって大切なことが潜んでいると直感的に思った。
ファッションという言葉は一人では成立しない。
それは着る人がいれば見る人がいるからだ。
「ファッションが好き」という人は別の「ファッションが好き」な人と比べられてしまう。
そして人が集まる場所には必ず権力が発生する。
服の場合、抜群のセンスや果てしない経済力、無限の知識が権力の後ろ盾となる。
見ず知らずの他人と勝手に比べられてしまうのは誰でも嫌だ。
人が「ファッションが好き」と堂々と言えないのは、ファッションという権力から自由になりたいからではないかと思う。
しかし、大切な前提を忘れてはならない。
服は生きるために着るものである。
毎朝選び、一人でいる時間も体を包んでいる。
ずっと一緒に過ごすものなのだから自分が自分でいられるものを着るのが良い。
運動が好きな人なら体を動かしやすい服、派手な色が好きな人なら鮮やかな服を探す。
「何か違うな」という感覚をとても大切にしなければならない。
それがあなたのセンスである。
その日は納得する服が着られないかもしれないが必ずいつか納得する服に出会うことができる。
僕はそんな人のお手伝いがしたいと思って古着屋をしている。
僕は「ファッション」という言葉を大切にすることは人生を豊かにすることとつながっていると思う。
文・福井磨亜怜
「ファッション」という言葉はとてもネガティブな響きを持っている。「ファッション」は「ガチ」の反対語で、「ファッションメンヘラ」や「ファッション左翼」みたいに、「みせかけだけの」という意味にもなる。「オシャレ」も同じで、「オシャレなカフェ」や「オシャレな照明」というのは、文脈や言い方によっては「ダサい」に近い。
時代の空気に流され、表層的で、本質的ではない「ファッション」。そういうネガティブな意味への傾きがあるから、「ファッションが好き」と言うことに恥ずかしさを覚える。変わり続ける流行や周りからの目を気にせず、静かに本質的なものを求める自分でいたい。欲望から離れた人間でありたい、というもっともピュアな欲望が顔を出してしまうのだ。
こうした恥じらいを抱かせてしまうことも、ファッションの魅力だろう。自分ってどんな人間なんだろう、自分はどんな人間に見られたいのだろう。そんなことをふと考えてしまうと、ファッションが好きでも、好きだとは言えない。だから、ファッションを純粋に素敵なものだと感じている服好きの人から、「ファッション好きなんです」とか言われると、それこそ気恥ずかしくなってしまうのだ。そんな言葉を無邪気に口にできる人を、どこかで少し単純だと思っているのかもしれない。そう思ってしまうのも、単に年齢を重ねたせいなのかもしれないけれど。
文・桑田光平
プロフィール
福井磨亜怜
ふくいまあれ|2004年生まれ。東京大学在学中。2025年「東大をオシャレにする」というコンセプトのもと古着屋Dumb Storeをオンラインでスタート。これまでに2回のポップアップを開催している。桑田光平教授とのPodcast”ファッションを東大する”は毎週金曜日配信中。
instagram
https://www.instagram.com/dumbstore_tokyo/
podcast
https://open.spotify.com/show/4khnhqdmn5bR1qmQRCYEgk?si=16857fc19c204da3
桑田光平
くわだこうへい|1974年生まれ。東京大学教授。パリ・ソルボンヌ大学大学院博士課程修了。フランス語圏の近現代文芸が専門。教育や建築文化に関する官民との共同研究にも従事。文化庁・建築文化フェロー。興味のおもむくまま研究しながら、ヒトやモノとの出会いに巻き込まれ、身を任せながら漂流する日々。2025年4月からPARTNERS STUDIOにエディター/アドバイザーとしてジョイン
Official Website
https://www.partners.studio
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