TOWN TALK / 1か月限定の週1寄稿コラム

【#2】朝日のようにさわやかに───『季刊サブ』6号のこと。

執筆:植田浩平

2026年6月18日

 1973年7月20日に刊行された『季刊 サブ』6号の特集は「朝日のようにさわやかに」。Modern Jazz Quartetによる演奏で知られるスタンダードの曲名で、表紙には「WEST COAST ’73」と大きく印字されている。雑誌にはそぐわないA3版。手に取る人はまずこの判型に驚くだろう。書いている自分自身、青山にあった『オヨヨ書林』で見つけて、パラパラとページをめくってみたものの、あまりの大きさに慄き、買わずに帰ってきてしまった。値段は3000円ほど。今からすると破格だったのだが、買うだけの胆力を持ち合わせていなかった(やっぱり、ピンときたら買っとくべきなのだ!)。

 その号をインターネットで見つけたのは先月の終わり。8800円。安くはないが高くもない。1万円以上つけている店も珍しくない昨今、良心的といっていいかもしれない。今なら買える。ちょうどよく入金もあったし、先月はいろいろと頑張ったじゃないか! 大丈夫! そう自分を焚きつけ、カートに入れて購入確定。その足ですぐ郵便局から口座に振り込む。理由もなにも後付けの、爽快な衝動買いだった。

 数日経って、手元に届いた雑誌をじっくりとめくっていくうち、頭がキーンと冷やされる。ページから音が聴こえない。特集はジャズの曲名だし、吉田大朋/浅井慎平/鋤田正義の写真には楽器を持つ人、レコードジャケットなんかも入っているのだけど、不気味なほどに静かなのだ。かまやつひろし/南里文雄へのインタビュー、谷川俊太郎/諏訪優の詩はあっても、声は小さく、よく耳を傾けなければ言葉が耳に届かない。

「何かさわやかなことをやろうというのが、今回の意図なんです」*と語るのは編集長の小島素治。この人の狙いは何だろう? 賑々しく広告が溢れる雑誌へのアンチテーゼか。テレビやなんかが伝える悲惨なニュース、先行きの見えない世界情勢(1973年はヴェトナム戦争、オイルショックの真っ只中)へのリアクションか。思いをめぐらせても明確な解は得られない。

 ページをめくり、考えているうちにもしや……と閃く。ここで求めるのは理由じゃない。対立を産む思想や言葉でもない。大判の雑誌が内包し、かもし出す空気に触れていればいいんじゃないか。編集長・小島素治が欲し、読者にも提供したかったのは、ウエストコーストの風なのだ。株主や広告主、上司がいる会社ではなく『サブ』は個人の出版物として世に出されるわけだから、しがらみからは自由でいい。 風通しが良くなければ意味がない、そう念じて編まれた号なのだと瞬間的に理解した。

 勝手な解釈なのは承知している。でも、読者に風を送るために作られた雑誌があったとしたら、なんとも愉快で気分が良くなるのは自分だけだろうか。1973年の静かな試みにそっと拍手を送りたい。

*「Baby,Won’t You Please Come Home?」(南里文雄との対話)

プロフィール

植田浩平

うえだ・こうへい|1983年、千葉県生まれ。’91年に茨城県つくば市に引っ越し、中学から高校時代を送る。大学入学とともに転出するも卒業後にUターン。CDショップ勤務やイベント制作補助などのアルバイトを経て2013年4月、筑波大学に隣接する天久保地区に『PEOPLE BOOKSTORE』を開店。今に至るまで営業を続けている。

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