カルチャー
写真家の「腕」
Catching Art: 身体でアートを感じるために #7
2026年2月12日
前回、絵画を言及しながら作家の「手」について話していました。そこで、「美術館やギャラリーにとって、作家の『手』が現れると分類しやすい」と言いました。今回は同じような方向性で写真について取り上げたいです。つまり写真家の「手」はどうやって見出せるのか?
この質問を答えるため、児玉房子という写真家の作品を例にします。まずはこの1971年に、東京の新宿で撮影された写真を見てみましょう。(ちなみに、児玉は最近フランスの出版社から『1960-1980』という写真集を出しました。)
この写真はいわゆる「ストリートスナップ」です。つまり、写真家が街(ストリート)に出て、その動揺しているありさまの中に、一瞬しか存在しない光景を早いシャッタースピードによって獲得(スナップ)しました。この生の光景を想像してみてください。1秒後か2秒後でも全ては消えるかもしれません。例えば、右側に立ち止まっている男性はこの場所から去ることもあるし、それか新聞を読んでいる人は急に読み終わって、街の流れに合流することもあります。
ただ、それでも児玉がこの絶妙なシーンを獲得しました。写真の横幅を見ますと、ほとんど完璧に三分割されています:右に街の外、中にガラス、左には新聞を読んでいる人と深い黒さがあります。その左側をさらに見ると、完全に黒い平面のに対して、右上から差し込む光がその新聞の上の部分を照らして、強いコントラストを作ります。そしてその男性の視線は左下に向いているのに対して、右側に立ち止まっている男性の視線は右上に向かっています。背景にある映画ポスターの俳優の視線は、我々みる側に向かっているようです。一瞬の「スナップ」ですが、多重の眼差しもあります。
この画像の中の要素の配置を構図といいます。例えば新聞を読む男性の姿は真ん中にあるガラスに反射されて、二人の人物を繋ぐような効果をもたらします。しかし、この構図は意図的でしょうか?私にとってこの写真はちょっとでも奇跡的だと感じるのですが、ここで児玉の「手」は見えるでしょうか? 前回はジェンティレスキの爪の光っている部分でも確実に彼女が描いたものだと主張したが、写真の場合はどうでしょう。答えるのが難しいからこそ、写真は美術にとって難解な存在です。どこまで写真家は意図的に撮ったかは分からないです。写真家本人に聞いても、分からない場合もあります!
さて、もう一枚児玉の写真を見ましょう。これも、1971年に撮影された写真です。場所は東京の新宿三丁目です。
結局のところ、写真家の「腕」、つまり写真家の「技」はどこに宿るのでしょう?
写真の場合は忘れてはいけないことがあります。それは、写真を撮ると、物理的にカメラの後ろに身体を置かなければならないことです。もちろん、厳密に言うとカメラのない写真は150年以上前から作られていますし、ロボットやAIが作っている「写真家のいない」写真も十分存在しています。それにもかかわらず、(まだまだ?)写真家はいます。写真家がいると、必ず体も場所に寄せなくてはならないのです。この児玉の写真を見ると、ある1971年の路地の光景が見えるのですが、同時に児玉自身の影によって、彼女の存在もはっきりと伺える。写真は今でも、150年前も、様々な技法がありますが、その前に、非常に身体的な要素があると思います。写真家の「腕」はもしかして世界の中に身体の位置付け方にあるのではないでしょうか。そう考えると、写真は身体的な美術になってくるのです。
プロフィール
ダニエル・アビー
1984年生まれ。アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。美術史博士(UCLA)。2009年から日本の美術や写真にまつわる執筆・編集・翻訳に携わる。現在、大阪芸術大学 芸術学部 文芸学科の非常勤講師として美術史・写真史を教えている。
https://mcvmcv.net/
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