カルチャー
Maya Ongakuの全編16mmMVはどのようにしてできたのだろうか。
2026年1月29日
『POPEYE』本誌にも度々登場していただいているバンド、マヤオンガクが、昨年秋にニューシングル『Maybe Phychic』を発売した。少し時が経った今年2026年1月11日に、その曲のMVが配信されたのだが、メンバー3人がスプーン曲げをしていたり、太極拳をしていたりと、70年代に流行ったものが詰まっていて面白い。というかこれ、全編16mmフィルムだよね? MVを観ていると、どうやってこれができたのだろうと気になることがちょくちょくあるけど、関係性もある彼らになら気軽に疑問を投げてみてもいいだろう。そんなわけでPOPEYE Webの一か月限定コラム「TOWN TALK」にも寄稿していただいた馴染みの一人、メンバーの園田努さんにMV製作の話を聞いてみました。
――マヤオンガクはライブも見に行ってるし、レコードも聴いてるし、そこそこ免疫があるほうでしたが、新曲『Maybe Psychic』のMVは映像も構成も70年代の特撮を観ているようでマジやられました。せっかく監督も交えて話してくれるので、ふたりの軽い自己紹介だけいいですか?
園田努(以下、園田) それはどうもありがとうございます。マヤオンガクの園田努(そのだつとむ)です。今回のMVでは初出演でした。監督のイツキくんは地元の後輩なんですよね。
吉澤一輝(以下、吉澤) ありがたいお言葉です。映像監督の吉澤一輝(よしざわいつき)と申します。大学在学時に独学で監督を始め、普段は広告やMVをメインに活動しています。マヤオンガクは地元湘南の先輩で、高校三年生の時に彼らの主催していたイベントに遊びに行った時に初めて出会いました。そこから仲良くなり、デビュー当時からMVやアー写、ライブ撮影を担当しております。
――そっか、確かに園田さんをMVで観たのは今回が初めてですね。まず曲から先にできた感じだと思うんだけど、そもそも『Maybe Psychic』という曲ができた経緯を聞かせてもらえますか?
園田 バンド3人でやっているポッドキャスト番組『まやかしポッドキャスト』でオカルト話や都市伝説をリスナーから集めてる中で、子どもの頃に不思議な力を持っていたとか、そういった投稿が多かったんです。自分自身にもそういう経験があったり。それについて考えているうちに「Maybe Psychic」っていう言葉が浮かんできて、それをキーワードに曲を作っていったんです。人間は子どもの頃、社会に触れる前はみんな超能力者で、時間が経つと能力は消え、そのことすら忘れてしまっているんじゃないかなんて考えながら。
――そのエピソードを聞いて改めて歌詞を読むと、よく理解できました。EPは絵本付きでしたが、その考えを音楽と歌詞、絵本だけでなく、映像でも表現したかったというわけですね。
『Maybe Phychic』のレコードと歌詞カードと、特典絵本(インタビュアー私物)
園田 『Maybe Psychic』って言うコンセプトをかなり気に入ってしまって、7インチシングルの特典に絵本をつけたり、たくさん広げてみようって思っていました。でも、最初はたしか映像化の予定はなかったんじゃなかったっけ?
吉澤 曲のデモが完成したのが7月あたりだったと思いますが、その時点では、絵本を作る予定があるし、コンセプトがかなりはっきりしてるので映像化は難しいかもしれないという話でした。でも、作れるならMVも作りたいというのがバンドのみんなの意見だったので、デモを送ってもらい、一度企画書を起こしてみて、少しずつ映像の方向性を定めていきました。
――方向性というと?
吉澤 最初は僕の中ではユリ・ゲラーのイメージがあって、ツトムくんの中ではMVに子供を出演させるというイメージがありましたね。そこから僕の中で「太極拳」のイメージが浮かび、その3つの軸を少しずつ中和していって、子供ではなく「青年時代」と「現在」の二つの時間軸のキャラクターが出てくるプロットに変化させていきました。
――最近、70年代の雑誌『宝島』で“太極拳は動く瞑想と言われている”というのを読みました。スプーン曲げのユリ・ゲラーといい、全編16mmといい、70年代好きのマヤオンガクらしさ溢れるアプローチですね。西六郷タイヤ公園と思しき場所が出てきましたが、やっぱりロケ地にもかなりこだわったんですか?
吉澤 西六郷タイヤ公園は、JR東海道線で湘南から東京方面に向かういつもの電車の車窓から見えるんです。それでいつかMVで使おうと考えていました。それ以外では、実はロケーションに対するこだわりはあまりないんです。というのも、今回のMVはショット数がかなり多かったのですが、使えるフィルムが3本だけで、手際よく撮影を進める必要がありましたから。映像内の日本家屋と竹藪と畑、砂浜のロケーションは全て10分以内で移動できる距離感です。割と現実的な理由でロケーションは決めていきました。
園田 僕たちのMV撮影はいつも、予算も時間もないから、イツキ大変そうだよね。笑
吉澤 いつも友達の家で撮影したり、知り合いに出演してもらったり、工夫しながらDIYで撮影してるね。今回も予算は全て16mm filmに突っ込んだので他では殆どお金は使ってないです。笑
――全編16mmってだけでお金も労力もかかりますからね。前回の『Iyo no Hito』もそうですが、毎回MVをショートストーリーにするというこだわりがあるんですか?
園田 そもそも僕がちょっと不気味な短編小説みたいなものが好きっていうのがありますね。例えば大江健三郎の『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』(1969)とかは、映像作品を作る上で参考にしたり。大友克洋の『ショート・ピース』『ハイウェイスター』(1979)とかもかな。イツキも映画を撮りたい人だから、そういうものを一緒に作りやすいってのもあります。門外漢の僕でもどんどん意見を言い合える関係性だから、それもいいのかも。
――読んでみたい! 不気味なの、好きですよね。余談ですけど過去に園田さんのInstagramに、島田瑠里(ピアノ)小杉武久(ヴァイオリン)による『記憶の海』というレコードが投稿されていて、アイランドなジャケットだから興味が湧いて聴いてみたことがあったんです。イメージとまったく違ってびっくりするほど不気味だった!笑 16mmで撮ったのはなぜ?
吉澤 不思議な出会いがあったんです。最初は、デジタルカメラでショートストーリーの映像にするか、もしくは8mmフイルムを使って、太極拳だけに絞った映像を作るかの2択で考えてたんです。その内容で最初の企画書を完成させて、バンドとMTGを組んだのですが、僕らのMTGの前日に、LAで活動しているヴィータという映像プロデューサーからバンドに連絡があり、「仕事で日本に行くんだけど、あなたたちの音楽が好きだから、是非MVを撮りたいです。カメラマンも同行していて、彼は16mmフィルムも使えます」という内容だったんです。これは面白いと思い、彼らと組んで16mmフィルムで映像を作ることにしました。それが今回カメラマンであり、共同監督にクレジットされているニックなんです。
photo: Tsutomu Sonoda
――どおりでちょっと海外から見た古い日本感がある気がしてました。ニックやヴィータと組むことになり、やれることが広がっていったって感じですか?
園田 今までは友達だけで、本当に小さいチームでやってたから、広がりを感じたなぁ。海外の人の感性が入ってるからか、日本以外の人からの反応もすごくいい感じだよね。
吉澤 ニックと組むことが決まってから、「太極拳」というある種、海外的なモチーフをもっと日本的な映像に変えていきました。僕はストーリーを考えて、それをコンテとして各カットのビジュアルイメージを決めていく作業をメインで担い、映像の色感やルックに関してはニックに任せた感じがあります。
――ユリゲラーや、太極拳というと70年代に加速したムーブメントですが、そういうイメージの共有はLAの人とも簡単にできましたか?
吉澤 ニックは当初から、黒澤明の『夢』そして、石井克人の『茶の味』がイメージにあったようです。僕の方では、太極拳の感じはタランティーノの『Kill Bill vol.2』、街のイメージは庵野秀明の『Love & Pop』や行定 勲の『GO』がありました。ニックとヴィータに撮影前に北野武の『ソナチネ』を観てもらいました。とにかくあまり日本の文化を知らない彼らと一緒に、日本の原風景のような映像を撮ったら面白いのではないかという意識があったので、それで、日本人が撮るのとはまた違った質感を生み出せているのかもしれません。
――それらの世界観を5分に集約する、というのを考えると改めてMVというものの面白さに気付かされました。幽霊、怪獣、宇宙人という3つの“原風景”を際立たせたりしていましたが、今回のMVの構成を教えていただきたいです。
構成は、「好きなものを純粋に好きでいれた青年時代」と「現実を見なければいけなくなった大人になった現在」の時間軸で分けていて、3人のキャラクターにはそれぞれ、「小さい頃は純粋な気持ちで信じていられるけれど、大人になったら信じていたら社会的に恥ずかしいと感じるモノ」を持たせたいなと思いました。僕の少年時代を思い出した時に、それが幽霊、怪獣、宇宙人の3つで、映像として表現するためにそれぞれの「フィギュア」を使ったんです。最終的にはハッピーエンドにしたかったので、「青年時代」に好きだったフィギュアと「大人」になって好きになった音楽を掛け合わせることで本当の超能力が使えて、UFOを呼び寄せられた、というエンディングになっています。
――やっぱりMVっておもしろいですね、とりあえずもう一回観たくなっちゃいました。今後のMVも楽しみにしていますね。
MVはこちらから
プロフィール
Maya Ongaku
2021年に江ノ島で結成された園田努、池田抄英、高野諒大による3人組バンド。2025年はUS、EU、CHINA、ASIAとワールドツアーを駆け巡り、『KEXP』の出演や、7月に『FUJI ROCK』、8月に『RISING SUN ROCK FES』へ出演。8月にWW Xで開催したライブを観に行ったときはオランダの音楽家、Felbmと素晴らしい演奏を披露してくれた。10月に新曲『Maybe Phychic』を発売。2026年1月に同曲のMVを配信した。
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