ファッション
手芸とクマとスポーツと。”あの頃”が詰まった〈ザ・ボックス〉の謎。【前編】
photo: Koh Akazawa
text: Toromatsu
edit: Kosuke Ide
2025年3月22日

フリマサイトで発見された、
「スキー板を担いだクマ」たち。
ハンドメイドのキルトワークが好きだ。ただし僕の好きなそれは、欧米のアンティークキルトなどではなく、小学生の頃に家庭科の授業で作るナップサックみたいな、「昭和」の子供っぽいもの。
「懐かしい」と感じる人も多いだろう。1980年代初頭(昭和50年代後半ごろ)、こうした手作りのキルトやパッチワークはちょっぴりヒップなアイテムとして若者に市民権を得ていたらしい。当時の若者向け雑誌(本誌『POPEYE』含む)を見てみると、テニスやサーフィンなどスポーツ好きの青年たちが、ガールフレンドにキルトで作ってもらったラケットケースやサーフボードケースなんかを愛用していたのが見てとれる。しかも可愛らしいアップリケが恥ずかしげもなくついていたりもする。あの頃の流行のウエストコースト(アメリカ西海岸)ファッションにそのテのものが交わっている、その何ともトゥマッチなルックスが無性に僕の心をくすぐるのである。
そんな偏愛から、フリマサイトでキルトワークのアイテムを検索していたら、独特のオーラを放つバッグに目を奪われた。淡いパステル・ブルーのキルト生地に、アップリケで縫い付けられた2匹の可愛らしいクマ。その何とも“ファンシー”なテイストはこれぞ「あの頃」の典型的なソレ……なのだが、 こいつは何かが「ひと味違う」ブツであった。
まず中央に縫い付けられた刺繍タグには〈THE BOX(ザ・ボックス)〉なるブランド名?が。こちらに顔を向けて歩いている2匹のクマは洋服を着ており、何やらスキー板のようなものを持っている。赤いトレーナーからチラリと見えるチェック柄の襟と袖。カラフルなキャップにレッグウォーマー。まさしく80’sプレッピーなスタイルのファッションだ。
しかもその至る所に、細かな英文字が描かれてあるじゃないか。〈SCOTT(スコット)〉〈HANSON(ハンソン)〉〈OLIN(オーリン)〉〈ELAN(エラン)〉……この字を見てすぐにピンと来た人は、「あの頃」に青春を過ごした世代の人であろう。これらはすべて、’80年代初頭に若者の間で大流行していたスポーツスタイルの人気ブランドの名前なのである。
往年のスキーブランドのロゴが盛り盛り。
さらによく観察してみると、〈エラン〉の板には小さなロゴマークが。レッグウォーマーにある「S」の字は〈サロモン〉のロゴだろう。〈オーリン〉の板にはアイテム名の「MARK V」まで縫い込まれてある。当時流行のブランド(言うまでもなく他社だ)のアイテムを、ロゴまで忠実に表現しているというのがすごい。まだ権利関係がそこまでうるさくない時代のものなのだろうが(何せ今から40年以上も前だ)、それにしてもあまりにもマニアックかつ手が込んでいる。
極めつけは、バッグの開口部に縫い付けられた「THE SKI BOY」の文字。これは1970年代末〜80年代にかけて本誌『POPEYE』で何度も使われた特集タイトル名だ。当時の本誌は、他にも「SURF BOY」、「TENNIS BOY」などの特集を繰り返し組んで、若者たちの間でスポーツをファッション感覚で楽しむブームを巻き起こしていた。このバッグはそんな時代の空気をビンビン感じさせてくれる。
インターネット上にほとんど情報なし!
魅惑のブランドの謎を追う。
瞬く間に〈ザ・ボックス〉の虜になり、さらに検索を続けてみたところ、意外とちょこちょこ出品されていてびっくり。すぐに「SURF BOY」と「TENNIS BOY」コンセプトのバッグも見つかった。
すっかりサーフィン仕様になったクマが身につけているアイテムは、〈ローカルモーション〉に〈KIKI〉、〈タウン&カントリー〉に〈オフショア〉、〈ブラッドショーハワイ〉に〈OP(オーシャンパシフィック)〉といった具合に、当時のサーフブランドが目白押し。

〈ローカルモーション〉

〈KIKI〉

〈ラリー・バートルマン〉

〈OP(オーシャンパシフィック)〉

〈オフショア〉

〈ダブウエットスーツ〉

〈ローカルモーション〉

〈KIKI〉

〈ラリー・バートルマン〉

〈OP(オーシャンパシフィック)〉

〈オフショア〉

〈ダブウエットスーツ〉
テニス仕様のクマも〈ウィルソン〉に〈セルジオ・タッキーニ〉、足元は恐らく〈ナイキ〉のスニーカー「フォレストヒルズ」と見受けられる。
〈ザ・ボックス〉のアイテムはバッグだけでなく、トレーナーやブルゾンなどのアパレルもたくさん見つかった。〈ライトニングボルト〉や〈ザ・スキー〉のスキー板が刺繍されたフリーストレーナーや、バックパッカースタイルのクマたちが並ぶコーデュロイコート、テニスプレイヤーのクマのアップリケがデカデカとついたコーチジャケットも入手。
これらを制作した人は、初期『POPEYE』時代のスポーツムーブメントが相当好きだったように思える。しかもそれらのアップリケの細かさは、一般的な商業プロダクトをゆうに超えたクオリティ。僕はますますこれを作ったデザイナーがどんな人物なのか気になって仕方がなくなり、居ても立っても居られなくなってしまった。しかし、なぜかインターネット上にはまったくと言っていいほど〈ザ・ボックス〉の情報が残ってないのである。ブランドタグに「SINCE 1979」と書かれているものもあるから創業年はその通りなのだろうが、店舗がどこにあったのか、デザイナーが誰なのかさえ全然辿り着くことができない……。
そこで、少々狂気的ではあるが、フェイスブックを用いて〈ザ・ボックス〉のことを書いている人がいないか探してみたら、何と当時ブランドと関わりがあったという檀上四門(だんじょう・しもん)さんという方に出会うことに成功。メッセンジャーでやり取りすることができたのである。その詳細は後編で――。
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