カルチャー
深遠なる「オサムグッズ」の深い森。
2021年8月3日
photo: Keisuke Fukamizu
text: Kosuke Ide
edit: Yu Kokubu
2016年に惜しくも亡くなられたイラストレーター・原田治さんの最後の取材記事は、おそらく同年12月号の『POPEYE(No.836 僕の好きなアート)」でのインタビューだろう。原田さんの絵画の師匠であり、ニューヨークで長年にわたり活躍した抽象画家・川端実について、1時間にわたって深い尊敬の念を込めて語ってくださった。
原田さんは1992年、ニューヨークにいた川端の元を訪ねて『KAWABATA IN NEW YORK』という私家版の本を出版している(稀少だけどめちゃかっこいい本なので古書で探してみて)。この取材旅行に同行しデザインも手掛けたのが、原田さんの盟友であり、『POPEYE』76年創刊時のデザイナーでもあった新谷雅弘さんだ。

原田さんの先生であり、ニューヨークで活動していた画家・川端実のアトリエや制作風景、インタビューなどを収録した貴重な一冊。
イラストレーターとしての原田さんのデビューは『an・an』創刊号(1970年)で、マガジンハウス(当時は平凡出版)とは縁が深い。もちろん『POPEYE』の表紙も手掛けている。




デビュー時からの原田さんの作品の数々の他、多くの対談やエッセイなども収録されたムック本。

70年代はオフセット印刷やグラビア印刷の普及とともに、イラストレーションが注目を浴びるようになった時代。子供の頃から好きだったという50年代のアメリカン・コミックやポップアートのフィーリングに溢れた原田さんのイラストは評判となり、またたく間に引く手あまたの人気イラストレーターに。そんな時期に誕生したのが、後に一世を風靡することになる「オサムグッズ」だった。
オサムグッズと聞けば、「懐かしい~!」「昔持ってた!」と盛り上がる人も多いはず(もちろんその大半は女性だろう)。「ジャック&ジル」や「ハンプティ・ダンプティ」などおなじみのキャラクターが描かれたトートバッグ、ノート、ポーチ、ハンカチ、お弁当箱 etc……あらゆる雑貨アイテムが制作され、80年代を中心に大ブームを巻き起こしたことはよく知られるとおり。
しかし、ざっくりひとまとめに「オサムグッズ」と呼ばれるアイテムに、大きく分けて2種類あることは、原田ファンの間では“常識”だが一般にはあまり知られていない事実かもしれない。まずひとつは、みんなもよく知る「ミスタードーナツ」の景品をはじめとした、企業からの依頼により原田さんが素材としてのイラストを提供したもの。この場合、商品の企画やデザインはそのクライアントとなる企業が行っている。そしてもうひとつが、原田さんが自ら企画からイラスト、デザインまで関わっていた「ダスティミラー」社が制作したグッズなのだ。

ダスティミラーは浅草にあった付け睫毛メーカー「コージー本舗」が母体となり76年に設立された、オサムグッズを販売するための会社。何とこのグッズを発案し、原田さんのもとへ企画を持ち込んだのは、当時コージー本舗に所属しており、現在はレゲエ専門レーベル「オーバーヒート」主宰である業界の重鎮・石井静夫(現・志津男)さんだというから驚きだ。とにかく進取の気性に溢れた人だったのだろう。「人気イラストレーターによるイラスト&デザインを主体にしたオリジナルグッズ」という、過去にない画期的アイデアによりオサムグッズは出発したのだった。
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ノート(1982年)。右下にはオサムグッズを代表するキャラクター「ハンプティ・ダンプティ」が。 -

便箋(1982年)、レターセット(1983年)。
こうして制作されたダスティミラー製のオサムグッズは、原田さんが自らデザインを手掛けたというだけあって、洗練された雰囲気をもつものが多い。少年時代から日比谷の外国人向け輸入生活雑貨ショップ「アメリカンファーマシー」で菓子や文具、薬などのパッケージを眺めるのが大好きだったという原田さんらしい、ノスタルジックでポップなデザインは今見てもとにかく洒落ていて、可愛いだけでなくどこかクールでもある。またプロダクトとしても細部まで凝ったものが多く、クオリティも高い。例えばノートなら、アメリカのアノニマスな大学ノート風のデザインで、角丸になっていたり、中に赤いグラシンペーパーが挟まれていたりと、実に芸が細かい! これらは原田さんが自ら素材まで指定するなど、こだわって作られていたという。


こうしたオサムグッズは80年代、キャラクターグッズなどを扱う「ファンシーグッズ」ショップを通じて販売され、大人気を博した。90年代初めには代官山にオサムグッズの直営パイロットショップ「OSAMU GOODS SODA FOUNTAIN」もオープンしている。
70年代後半~90年代ごろまで(実際に原田さんがデザインを手掛けていたのはこの頃まで)、毎月20~30種ほどの商品が企画・デザインされていたというダスティミラーのオサムグッズの総数は不明であり、数千点に及ぶと言われている。気合の入ったベテランコレクターでもその全貌は掴めていないというから、恐るべき深い森である。個人的にはやはり“ゴールデン・エイジ”である80年代のダスティミラー製のグッズに魅力を感じる。メルカリ&ヤフオクはすでにコレクターの“戦場”と化しているが、とにかく数が膨大すぎてコンプリートはまず不可能、ってところが逆に魅惑的だ。自分なりの観点でコレクションを作るのも楽しい。
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猫のキャラクター「キャット」をかたどったボタン。 -

携帯電話が普及する以前にはよく見られた、電話番号のアドレスブック。
ダスティミラー製のグッズかそうでないかは、ほぼすべてのプロダクトに「Produced by Dusty Miller」のクレジットがあるので見分けやすい。ただし近年に制作された復刻ものもあるので、オリジナルにこだわる人は注意を(ダスティミラー製の復刻グッズは、オープンしたばかりのオンラインショップ「SODAFOUNTAIN」で購入できる。要チェック!)。初期のものには「NEWYORK – TOKYO」と入っているアイテムもあって、それも何だかかっこよくていい(実際、コージー本舗はニューヨークに小さなオフィスを持っていたそう)。


安西水丸、秋山道男、松山猛、鈴木海花ら9人が執筆した、オサムグッズキャラクターを主人公にしたショートストーリーに、原田さんが挿画をつけた楽しいペーパーバック。
コレクターでなくても素敵なアイテムの数々に出会えるのが、2019年から全国を巡回中の展覧会「原田治展 『かわいい』の発見」(2021年8月29日まで神戸ファッション美術館で開催中)。マニア垂涎の超レアアイテムがずらり並ぶ展示はまさに眼福。未見の方はぜひ足を運んでみてほしい。深遠すぎる深い森に迷い込んで、出られなくなるかもしれないけれど。
文・井出幸亮


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